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【連作短歌】お風呂場の人魚


お風呂場で何か言ってた?鼻歌を歌っただけよ人魚みたいね


青い花は青ざめてるのか青が好きか杞憂をジョウロに入れて撒く朝


青信号待てど此方に来ないから赤い服着た私が行くの


ワンマン社長たまの弱音がかわいくてたぶん私はダメンズメーカー


街灯の影の先行くOLが振り返ることに十円賭ける


五月五日隣家の猫は布製の鯉に潜って乳歯を舐める



午前六時風呂場の中で湯の舟を漕いだ私に父の雷


牛乳の配達員をおしなべて戸田さんと呼ぶかわいいママン


今は昔になること知らぬ詰襟の群れが横切るとんびのように



ラジオネーム人魚姫さんこんにちは陸の仕事はそりゃつらいでしょう


新橋駅小石の数は罪の数チープな夢を酒席で吐いた


お風呂場の扉のガラスににじり寄り父母の会話に耳そばだてる


八月が過ぎて九月の鰯雲猫は静かに狙い続ける


イヤホンの向こうの清く澄んだ歌かたつむりへと巻き取られゆく


パトランプ通勤列車の窓に散り花火となってバラストに咲く


来年も家族で聖夜を過ごそうねことほぐ父の年の雪見る


かるたのか金の力でうさこちゃんのぬいぐるみを買い抱く、白い


お母さんあの人は戸田さんじゃないの戸田さんは間男と逃げたのかい戸田さんは妻子持ちだよ


妻と子があったとしても間男と逃げていいよなとせんべい齧る


海外で不幸に暮らす日本人の話を読みたいなるたけ多く


アイスより餡の和菓子が恋しくてだけどお供はカフェ・オ・レのまま


液晶の画面の裏は月の裏と同じで見えないこの場所からじゃ


ラジオネーム人魚姫ですアイドルの彼は「推し」じゃなく好きなひとです


クリスチャンの彼の恋人になれぬならマリアになりたいアントワネット


ラジオネーム人魚姫さん久しぶりアイドルの語源調べてみてね 


お風呂場の人魚のために水を張るパパがいなけりゃ死んでしまうね


三毛猫は四月四日も三毛猫のままで私は一つ歳とる


ケーキなら消費期限だね笑う社長歯の隙間から腐臭がしてる


海外に住んでいたんだいいですね、私?私はずっとここだよ。


ミルク売りの戸田さんが主婦から老爺になる世界で母は朝を迎える


うっすらと不幸を好む同僚の手首のあとを見ないふりする


チャイム前集金人と吸血鬼交互に立ってドミノができた


真実をお前も知れよ陰謀だ語る親父の奥歯の黒さ


おめでとう湯舟でチョコを齧る間に一年経ってたテセウスの私


お前はね男と逃げた淫売だ老母の虚言フォークの苺


隣人の猫は名無しのままだったヘップバーンの映画みたいね  


浴槽のへりに擦られるささくれは人魚の鰭の成れの果てかな


お風呂場であなたほんとに歌ってる?泣き声みたいに聞こえたけれど  


おめでとうホワイトチョコのプレートはずっと私がひとりじめなの


殺意はね赤色じゃなく白なのよ冷たく澄んだ憐れみの白


日本語を知らぬ貴方がピースする東京タワーはとおくのおしろ


某月の某日猫は縁側で蛆に喰われてぼろになってた


幸福でも涙は出るし不幸でも笑いは喉に絡みついてる


刑務所のめしのくささは目の前の父の息よりましなのかしら


作り置きのスープの腐るにおいから春に気づく朝虫が鳴いてる


シャワーヘッドざぶざぶざぶざぶありがとうみにくいあかを流してくれて


ちゃんと立てその一言から逃げるためトルコ風呂屋の人魚になった


越すならば京にしようと思いつついけず怖くて湘南にした


お鞄の刺繍の猫が素敵だわ見通すような目は怖いけど


ボトルシップ工場建てて日本語の手紙流す日本語読めない貴方へ流す


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