You Look Funny Today...
2005年6月22日の日記。
米国ヴァージニア州の片隅にある日系企業の現地法人で、日本人駐在員である「ぼす」の元、秘書兼通訳兼「やっかいごと よろず引き受け業」的な何でも屋さんとしてお仕事をしていた頃のお話。
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なんか、ヘンだったのである。
「ぼす」の帰国も直前に控えた、先週の金曜日。
最後の出張で「ぼす」が不在なのをいいことに、ちょっとはゆっくりできるかも、なんてのんきに考えていたワタシ。
ところが、突然飛び込んできた急ぎの英訳の仕事にそんな甘い目論見は無残にも打ち砕かれ、すでに週末気分で浮かれてる同僚を尻目にオフィスにこもりっきりで、PCのモニタとにらめっこ。
おべんと食べるのもそこそこに、「過負荷保護」だの「上位との保護協調」だの、日本語ですらまったくもってちんぷんかんぷんのコトバ達と格闘する。
だけど。
原語で意味を理解できないモノは、訳すコトはできない。なんとなくわかったつもりで訳してみても、原文以上にわけのわからない文章ができあがるだけだ。訳した本人が理解できないモノを第三者が理解できるはずもなく。自分自身のボキャブラリィの少なさを呪うワタシ。
いちいち担当者に専門用語の解説を頼まなくてはならないので、遅々としてなかなか進まない。ただでさえ、めんどくさがりの性格に加えて能力不足が災いし、ワタシの翻訳仕事は時間がかかるのである。特に今回のように、まるっきり畑違いで予備知識もなく、書き手の言いたいことがうまくつかめない場合には、なおさらだ。なかなか「英訳モード」のスイッチが入ってくれない。
とは言うものの、けっして翻訳仕事がキライなわけではないのだ。時として、まるでパズルのようにコトバがぴたっとハマっていって次々に文章が頭に浮かんでくる瞬間がある。最高に気持ちいい。だから、やめられない。
ただ、そんな瞬間はめったにやってきてはくれないわけで。ひとつの単語から色んなコトバを連想して、頭の中のあちこちの引き出しをひっかきまわして、いちばんぴったりくる組み合わせを選び出す。ところが、3秒前には最高だと思った訳文に納得がいかない。コトバをもういちど並べてみる。声に出して読んでみる。他のコトバと入れ替えてみる。悪態をつき、コーヒーをすする。この、くりかえし。
タイプしては削除し、貼り付けたモノをまた切り取り。そうとう煮詰まって、トイレ休憩に立った午後の3時半を少し過ぎた頃。鏡に映る、なんだか顔色のすぐれない自分の姿を見ながら手を洗う。
ん?
なんか、おかしい。なんだかよくわからないけれど、違和感がある。
なんだろ。…化粧のノリがよくないとか、口紅がはげてるとか、鼻の頭がテカってるとかそんなんじゃなくて、でも確実にどこかが変だ。しばらくじーっと鏡の中を睨んでいたのだけれど、違和感の原因に気づいて愕然とする。
だって。
眉毛、描き忘れてる!!!
今日に限ってアイメイクは気合を入れてばっちりなだけに、うすぼんやりとした眉毛とのギャップがすごい。同僚に教えてもらったキラキラ光る系のシャドウやら、睫毛がとっても長くなるマスカラやら、目元くっきりメイク全開なのである…。こんな中途半端でバランスの悪いメイクだったら、いっそのことスッピンのほうがまだマシかもしれない。
顔を隠すようにしてこっそりひっそり自分のオフィスに戻り、こらえきれずに仲良しの同僚の内線番号をプッシュする。もぅ、自分でも信じらんないわよーと告白するワタシに、電話の向こうでげらげら笑いながら同僚が言う。
“I thought you looked funny today but could not figure out what it was!”
(なんか今日のkumiどっかヘンだって思ってたのよー。でもどこがヘンなのかわかんなくって!)
“It was bugging me, but now it's all cleared! Eyebrows, right!!!”
(ずーっと気になってたのよー。眉毛だったのねー。あぁすっきりした!)
オフィスにこもりっきりで、ほとんど人と顔を合わせずにいた金曜日。厄介な英訳仕事を抱え込んで、結果的にはプラスだったのかもしれない......。