政治家「小池百合子」の次の一手はこれだ。
6月1日、東京都議会が始まりました。いつもなら、こんなに注目することはないのですが、私は、今回のこの日を指折り数えちょっとドキドキしながら待っていました。それは、永田町ではこの日が「Xデー」になると噂があったからです。
どんな噂だったかというと、一つは、小池百合子都知事がやりたくて仕方がなかったロックダウンを宣言するんじゃない?!ということ。
もう一つは、都知事が東京五輪・パラリンピックについて中止をブチ上げる?!というものでした。
私は、この所信表明演説で小池都知事が何を言うのか、気になって仕方がありませんでした。
でも、ふたを開けてみたら、注目の所信表明演説もオリンピックのことに言及する時間はごく短く、内容は菅総理が代わりに都議会に来て読み上げたとしても、全く違和感のなさそうな抽象的な言葉の羅列。
小池都知事の「安心安全な大会運営に全力を尽くす」には、正直いってガッカリしました。菅総理が繰り返す「安心安全」「全力を尽くす」が乗り移ったかのようなリフレインばかり。
これは、代表質問に都幹部が答弁する場面でも同様で、
「感染再拡大を防ぎ、安全安心な大会開催に向けて着実に準備を進める」を繰り返すばかりです。ここは国政でいうと霞が関の官僚が答弁しているのと同じ場面になるわけですが、こんなところまで国政と同じなのかと思うと、呆れたのと残念なのと、本当にガッカリ。
小池都知事は、自己アピールがとても上手いので有名です。オリンピック開催都市である東京都知事です。今こそ世界に名を売るこのビッグチャンス。この機会をアピールポイントとせず、ただ抽象的な言葉の羅列が続く所信表明なんて、ちょっと信じられません。
小池百合子都知事は、国会議員時代からその度胸の良さ、肝の太さはよく知られていました。
テレビ東京の看板ニュースキャスターだった40歳のとき、沢山の政党から立候補の誘いを受けた中で細川護熙氏率いる新党で立候補することを発表したのですが、その時の発言は後世に残る名台詞となりました。
「政治を変えるには大きな中古車を修理するのではなく、小さくても新車の方がいい」
小さな新党で立候補する理由をこう語り、キャスターから政治家への華麗な転身を初当選で飾りました。
国会へ来た時の服装はサファリルックでした。そしてその理由を語る姿は日本中のニュースで繰り返し紹介され話題となりました。
「国会には猛獣とか珍獣がいらっしゃると聞いたので今日はサファリルックで参りました」
注目を集める技術には舌を巻きます。聞かせて魅せて、印象を残す。
小池氏の言語力が際立っていること、そして抜群の魅せる力があることを知っているのは、他でもない当の本人です。小池氏は自分のことを「最高のプロデューサーで最高の女優」と言い切るように、アナウンサーから国会議員となり、真逆の風が吹く中で都知事まで登り詰めたのは、自分が発する言葉の影響力を技術として巧みに使いこなしてきたからに他なりません。
この意味において、実は今回の所信表明演説の中で、小池流に言葉は駆使されました。期待された「ロックダウン」や「オリンピック中止」の明言はありませんでしたが、言葉と魅せ方はやはりTHE小池百合子。それは、環境大臣だった時に「クールビズ」を生み出し、定着させた力を思い出させるものでした。
「三密」から「三徹」へ
「開催への不安を感じる声は承知しています」と、国民の声を拾いあげた印象をつけた後は、こう言い切りました。
「安全安心な大会運営が最優先なのは言うまでもなく、とりわけ実効性のあるコロナ対策は重要になる。そのため来日人数の削減の徹底、行動管理・健康管理の徹底、医療体制見直しの徹底。この〝三徹〟の考え方のもと関係者とともに対策の具体化を進めている」
知事の職責の枠を超えた、まるで総理大臣かと思われる発言でした。
小池百合子流 言葉の操縦法
昨年3月の新型コロナウィルス対策の記者会見で、小池都知事は近づこうとする記者に両手を広げ「密です」としたパフォーマンスは今も印象深く記憶に残っています。これを見た瞬間、私たちは「密」という言葉を最新のキラーワードとして記憶しました。そして「密」を避けるという常識が、この瞬間から新たに暮らしに入り込んだのです。その後この記者会見での小池氏の両手を広げたパフォーマンスがプリントされたTシャツが売られたり、SNS上では「密です」とソーシャルディスタンスを守るゲームまで現れたりしました。
そして今回の都議会での所信表明演説で初登場したのが「三徹」です。
「クールビズ」や「三密」と、今回の「三徹」が決定的に違うところは、これが行政側の心構えを表すキーワードだったという点です。自分たちが、来日人数削減、行動管理、医療体制の見直し、この三つを「徹底」することで、オリンピック開催を実現させるというものでした。
なぜ、行政の側である自らに矢印を向ける言葉を放ったのでしょう。それは、先の見えないコロナ対策を進めるにあたり、都民を納得させる成果を数字や期日などで明言して示すことは難しい。となると、都知事である自分が何をどんな風にしっかりやっているのかを示すしかないと考えたのではないでしょうか。「徹底する」をアピールするのが精一杯なのかもしれません。
次に、私が気になったのは、小池都知事の服装でした。
小池氏は、選挙でも、演説の場面でも、常にその場をアピールする服装で挑みます。2016年、東京都知事選挙。都議会に風穴を開けると立候補した小池氏のポスター写真。その服装術は見事でした。袖に「穴」が開いているのです。小首をかしげ、柔らかな表情を見せるなんとも涼し気な印象です。この時、自民党から推薦をとることができなかった小池氏が当選するとは誰も思っていませんでした。小池氏は、言葉だけでなくノンバーバル(非言語)のメッセージを作る天才です。
そして、この6月1日の都議会初日。所信表明演説をする都知事の服装を見た時、私はオリンピックへの並々ならぬ思いを見た気がしました。
濃紺の上着に、黒のインナー。これTOKYO2020のイメージカラーそのもの。自身の服装にもこだわって準備を重ねてきた開催地首長としての誇りと思いの強さが現れていると思いました。
この印象は、翌日2日の都議会での服装を見て、確信に変わりました。この日の小池氏は濃紺に白のドットがちりばめられている上着。まさにこれもTOKYO2020のイメージそのものではないですか。
この拘りをどう評価するかは意見が分かれるところでしょう。
■オリンピック実行の意思を示すことに姿も共に徹している
と見るのか、もうひとつは、
■オリンピックはできないと確信している。それでも、オリンピックのために用意していたスーツを都議会初日から着用し、自分がしてきた準備力をアピールする
緊急事態宣言は6月20日までです。もし宣言が更に延長となれば、その時こそ小池都知事はもう無理だとロックダウンを宣言し、五輪中止を表明するのかもしれない、とも思えなくはありません。
小池氏は、小沢一郎と共に新党開拓の道を歩んだ人です。「風が吹かないなら自分から飛び降りて風を起こせ」という小沢哲学は、小池氏の政治家人生の随所に現れています。
かつて、私が勤めていた議員事務所と小池氏の事務所は同じフロアでした。本会議の直前など、小池氏の乗るエレベーターに乗り合わせることがよくありました。狭いエレベーターの中で、小池氏はいつも目線を少し斜め上に向け、きりりと前を見て立っていました。遠くを見つめ少し怒っているような表情に見えることが少し不思議で少し怖く感じたことを覚えています。
少し先の未来を見据え自らを演出してきた策士・小池都知事は、次へのドラマをどのように描いてゆくのでしょうか。都議会議員選挙は6月25日告示、7月4日投開票です。この選挙期間中にオリンピック中止をぶち上げたとしたら、それは誰に有利に働くでしょう。小池氏が戦略を持たずに選挙に挑むはずはありません。
答えが出るのは、もう少し先の6月末あたりなのでしょうか。
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