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夢の風景「九龍地獄横丁」6
「30年前までは九龍地獄横丁は、超高層ビル街だったのよ」
「ヘル」のママは寂しそうに言った。
「ここは教会だったのよ」
「教会?」
「うん、世界統一強制洗脳教会の建物だったのよ」
「聞いたことないな」
「発祥地はムー大陸だそうよ」
「ああ、太平洋にあったっていう幻の大陸?そんな大陸の人間がいるわきゃない。作り話でしょう」
「そうかねぇ・・・」
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「これ、知ってるかい?」と言ってママがテーブルの上に置いたのはミニチュアだった。ミニチュアといっても、高さは60センチくらいあり、かなり大きい。人体模型の中に女子高生らしい2体が並んでいる。
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「何これ? プラモデル?」
「うん、孫が作ったんだけどね」
「人体模型とか店舗みたいになってますね。プラモの箱のミニチュアもある・・・あ、箱の中にはちゃんとプラモデルのキットが入っているね。こりゃ凄い」
「ふふふふ」
「お孫さんは?」
「死んだよ。ヘル・ナースたちに殺された」
「え、今はヘル・ナース除けスプレーがあるのに・・・お気の毒に」
「たまにこれを見て孫を思うんだ・・・。ああ、あんた、塔に行きたいんだろう?」
「行きたいというか呼ばれたんですよ。本当は行きたくはないです」
「でも、仕事になって、それで大金になればってね・・・」
「そうそう、そうなんです」
「黄泉がえりの坂をのぼるんだろう?」
「そうです。でも、邪魔ばかり入って・・・。あ、そういえばケーキもない!気を失ったときに誰かが持っていったんだ・・・」
「ふふふ、自分の運命を変えることは難しいんだよ。一朝一夕にはいかない。じゃあ、いいことを教えてやる」
「そんなこと言って、また僕の邪魔するんでしょう?」
「違うよ。このプラモデルだけどさ」
「あ、お孫さんの・・・」
「そのプラモデルを売っている模型屋に行って孫を連れてきてほしいんだよ」
「帰ってこないんだ」
「模型屋は双子の女子高生がやっているんだけど、そいつらに孫が惚れちゃってさ・・・もうひと月以上戻ってこないんだよ」
「困ったね・・・わかったよ。行って連れてくるよ」
「悪いね。連れ帰ってくれたら塔への抜け道を教えてやるよ」
「抜け道なんかあるのかい?」
「ああ、まともに黄泉がえりの坂をのぼっても辿り着けないからね」
「わかったよ。じゃあ行ってくるよ」
「頼んだよ」
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「婆さんの本屋から裏道に抜けられるのは知っているだろう?」
「うん」
「奥のダンスホールの前から隣町の土津に抜けられるんだよ」
「そうなんだ。じゃあ地獄横丁から出られるんだね」
「いや、土津も地獄横丁のうちさ」
「そうなんだ」
「とにかく行ってくるよ」
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「まだ横丁を彷徨っているのかい?」ケーキ屋の女店主だ。
彼女の噂を聞いた。
元秘密捜査官だったらしいが、酒癖が悪くて解雇されて仕方なくケーキ屋を開いたそうだ。
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「申し訳ない。和菓子屋の店主に欺されて気を失っている間にケーキも盗まれちゃうし・・・」
「あれはアタシが持ち帰ったよ」
「え」
「和菓子屋の店主とアタシは双子なんだよ」
「双子?」
「和菓子と洋菓子じゃ相性が悪いでしょ?」
「そうかな・・・」
「あいつは性悪なのよ」
喫茶店ヘルの店主に依頼されたことを言うと、
「怪しいわね。また欺されないでよ」
「わかりました」
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10年前に倒産するまで、地獄横丁の唯一の百貨店だった「地獄堂」の前を通り過ぎようとすると、ひとりの若い女性が立っていた。百貨店は廃屋になっているのにジュースの自販機はいまだに動いている。
「ジュース驕ってあげる」いきなり女性が話しかけてきた。
「え?」
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「ジュース?」百貨店の女性が屈託のない笑顔で僕を見ている。見覚えのある顔だが、思い出せない。
「先を急いでいるんです」と言うと、
「お兄ちゃん・・・」
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「あ」妹だった。高校生の時に交通事故で死んだ妹だ。
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次の瞬間・・・。
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「どうしたんですか?」
「え?」
気がついたらレオタード姿の女性が前に立っている。妹ではない。
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「サーカスへようこそ」
僕はいつの間にかサーカス小屋にいた。
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「また妄想だ。早く模型屋に行かなくちゃ・・・」サーカス小屋を出る。
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いつまでつづくんだ?