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Already Lunch Time...

2005年3月7日の日記。
米国ヴァージニア州の片隅にある日系企業の現地法人で、日本人駐在員である「ぼす」の元、秘書兼通訳兼「やっかいごと よろず引き受け業」的な何でも屋さんとしてお仕事をしていた頃のお話。
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いいかげんそろそろ堪忍袋の緒も切れかかっているのである。

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我が愛しの「ぽんこつ」君は行方不明でこそなかったもののオペレータのおねぇさんの対応には、ほとほと嫌気がさした。

せっかく現場にたどり着いたというのに、肝心のAAAのトラックは既に立ち去った後である。
(これまでの経緯は こちら から。)

これからいったいワタシにどうしろと?

転勤者送別パーティのケーキも買いに行かなくてはならないし、車を出してくれたナカガワ氏だって仕事に戻らなくてはならないのだ。

ふつふつと湧き上がる怒りをなだめつつ、なんとかおねぇさんに交渉してみる。立ち去ったばかりのトラックを即刻呼び戻してもらいたい、と。

"Hold, please."
(少々お待ち下さい)

そっけない一言の後は、延々と保留のメロディーが電話口から虚しく響き。まったくもって昨夜携帯電話の充電しといてよかったよ、と心の中で悪態をつきながらひたすら待っているとようやく保留音は止まり、オペレータのおねぇさんがワタシに言った。

"The drive is only 5 to 10 minutes away, and he said that he'd turn around and head back to the scene right away."
(お客様のいらっしゃるところからほんの5分か10分程のところにおりますので、すぐにそちらに向かうとのことです。)

もちろん、こう付け加えることも忘れない。

"Please wait at your vehicle. You must be present at the scene."
(お車でお待ち下さい。お客様には現場にいて頂く必要がございます。)

それはもう重々承知の上だ。ワタシがいなければ、例え「ぽんこつ」君が現場にいようともAAAのトラックはまた素通りしてしまのだろう。

路肩には雪が降り積もりナカガワ氏が車を駐車できるスペースがないので、とりあえず電話を切り、近くのアパートの駐車場で降ろしてもらう。ワタシは徒歩で「ぽんこつ」君に向かい、ナカガワ氏にはそのまま駐車場で待機してもらうことにした。

AAAのトラックは5分から10分ほどで戻ってきてくれる、ハズ。

膝まで雪に埋もれながら、何とか「ぽんこつ」君の元まで辿り着いたワタシは、雪おろしをしながらAAAのトラックを待つことにする。軽く、12インチ(=約30センチほど)は積もっている。数時間のうちに、よくもまぁこれだけ降ったものだ。今は小ぶりになったとは言え、まだまだ一向にやみそうな気配はない。スキー用の手袋していて、ほんとよかった。

.....15分、経った。

「ぽんこつ」君もようやく雪の中から姿を現し、とりあえず車内で手持無沙汰に待つワタシ。雪おろしをしていた間は身体を動かしていたためか外にいても特に感じなかったのだが、じっとしているといくら車内とは言え寒さが結構こたえる。ところが、ちょっとだけ暖を取ろうとエンジンをかけてみると、まさかの「ガソリン残量少ないですよ」ランプ点灯。

悪いコトは重なるものである。このままガス欠になったらますますシャレにならないのでエンジンは切っておくことに。仕方がない。ヒーターはお預けだ。
「マーフィーの法則」じゃぁないが

"If anything can go wrong, it will."
(うまくいかない可能性のあるものは、失敗する)

ものなのかもしれない。

でも。そんな風に達観できるほどワタシは人間できてない。何てったって現状は

Everything could go wrong, DID.
(失敗する可能性のあったもの全部、最悪の結果に)

ってな感じなのである。
悠長に待ってるコトなんて、無理。とにかく寒いし、お腹も空いてきた。

時計を見ると、さっきの電話から既に25分経過している。どうにもこうにも、こらえ切れず。AAAへ、リダイヤル。

あと、どれだけ待てばいいのだろう。訊ねるワタシに、オペレータのおねぇさんの機械的な返答。

"Let me check with the driver. Please hold."
(トラックの運転手に確認致しますのでそのまま少々お待ち下さい。)

再び保留のメロディーが電話口から虚しく響き。永遠に続くかと思われた保留音がようやく途切れた時、オペレータのおねぇさんはこう言った。

"I'm afraid we could't get hold of the driver, but as soon as we do, we'll let you know."
(あいにく運転手と連絡がつきませんでしたので、連絡が取れ次第また改めてこちらからお客様にお知らせ致します)

な、なんですと?

"Are you saying you don't know how much longer I'd have to sit in this freezing car waiting for the help? The last time I called, I was informed that the driver was only 5 to 10 minutes away. Well, it's been almost half an hour, but still no sign of your driver at the scene......Are you suggesting that I should freeze to death?"
(つまり、あとどのくらいこのクソ寒い車の中で待ち続けていなくちゃならないか見当もつかないってことでしょうか?さっきお電話した時にはトラックはほんの5分か10分のところにいるっておっしゃってましたよね。あれからもう30分くらい経つんですが、全然姿が見えないんですけど。......要はワタシに凍え死ねってことなんですかね?)

「感情的になったら負け」「感情的になったら負け」そう心の中で呟きながら、なんとか言い返してみるワタシ。するとおねぇさんは、あろうことかこんなコトを言うのである。

"Is there any place you can go and wait for the driver? Somewhere warmer, like a house, perhaps?"
(トラックが到着するまで、どこか別の場所で待機されては如何です?近隣のお家のような、暖かい場所で)

. . . . . . 。

"......Well, you are the one kept insisting that I'd have to be with my car. As a matter of fact, your driver came down here earlier but said he couldn't find me or my car, so he simply left. I'm afraid the same thing could happen again. You know as soon as I leave my car, he'll show up but turns around and leaves the scene because I'm not present."
(......車を離れるなって何度もおっしゃってたのはあなた方の方ですよ。そもそも車もワタシも見当たらないってことですぐに現場を立ち去っちゃったじゃないですか。また同じコトの繰り返しはごめんですよ。ワタシがここを離れた途端トラックが来て、でもワタシがいないからってすぐまた回れ右して帰っちゃうことになるんだわ、きっと。)

しかし。結局イヤミも皮肉も通じず、オペレータのおねぇさんは「トラックと連絡が取れ次第お知らせします」の一点張りとなり。埒があかないので、しぶしぶ電話を切ったワタシ。

時計を見ると正午を少しまわったところだ。

......賭けても、いい。

AAAの運転手、絶対今頃昼飯食ってる!!

ただでさえ空腹感も手伝ってイライラしていたところである。まだ見ぬドライバーの、温かいコーヒー片手にサンドイッチを頬張っている姿を想像してしまい、ますます増幅していく行き場のない怒り。加えて、早く会社に戻んなくちゃっていう抑えようのない焦燥感。

あー、もう。
どうしろっていうんだよ──────。

そろそろ我慢の限界に達した頃、「ぽんこつ」君の助手席側の窓をコンコン、と叩く音がした。

つづく
もうちょっとだけつづきます...


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