これだけできれば、あとは応用?!:OIP思考
本の朗読サービスAudibleのおかげで、通勤や家事などをしながら本を聞き散らかせるようになりました。時間がなくて本が読めない、の言い訳はもうできませんね。
本屋で立ち読みする感覚で、特にビジネススキル系や自己啓発系を色々聞きましたが、根幹となる『考え方、頭の使い方』の大原則はやはり、ある一つの法則に収斂されるのだろうと確信。これさえ頭に入っていて、どんな実践の場面でも思い出して活用できたら(ここが難しい)、最強だと思う法則を、私自身の言葉でまとめてみます。
OIP思考とは
情報が多いと頭が混乱する、物事を決めるのが苦手、何をどう進めていいか分からない、考え始めるとすぐ道に迷ってしまう・・・といった、迷子になりがちな場合にてきめんの、頭の使い方。OIP思考(オーアイピーしこう)と言います。
O:Output
(成果物、完了した時の状態目標、その活用のされかた)
I:Input
(現在地点、いま手元にある情報・材料)
P:Process
(手元のInputから、目標のOutputを実現するために、具体的にどのように進めるか。方法論。)
これは私の専売特許ではなく、30代前半で出会った同僚に、教えてもらったコンセプトです。この順番通り、物事のアウトプットから先に考えて、次に手元にあるインプットをよく確認して、現実的なプロセスを考えます。
全く目新しいものでも何でもありません。
説明するより、例を見ていただいた方が早いので、いくつか例を挙げます。
OIP適用事例1
【状況】
上司の指示でとある会議に同席し、議事録を書いてくれと言われた。
1時間の会議に参加後、議事録を作成し始めたが・・・
【迷いポイント】
・どこまで細かくかけばいいか分からない
(誰が何を言ったかまで細かく残すの?要点だけ書けばいい?その場合、要点って何?)
・どのフォーマットに書けばいいか分からない
(Word文書?メールで読める範囲?Powerpointでビジュアルも書く?)
そもそも上司の曖昧な指示も、曖昧なまま受けた部下も問題ではありますが、こういう状況になってしまった後に、現実問題としてどうするか。
Outputを明確にするための問いを立ててみましょう
★Output(成果物、完了した時の状態目標、その活用のされかた)★
Q. この議事録は、誰が見て、何に使うの?
上司に確認したところ、次のような回答でした。
・欠席者が、議論された内容を把握できるようにしたい
・決定事項を記録として残しておきたい
・次回までのタスクを、参加者が忘れないようにしたい
・誰が何を言ったか、細かい情報はいらない
そこで、Outputを以下のように設定しました。
【誰】定例会議の参加者(毎週出ているので、話の流れはわかる人たち)
【利用目的】欠席した時のキャッチアップ、自分のタスク確認
【内容】①主な論点と発言の概要、②決定事項、③次回までのタスク
【詳細度】忙しい参加者がさっと読めるように、箇条書きレベル
【形式】ちょっと長いので、Wordファイルにまとめる
【保存場所】参加者が全員アクセスしやすい場所
(例:ミーティング参加者が全員参加しているMS Teams チャネル)
【期限】来週までのタスクもあるので早めがいいが、内容のチェックもしてほしい →当日中に作成して上司に確認依頼 →会議の翌日中には公開
★Input(現在地点、いま手元にある情報・材料)★
Q. 議事録の材料は揃っている?
・先週までちゃんと議事録が取れていないので、雛形なし
・事前にアジェンダと資料が配布されていた
・会議中、手元でメモしていた
・不明な用語、○○さんの発言の意図がわからなかった
→上司に聞いて確認
★Process★
Q. どうやって作る?
Outputの設計に沿って、自分にとってラクで、相手にとって見やすく作る
まず、来週以降も使えるように、以下の項目で雛形を作る
主な論点と発言の概要・・・・アジェンダごとにまとめる
決定事項・・・何がどう決まったのか簡潔に
次回までのタスク・・・いつまでに、誰が、何を、どうするのか、タスク表にまとめる
その他、配布資料に書かれていたことは、重複して書かない。
参照する場合は、資料のページ番号と見出し名だけ書く。
OIP適用事例2
日本語教師としてもOIPは大活躍です。いわゆる「バックワードデザイン」です。学習者のCan Do(=Output)から逆算して、カリキュラム(=Process)をデザインしようということですね。
【状況】
新規生徒さんのトライアルレッスン。欧米の某国在住で、アニメをきっかけに日本語に興味を持ち、1年独学、2年間大学で勉強。自己認識ではN3レベル。今後の目標はN2。将来は、字幕なしでアニメを見られるようになりたいとのこと。
【迷いポイント】
日本語に限らず、語学学習において目標は曖昧になりがちで、安易に試験合格を目標とすることも多いです。例えば「N2取りたい」と言っていても、本当に取りたいわけではなく、実は「N2ぐらいになれば、日常会話はそれなりにしゃべれるんじゃないか」と思っているだけかもしれません。
ここでまた、
Outputを明確にするための問いを立ててみましょう
★Output(成果物、完了した時の状態目標、その活用のされかた)★
Q. 本人が心の中で求めている、具体的なCan-Doは?
どんなアニメが好き?(アニメのタイプによっても使われる日本語が色々・・・)
日本語が上手になったら、何ができるようになりたい?
(例:アニメが字幕なしで見られるようになりたい、etc.)(在日の方)日常生活で、どんな日本語を使う?どんな時に一番困る?
(在日の方)お仕事は?職場には日本人がいる?仕事のどんな場面で日本語が求められる?
必ずしも日本で働きたいとかではなく、吹き替えじゃないアニメを楽しみたいという、趣味の領域で極めたい人もいます。みんなが「会話を上手になりたい」とは限らないので、本人の望みをActionに落ちるまで具体的に聞いて共感するのが大切だと思います。結果、「N2合格」が、本人の本当の望みではないと理解できるかもしれません。
Outputが明確になったら、Inputの確認です。
★Input(現在地点、いま手元にある情報・材料)★
Q. 現在の日本語レベル、好みの学習スタイル、持っている教科書など
レベルチェックテストでいくつかの質問を投げかけるなどして、語彙・文法レベルなどを確認します。
持っている教科書、これまでの学習履歴、自習の方法などから、本人の嗜好性も聞けるといいでしょう。教科書通りの学習を「つまらない」と感じる人には、教科書を使わないか、あるいはおすすめ教科書の利点をしっかり説明する必要があります。耳からのインプットが得意な人、読む方が得意な人、とにかくたくさん話したい人、話したいけど間違えるのが嫌いな人など、色々な嗜好性もありますので、直接聞いて確認しましょう。
★Process★
Q. どんな学習方針?どんな授業にする?
目標と現在位置が具体化すれば、自然と授業案がいくつか湧いてくると思います。初回は仮説で考えて、2回目のレッスン以降に徐々に最適化していけばいいと思いますので、えいやっと提案しましょう。例えば・・・
アニメ好きで、一定の日本語レベルで、「耳から入る」タイプの人だったら、アニメの一部分を切り出してディクテーションする
その中で出てくる単語や表現などを学んで、作文練習などする
読むのが好きだったら、アニメの公式サイトや原作者のインタビューなどから一部拾ってきて、読解教材にする
もし在日の方だったら、その方の目標と生活場面に合わせて設計(企業で勤めている方で、会議の内容理解に困っているということだったら、差し支えない範囲で議事録をお借りして読むなど)
真っ先に「Output」に視点が向くには
当たり前のことしか書いていないようですが、実は一番難しいのは、「Outputは何か?」という問いを真っ先に立てるということかもしれません。
「N2が取りたい」→「ではN2の勉強をしましょう」
が正解とは限らないのです。では、真っ先にOutputの確認に目が向くにはどうしたらいいか。これは考え方の癖がつくまで、訓練が必要なのではないかと思います。その癖をつけるために、繰り返し頭の中で復唱するとよいのは、
「それって、なんのため?」
言葉通り相手に聞くと結構いやな奴になってしまうので、、、あくまで頭の中で思い起こす問いです。
議事録を取ってほしい →それって、なんのため?
N2を取りたい →それって、なんのため?
相手は「してほしい」ことは言いますが、その「目的」は無意識に言わないことも多いですので、それを自ら取りに行けるといいでしょう。
「それって、なんのため?」を問うた結果、「○○が、×××な状態になること」と明確にイメージできるまで確認できたら完璧です。
OIP思考が体に染み込んでくると、どんな状況にあっても、落ち着いて対処方法を考えられるようになります。起こっている出来事を、俯瞰できてくるようになります。本にもならないほどの当たり前のことですが、改めて心に留めて活用いただければ幸いです。