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孤独の食通 lonely foodie 地獄横丁

僕は孤独なC級グルメである。当たり前の人間が食べるものは決して口にしないのだ。今日はあの地獄横丁の裏路地で見つけた食堂に行くのだ。

途中で綺麗なオネエサンたちがボッタクリバーに勧誘してくるが、酒は飲めないし女性にも興味がないので目的の食堂に向う。

それにしても「腹が減った・・・」。

腹が減っては戦ができぬ・・・ん、戦? 決まっているだろう、食戦だ。
早足で歩いていると、路地裏のまた裏の路地に怪しい店を見つけた。

店頭には大きなトカゲの人形が置かれ、店内は薄暗い。ああ、これが今日の目的の店だ。店名はわからないが、大きなトカゲの人形が目印だと聞いている。間違いない。それでは店の中に入ってみよう。

店内に入ると、あの看護婦(師ではない)「ヘル・ナース」たちが座っている。給仕担当らしい。お客はいないようだ。

ヘル・ナースたちは食事をしているのだった

興味があるので、さらに店の奥に入ってみる。

おお、奥にも座席があって、満席のようだ。仕方がない、ヘルナースたちの席に戻ろう。席に座るとヘルナースのひとりが注文を取りに来る。

ヘル・ナースのひとりが注文を取りに来た。
「ナースキャップの赤丸は何なの?」
「あたし、戦争で死んだときの格好のままなのよ」
「戦争?」
「太平洋戦争よ・・・」
「ふーん」
「ご注文は?」
「あ、A定食にして」
「はい、ご注文ありがとうございます」

しばらくすると、今度はAIヘル・ドクター・ロボットがA定食を運んできた。おぼんの上に載せられたA定食というのは、大きな肉の塊だった。
「オマタセシマシタ エーテイショクニゴザンス」奇妙な日本語だが、ロボットだから仕方がない。

「こいつ、ポンコツなのよ」声がする方を見ると、いつの間にか僕の隣にへル・ナースのひとりが座っている。他のナースと違って顔が見える。
「どうしたの?」
「AIが失敗して、アタシを生成しちゃったのよ」

「ちょうどいい、この定食は多すぎるから、半分、君が食べなさい」
「あら、ありがとう。有り難くいただくわ」

それにしても大きな肉だ。何の肉だろう?
「知らない方が身のためよ」生成に失敗して現れたへル・ナースが笑う。

「そう、知らぬ方がよろしい」皿の上の肉が声を出した。

「ふん、食い物のくせにしゃべるとは生意気だ」僕はナイフで切り刻んでやった。ナイフで切るたびに肉は「ギャアギャア」と悲鳴をあげるが気にせずに細切れにしてやった。ひときれをフォークで口に運ぶ。
「ん?肉かと思ったら貝のようでもあり、魚のようでもある。少し生臭いが独特のうまみがある。いいじゃないか・・・」

料理を堪能したあと、僕は店を出る。店を出ると、ヘル・ナースたちが僕を見送ってくれます。
「あれ、着物? 白衣はどうしたんですか?」
「あ、AIの生成が失敗したのよ。何回やってもうまくいかないからこれでいいじゃないの」
「はあ・・・」

食堂を出ると、路地裏に光が差してきた。婆さんの書店前まで来ると、婆さんの姿がない。
「ああ、太陽が出たから婆さんは逃げたんな」
「それにしても、あの肉、美味かったなぁ・・・。今度はヘル・ナースたちがいない食堂に行こう。中華料理? いや、陽気なイタリアンでもいいな・・・」
ブツブツ呟きながらコートを着た僕は、書店裏の階段をのぼって行く。

つづく

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