夢の風景「九龍地獄横丁」
昔、PlayStationに「クーロンズ・ゲート」というゲームの傑作がありました。僕はゲームが苦手なので、常に初っ端で挫折してしまうのです。このゲームも同じでしたが、ゲームをプレイすることよりも、ゲームに同梱されている陰鬱な香港の九龍の街並みの絵と、登場するキャラクターたちの絵が気持ちが悪くて僕の好みだったのです。ゲームの冒頭も陰鬱な路地(だったと思う)から始まっていたのが素晴らしかったのですが、僕は冒頭から少しも先に進めなかったのです。
僕の夢の世界は、その記憶を下敷きにしているかもしれません。
地獄横丁は文字通り地獄へ続く道があると言われています。ただし、一方で天国があるか?というと、それ以前に「この世は地獄」ですから、あの世だって地獄に違いないのです。それでは地獄へ続く道は、もしかしたら天国ではないか? などと思うのです。
ある日、山頂の塔の塔主と名乗る人間から「2024年2月29日までに地獄横丁の上にある山頂の塔まで来い。永遠勤続、月給100万円」という電報をもらいました。そこで気の早い僕は、今日、塔主を訪ねるべく地獄横丁にやって来たのです。
地獄横丁は気が楽です。だって、常に夜なのです。明るさの中で自分の存在意味とか、周囲との関係性とかね、そんなくだらないことを考える必要もないからです。地獄横丁では街中を永遠に死ぬまで彷徨(うろつ)いてりゃ良いのです。お金?それは地獄横丁では必要ありません。屋台街に座っていれば、知らぬ間に料理が運ばれてきます。対価を求める者もいません。皆、自分の料理を食べてもらいたいからです。料理する方の食材も知らぬ間に誰かが届けてくれます。もしかしたら地獄横丁そのものが天国なのかもしれませんね。
地図には「棺桶男」も掲載されています。
ああ、そうだ。婆さん書店の前にも新しい店ができました。八百屋です。食用の食虫植物や人の顔のような大きな芋などが並んでいます。
ヒトガタの珍しい山菜や野菜は、全身毛むくじゃらの「土津男(はにつおとこ)」が、東北の土津という地域から運んできます。
「最近は、焼き肉屋も評判なんだよ」書店の婆さんがお薦めの店を見てみましょう。
地獄横丁に新しくできた「焼き肉屋」です。熱源は何なのか謎ですが、奇妙なカタチの熱源が常に湯気を上げています。
焼き肉屋には、焼肉に使った肉の骨をもらいに来る「骨食らう女」も現れるそうです。
塔に向うには山頂まで登らねばなりませんが、残念ながら、僕はその道を知らないのです。あ、あの地図? あれには山頂までの道は書かれていません。あの地図は街の散策でさえ役に立ちません。書店の婆さんにも聞きましたが、「アタシにもわからないね」と、ひとこと言って店の奥に消えました。
地獄横丁を歩いていると、急階段を見つけました。「もしかしたら?」と考えて階段をのぼりました。
やっと、はるか山頂まで来ましたが、例の塔はありません。不思議なことに地上からはあれだけ大きく見える塔なのに、これほどの山頂にのぼっても塔は見えません。
下を見ると、ヘル・ナースたちが階段をのぼってくるのが見えました。これは逃げた方が良さそうですが、彼女たちを蹴散らして地獄横丁に戻ることはできるでしょうか?
つづく