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100%フリーランス育ちの日本語教師が、関心0%だったアカデミックな世界に、ほんのちょっとだけ足を踏み入れてみたら、意識改革が起きたかもしれない件

フリーランスのオンライン日本語教師は、資格や経験に関係なく、誰でも始めることができます。始めること自体は難しくないですが、長期的に考えた時に、果たしてずっと一匹狼のままでよいのか?使える教科書や教授法などが増え、固定の生徒が増えたり単価があがったりする以外に、どんなキャリアアップがあるのか?生徒からのフィードバックだけで満足し続けられるのか?それが慢心につながって成長が止まってしまわないか?そんなことをずっと考えていました。フリーランスならではの課題があると思います。

自分のようにどこにも属せず、プラットフォームを使って個人で教えている場合は特に、実績・実力を客観的に裏付けできるものがありません。このため、大学や日本語学校に応募する場合、基本的にオンラインでの経験年数はノーカウント。何もやっていないのと同じ扱いです。(学校にもよるかもしれませんが)

研修を通じてお知り合いになった、大学や日本語学校や企業などで経験を積まれた先生たちに囲まれてみると、学校勤め経験ゼロの100%ピュアなフリーランスの自分は、異質な存在・珍しい生き物・何をしているかよくわからない人、と見られているような気が、しなくもありません。

しかし、実はアカデミックな研究の世界においては、もしかして、ひょっとして、立場も経験も何も関係なく、誰にでも対等な舞台が用意されているのではないかと、感じ始めています。心の奥底で何か感じていた、あるいは植え付けられていたほのかな「劣等感」みたいなものが、この舞台では全く関係ないかもしれない。日本語教育という1つのアカデミアの、ほんの砂粒ほどの一部をチラ見した程度ですが、自分の中で起こった意識の変化を記録してみたいと思います。フリーランスの日本語教師のみなさんを勇気づける何かになれば幸いです。


BEFORE:アカデミックな世界に対する思い込み

今まで、アカデミックな世界をろくに知らないまま、色々な思い込みだけを持っていました。以下、学会・研究会といったものに対して持っていた、自分の勝手な思い込み・イメージです。事実とそれなりに合っているもの、完全にずれているもの、なんとも言えないもの、いろいろ混ざっていると思います。

学会・研究会に対する思い込み

  • その道で研究をしている人たちのみが集まる、専門家集団

  • 研究で飯を食っている研究者か、大学教授、院生、博士などがほとんど

  • 話している内容が専門的すぎて、わからない

  • 凡人の自分にはまるで遠い世界・・・

研究活動に対する思い込み

  • 主に大学4年生、院生、博士、教授、職業としての研究者、といった特別なポジションの人たちが行う専門的な取り組み

  • アカデミックで真面目な研究と、いわゆるビジネスは、別次元の世界

  • 学会・研究会は真理を突き詰めるもの、ビジネスは効率よく結果を求めるもの

  • だから、ビジネスに関する論文とか、存在するとも思ってない

論文に対する思い込み

  • 文字が多すぎて、細かくて、結果に辿り着くまで読む部分が多くて、日本語ネイティブなのに全然読み進められない・・・(読破とか無理。読書好きなんだけど、おかしいな〜)

  • ななめ読みしようとすると、全く頭に入ってこない。逆に、ていねいに読みこもうとすると、なぜか眠くなる。文字で理解させようとしないで、もっと図とか使って直感的にわかりやすくしてほしいな・・・

  • お題がピンポイントでマニアックすぎて、なんか興味持てない・・・

  • 様々な研究成果が、様々な形で生かされ社会の役に立っているであろうことは理解。それが社会を発展させていることに心から感謝。しかしながら、私には論文の読解力がないので、研究成果のエッセンスを、教科書や教材などの製品に生かしたもらったものだけ、おいしく拝借させていただこう・・・

つまるところ、他人事。アカデミックな世界において自分がアウトプットする立場になるどころか、ちょっとインプットを拝借できれば御の字、という程度の遠い距離感でした。

意識改革をもたらしたきっかけ

きっかけ1. 研究会での発表機会を得た

某研修でご指導いただいた教授から、ビジネス日本語研究会での研究発表について、強く背中を押していただいたことが大きなきっかけです。以前の記事に書いた以下の勉強会終了直後、「せっかくのいい取り組みなんだから、発表しましょう」と。一緒に準備したメンバー一同、まさか研究発表のネタになるなんて、夢にも思いませんでした。

研究発表とは、必ずしも長々と論文を書くことだけではなく、資料1枚にまとめるポスター発表や、A4数枚程度の実践報告、ジャーナルへの掲載、などの形式もあることを、初めて知りました。そして、○○学会・○○研究会のホームページをあちこちのぞいて、なるほど、論文はハードル高いけど、それ以外にも発表のチャンスは意外に転がっているのかもしれないと思いました。

そのあと約2ヶ月をかけて、基礎の基礎の基礎からご指導いただきながら、有志メンバーで協力して要旨800字、予稿約1,300字、発表のパワポと原稿までチームで取り組みました。この過程では目が醒めるような気づきが多く、今まで「自分はまあまあできている」と思っていたことが、全然そうじゃなかったと思い知ることも多々ありました。結論を安っぽい言葉でまとめると、とにかく「すごく、おもしろかった!」です。自分でも驚きました。

きっかけ2. 「業績」の意味合いを知った

別の機会に、幹事グループで何かの話し合いをしていた時に、「ジャーナルとかに載ったら、業績になるから」というような発言を聞いて、「業績??いい記事を載せたら、ジャーナルが売れて利益が出るってこと??」と思ったことがありました。

ビジネスの世界にいると、業績といえば主に「売上実績」を指しますが、アカデミックな世界において業績とは「研究業績」、つまり論文発表などのこと。「査読(複数の専門家による厳しい審査の目)」をくぐり抜けた論文に価値がある、というこの世界での常識も、全く知りませんでした。「査読」とは何かChatGPTで調べたほどです。

今回出した発表は査読なしでしたが、発表に値するかどうかの審査はあり、通過しました。結果、日本語教師としては初めての、公に認められる「業績」を仲間と共に1つ作れたことになりました。日本語教育というアカデミックな業界で、これは小さいけど価値ある一歩と言えるかもしれません。

きっかけ3. 刺激的な本に出会った

特に要旨・予稿の作成を開始する上で、あまりにも基礎がなさすぎて何をどうしていいかわかりませんでした。要旨って?予稿って何?からスタート。何かインプットしたいと思い、密林を漁っている中で出会った本がこちらです。”論文の書き方”とか”アカデミック・ライティングの基礎”とかじゃなくて、『情報生産者になる』というタイトルがかっこいい。

この本には、ゼロから学ばせていただきました。形式張って堅苦しく見える論文のフォーマットには、きちんと意味があること。情報をインプットする(受け取る)だけでなく、アウトプット(生産)していくほうが断然おもしろい、などなど。上野千鶴子さんらしい、辛口で飾らない語り口で大事なことが語られていて、とてもおもしろい。久しぶりに、本にたくさん線を引きながら今まさに読んでいます。読み始めて早々、衝撃を受けた部分を引用します。

…だから情報生産者の立場に立つことを覚悟して消費者になると、情報の消費のしかたも変わってきます。この情報はどうやって生産されたのか?・・・その楽屋裏を考えるようになるからです。
 何より情報生産者になることは、情報消費者になることより何倍も楽しいし、やりがいも手応えもあります。いちど味わったらやみつきになる・・・それが研究という極道です。

『情報生産者になる』「はじめに」より 上野千鶴子  

極道かい!(なぜ極道というかは、本書でご覧ください)

AFTER:アカデミックな世界に対する現在の態度

研究会での発表準備にかけた2ヶ月ほどの間で、意識の変化がありました。変化の手前の「ゆらぎ」かもしれません。当たり前で無意識だったことに意識を向け、批判的な目で見ようとしています。これからの自分の人生に大きなインパクトがありそうな予感。

  • 論文を読むのは、まだまだ抵抗があるけれど、興味・関心のあるテーマをまずは1つ選んでじっくり読んでみようかな、と前向きになってきた。

  • たった1,300文字程度の予稿の作成と添削を何度も繰り返す中で、問いと結果が少しずつシャープに形作られ、研ぎ澄まされていく過程が、なぜか面白かった。ダイヤモンドの原石を切り出しているような感覚。

  • これまでの自分のドキュメンテーションは、かなり「適当」だったことに気がついた。用語の定義は曖昧で、「課題」とか「検討の余地あり」とか、政治家みたいな曖昧ワードも無意識に使っていた。それっぽく響いていればOKという感じで。中でも、接続詞はかなり適当だった(盲点)

  • 学会・研究会は、研究発表を通じて、その業界にメッセージを訴え、アクションを促す手段でもあるかもしれない。利用しない手はない。俄然、当事者意識が高まってきた。

  • 発表者の所属として「フリーランス」と書いても、誰にも何も言われない、きっと。中身で勝負。

片足の小指の先が、アカデミックのアにちょっと触れた程度で大げさなこと書いている気もしますが、こんな楽しそうな世界が垣間見れたことを、ささやかな興奮ともに記録に残したいと思います。

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