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「常識」と「らしさ」を捨てて手に入れた「幸せ」

【お悩み相談お答えしますvo.5】

二十数年議員秘書だった彼女が転職を希望したのは、民間企業でした。40代後半で独身の彼女にとって、転職は生活を左右する一大事。相談にきたときの様子が暗かったのも当然のこと。でも、どうして今さら民間企業に転職したいのか、その理由が新鮮だった彼女の話です。

彼女は大学に在学中に選挙ボランティアをしたのがきっかけで、そのまま地元の議員事務所に勤めることになり、「国会議員事務所の事務員」が彼女の社会人のスタートラインとなりました。

その議員事務所には、彼女を引っ張り上げてくれた古参の男性秘書とは別に、いわゆるお局秘書さんがいました。地元の優良企業で社長秘書をしていた女性で、縁故で入ったツワモノです。

彼女がボランティアの女子大生だった時はお客様扱いでも、就職したとなると扱いが変わるのは当然。元ボランティア女子大生から事務員へと立場が変わったその日からお局様のいじめは始まったそうです。

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「非常識な人」と言われて

それでも最初は嫌味程度。嫌味は言われた側が気づかなければただの誉め言葉です。「あら、若いだけで人って価値があるのね。宜しくね」と言われても、本人が褒められたと思い込めば笑顔で「ありがとうございます!宜しくお願いします!(満面の笑み)」で終わり。言った方は拍子抜けして終わりです。今思えばそこで傷ついたふりでもしておけば良かったのだと言って彼女は笑いました。

でも、この事務所のお局様は強かった。彼女へのいじめは、新卒で入って2か月目の頃、事務所で二人きりの時に始まりました。

彼女の小さなミスを見つけては、「全く常識がない!」「非常識だ!」「常識を知らないでお給料もらって恥ずかしくないの」と「常識攻め」。辞めたいと思っても小さな町で他に就職先がそうそうあるわけではありません。

「常識がない」と言われた言葉が何度もよみがえり眠れない日が続きました。友人に相談しようと思っても「自分は常識がないから話せばもっと恥をかくだけ」と、誰にも相談できなくなっていたそうです。

鬱かも、、、

眠れない日が続き、出勤前のお化粧で、鏡の中の自分を見るのも嫌になっていたある日、国会の永田町事務所で欠員が出たことを知りました。彼女は藁をもすがる思いでその日に転属希望を出し、議員の即断で、その日のうちにお局様のいない永田町の事務所に移ることになりました。

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東京に行きたかった理由はもうひとつありました。大学時代に憧れていたサークルの先輩が彼女の親友と結婚したのです。何も聞いていなかっただけに青天の霹靂。おめでとうの言葉が言えないくらいショックを受けたそうです。そして親友の結婚を知った父親から、「お前も女なら女らしく、さっさと結婚しろ」と言われ、その言葉が脳裏に焼き付き、その時にもう地元には絶対に戻らないと決めたそうです。

永田町勤務で変わった価値観

永田町に来てすぐに彼女は「事務員」から「秘書」に格上げになりました。給料も上がり嬉しいことではありましたが、これは仕事の内容も格段と責任が重くなったということです。クビになったらアパート代も払えないと、とにかく必死で仕事に取り組みました。

その時ハッと気が付いたこと。それは、地元のお局様がもう既に全く怖くなくなっていたということと、永田町には独身でバリバリ働く女性が沢山いるという事実でした。自分の気持ちの変化と、見える世界の価値観の違いにとても勇気づけられたそうです。

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彼女は、お局様が怖くて耐えきれず即断即決でチャンスをつかんだところまでは良かったのですが、いざ東京に来てみると、生活のすべてが自分の給料が頼り。当たり前のことなのに、そこまで考えていなかった、と。苦笑してそう言う彼女も年齢は50代目前です。しかも希望の転職先は民間企業。

転職先は民間企業

民間企業を希望する理由はこうでした。
たぶん生涯独身になると思う。議員事務所に勤めているといえば聞こえは良いけれど、立場は「私設秘書」。今のままでは老後を過ごすことは難しい。なので、一生働ける職場に転職することに決めた、と。決意は固いようでした。
永田町は公設秘書であればそれなりの給料も出ますが、私設秘書は推して知るべし。月給は15万から多くても30万程度。給料が上がるという話もめったに聞きません。老後が心配になるのも当然です。

そこで、私は募集がきていた民間企業の話をしました。不動産投資の会社で、議員レベルに仕事が早い社長についていける秘書がいなくて困っている、と。

彼女はとても乗り気でしたが、心配なのは彼女にとって民間企業は初めてのこと。民間と議員事務所では、常識が違います。「議員事務所では選挙で勝つのが鉄則と同じように、民間は儲けるのが鉄則。でも、議員事務所と企業ではルールや常識が全く異なるから、そこの常識になじむことができるかがポイントかもしれませんね」

そういうと彼女は笑ってこう言いました。

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「鈴鹿さんと話していて、私、気が付いたんです。私は地元事務所から永田町事務所に移って『常識』を捨てることを学んだんだ、って。地元事務所で『常識がない』っていじめられて鬱になりました。でもそこを飛び出してみたらもっと厳しい『常識』と、それを意に介さず黙々と仕事に没頭するたくさんの女性に出会いました。その瞬間、お局様なんか全然怖くなくなったんです(笑)。常識って、誰にも叩かれないように小さく自分を縛ることですよね。私そんな上品なこと言って迷っていられる年齢じゃないってことにも気が付いたんです」

その瞬間、私たちは弾けたように大笑いしました。

そうよね、常識に縛られている場合じゃないわよね。だいたい「女性らしく」とか「あなたらしくしなさい」とか、誰かに言われたくないわ、余計なお世話よ、ってね。

私が笑いながらこう言うと、彼女も笑いながらハンカチを取り出し笑い涙をふきました。彼女が自分の人生を生きてきた、いろんな思いの詰まった涙でした。

「常識」とか「らしさ」とかは、何かを決めて進むときの決定的な要素になることがあります。それは年齢の常識から考えると誰もやらないよね、とか、これを選ぶのは女性らしくない、とか。迷っている時にそう言われるとそんな気もするし、批判されるのは本望ではないし、「常識」を選ぶのは至極合理的です。

でも、「常識」や「らしさ」は、誰が決めたルールなのでしょう。

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確かに、この常識の中にいる限り、世間的にはみ出すことはありません。その分、自分は小さくなりますが、それさえ我慢していれば、当たり障りなく日々を過ごすことはできます。でも、その中にいることで自分のどこかが少しでもザワザワするなら、一度常識を捨ててみることです。

「普通の人はこうする」「これが女性らしさだ」「あなたらしく生きればよい」と言われても、それをすることが苦しいなら、自分にとって良い選択ではないのです。

女性らしさ、男の子らしさ、社長らしさ等々、あらゆる「らしさ」は人を型にはめ込み、「常識」は人の行動を抑制します。

常識に従い続けて失うのは経験

姿と行動を型に合わせれば、楽に生きることはできるかもしれません。型にはまっていない人を批判する側に回ることともできます。でも、それと引き換えに失うのは、新しい経験です。挑戦して、チャレンジして、失敗することがない代わりに、そこで手に入れる経験値はゼロ。経験のないところには思い出も生まれません。

あなたの選択の自由を奪おうとする人を良く観察することです。まだ一歩も踏み出していないのに、自分が進もうとした先をあらゆる「常識」や「らしさ」で縛ってくる人は要注意です。それが有能な上司であっても、親であっても。

失敗は成功への道すがら

失敗したからといって何なのでしょう。生きているということは失敗するってこと。また何か見つけてトライしたら良いだけのことです。「成功者」とは、失敗しても上手くいくまでやり続けた人のこと。小さくまとまった世間体の人ではありません。

この元秘書の彼女は、転職して2年経ちました。今は、その会社の子会社を任され、先日私に「社長」の名刺を持って挨拶にきてくれました。彼女の成功は、常識を捨てたところから始まり、そしてそのチャレンジは今も続いています。

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