What Do You Thank for? 〜サンクスギビングにまつわるエトセトラ〜
2004年11月26日の日記。
米国ヴァージニア州の片隅にある日系企業の現地法人で、日本人駐在員である「ぼす」の元、秘書兼通訳兼「やっかいごと よろず引き受け業」的な何でも屋さんとしてお仕事をしていた頃のお話。
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感謝祭だったのである。
感謝祭と言っても秋の番組改編時に芸能人が番宣がてらクイズに答えたり体を張った挑戦をしたりするTVの特番ではなく。時期は近いけど勤労感謝の日とも違う。日本人にはあまり馴染みのない、この祝日。「サンクスギビング」と聞いてワタシの頭に浮かぶキィワードは
*七面鳥
*連休
*どこもかしこも休業日
*翌日の大セール
こんな感じだろうか。
THANKSGIVING DAY (サンクスギビング・デイ) こと感謝祭はアメリカでは毎年11月の第4木曜日。BLACK FRIDAY (ブラック・フライデー)と呼ばれる年間最大のバーゲンセールとなる翌日も含め、学校も会社も木金土日と4連休になることがほとんどだ。そしてこのお休みを利用して遠出した日本人駐在員の「ぼす」はレストランもガソリンスタンドもどこもかしこも休業か早仕舞いで途方に暮れるという「初めての感謝祭を過ごす外国人あるある」をモレなく経験する羽目になったりもする。
日本でいったらお盆やお正月のように、家族や親族一同が勢揃いして七面鳥の丸焼きや GREEN BEAN CASSEROLE (グリーンビーン・キャセロール。グリーンビーンとはサヤインゲンのこと。キャセロールはオーブンで焼くグラタンみたいな料理。とても美味。ワタシの好物。)、パンプキンパイやピカンパイなど、感謝祭の為の特別料理が並んだ食卓を囲むのである。
大勢で集まる場合は、それぞれ担当料理が決まっていて「私はマッシュポテト作っとくからヤムの甘煮は頼むわ」みたいなこともあるのだけれど、とにかく当日は朝から準備が大変。お節料理やお雑煮のように、各家庭ごとの味っていうのがあるのだけれど
女性陣はキッチンで大わらわ。一方で男性陣はリビングでフットボールの中継を見てのんびり料理が出来上がるのを待ってるというのが典型的な姿。
そして多少のバラツキはあるけれど、ディナータイムはたいてい午後の2時から4時くらいの間。
THANKSGIVING DINNER (サンクスギビング・ディナー) 、もしくは SUPPER (サパァ。晩餐。かの名画「最後の晩餐」の英語名は LAST SUPPER。ラスト・ディナーでは、ない)と言うので晩ごはんのイメージがあったのだけれど、なんでもかつては昼食が一日の食事のメインでがっつり食べていたらしく、いちばん大事な食事を DINNER とか SUPPER と呼んでいた名残りから、今でも感謝祭やクリスマスの御馳走を囲むことは例え午後の早い時間でも、「晩」じゃなくても、「ディナー」とか「サパァ」と呼ぶそうだ。
学生時代にその時々の同居人の実家に何度か御招待されたことがあったが、とにかくすごい御馳走の数々。食べて食べて食べまくる感じである。しかも、ひと月足らずでクリスマスもやってくるので
この時期はとにかく体重を増やしがち。年明けに「今年こそはダイエットを」と心に誓うアメリカ人が増加し、スポーツジムの会員数がどっとうなぎのぼりになる、というのもあながち嘘ではなさそうだ。
ワタシが知っている感謝祭の定番メニューは、招待して下さった各家庭で多少の差はあるものの、だいたいこんな感じ。
ROASTED TURKEY
ロースティッド・ターキー。七面鳥の丸焼き。勿論、メイン。これがなくては始まらない。ただし、焼くのにえらく時間がかかる。冗談みたいにでっかいスポイトを使い、途中何度も肉汁をかけたりしなくてはならないし、とにかく手間がかかる。当然ながら七面鳥の大きさと焼き時間は比例する。生焼けじゃ困るし焼き過ぎるとパサパサだし、なかなか大変。そして食卓で切り分けるのは家長の役目(たいていは「おとうさん」)だ。料理中はリビングでくつろいでいた「おとうさん」もこの時ばかりは張り切るのである。
MUSHED POTATO & GRAVY
マッシュポテトとグレィビィ。マッシュポテトはちゃんとじゃがいもを茹でて潰して作る家庭もあれば
ずるしてインスタントの粉(マッシュポテト・ミックス)を使う家庭も。グレィビィは、直訳すると肉汁だが、七面鳥から出た肉汁をスープでのばして味をととのえて、小麦粉でとろみをつけたソースのこと。これもずるして「グレィビィ・ミックス」を使うと楽ちん。
STUFFING
スタッフィング。詰め物。七面鳥を焼く時に、中に詰めておいたもの。これも市販の「スタッフィング・ミックス」を使うという手があるがパンを小さく切ってスパイスと一緒に詰めたり、お米を豆類と一緒に詰めたり、野菜を刻んだものを混ぜたりと、各家庭でさまざま。そして市販の「スタッフィング・ミックス」がなかなか侮れない。結構美味だったりする。
GREEN BEAN CASSEROLE
サヤインゲンのキャセロール。キャセロールとはオーブン料理のこと。耐熱容器にお野菜や肉類を入れ、上からソースをかけてオーブンで焼く。グラタンやドリアの仲間だとワタシは認識している。サヤインゲンのキャセロールだが、いちばん簡単な作り方は冷凍か缶詰のサヤインゲンに、市販のマッシュルームスープの缶詰(キャンベルの CREAM OF MUSHROOM が良い。薄めずそのまま使うこと。ホワイトソースがわり)を使い、トッピングはこれまた市販の「カリカリオニオン」を使ってオーブンに入れるだけのレシピ。勿論、生のサヤインゲンを買ってきて、茹でるところから始めてホワイトソースもきっちり作ったって構わないのだが、ワタシが知ってる限りでは、どこの家庭も市販の缶詰や冷凍食品を利用していた。だっておいしいし。
CRANBERRY SAUCE
クランベリィ・ソース。クランベリィは日本語でツルコケモモ。ラディッシュみたいな鮮やかな赤色をした直径1センチくらいの果実。でも、実際生のクランベリィを使ってソースを作っていた家庭は1軒しか知らないなぁ。たいてい市販の缶詰を使う。ジャム状になっていて甘酸っぱい。七面鳥につけて食べる。日本人の感覚だとお肉に甘いジャムだなんて違和感があるかもしれないが試してみると結構イケる。日本と違ってローストビーフとミントジャムの組み合わせとか、フライドチキンに葡萄ジャムとか、あと有名どころではハワイアンのハムとパイナップルの組み合わせとか、案外普通にフルーツと肉類を合わせている気がする。そうそう、鴨にはオレンジソースとか。
一度おかしかったのが、缶詰から出されたクランベリィ・ソースが缶詰の形のままで食卓に並んでいたこと。とっておきのテーブルクロスにお皿、クリスタルのグラスにシルバーのナイフやフォークの中で缶詰の形をとどめているクランベリィ・ソースがゼラチンのせいでプルプルしている様子はほんとうに異様だったのだが、そこの家庭ではそれが普通らしく、笑いをこらえているワタシを皆が不思議そうに見ていただけだった...。
CANDIED YAM
キャンディド・ヤム。ヤム芋の甘露煮。ヤム芋、もしくはスィート・ポテトを甘ぁく煮た料理。日本の薩摩芋と違って、とっても鮮やかなオレンジ色。生の芋から作る家庭もあるが、これも市販の缶詰を使うと楽ちん。
BUTTERED CORN
みんな大好きバター・コーン。ちゃんとトウモロコシを茹でるところから作っても良いが、缶詰や冷凍のコーンを使ってズルしちゃうことが多いかも。レンジでチンしてバター溶かして出来上がり。
TABLE ROLL
パン。バターロールだったり、バゲットをスライスしたものだったり。家庭のオーブンですぐに焼ける「パン生地」も売っているので焼きたてパンを楽しむことも。
DESSERT
デザート。パンプキン・パイ。アップル・パイ。ピカン・パイ。スィートポテト・パイ。チョコレート・ブラウニィ。ピーチ・コブラー。チェリィ・コブラー。アップル・コブラー。勿論サイドにはヴァニラ・アイスをたっぷり沿えて。温度差を楽しむデザート。これで太るなというのが無理。(ピカンはクルミに似たナッツ。アメリカ南部で採れる。クルミを楕円形にした感じの実。外観はクルミのようにゴツゴツしていない。縞模様がある。ホストファミリィの「裏庭」に沢山生えていた。)
ちなみにサンクスギビング・ディナーは BUFFET (ビュッフェ方式。バイキング。仏語起源。発音は バフェー) の場合もあるけれど、食卓できちんとテーブルセッティングをしたフォーマルな食事であることも多く、なかなか緊張する。テーブルマナーで気を付けなくてはいけないのは、人の前に置いてあるものを勝手に取らないということ。
例え自分の手が届く位置にあっても、隣の人に
Would you pass me some potato?
(ポテト、取って下さらない?)
Pass me salt and pepper, please.
(塩・胡椒、取ってもらえますか?)
とお願いするのがマナーである。
ごちそう。うまそう。そして何より忘れてはならないのは、例えあなたを招待してくれた相手が普段は敬虔なクリスチャンではないとしても、食前の「感謝の祈り」は確実にするであろうということ。
生まれて初めておよばれした感謝祭の食卓で、お祈りが始まる前に自分の皿に手をつけてしまって大恥をかいたのは何を隠そうこのワタシなのである...。
追記: 「サンクスギビング」とか「ブラック・フライデー」とか、いつの間にか日本でも耳にするようになっていてちょっとびっくり。...いつから???
そして「ぷるぷる」してるクランベリィ・ソースの画像を発見したので貼っておきます。