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学生を追い詰める「完璧な」就活

日本での就職を目指す外国人留学生をサポートする中で、彼らが抱える不安の大きさに直面することが少なくありません。日本の就職活動は複雑であり、初めて挑む留学生にとっては難解なルールが多いと感じるようです。情報提供が適切でなければ、逆に彼らを圧倒し、不安を煽ってしまうリスクもあります。



日本の就職システムがもたらす「怖さ」

数年前、留学生向けのオンライン就職相談会に参加した際、ある出来事が印象に残りました。登壇者は日本の就職活動の流れやポイントについて非常に分かりやすく説明し、私は「これで学生も安心できるだろう」と期待していました。しかし、相談会後に感想を聞いたある学生は、「怖くなった」と言うのです。

彼によると、やるべきことの多さや細かなルール、日本語のミスすら許されないような印象が自信を失わせたとのことでした。初めての就職活動で、多くの課題を一度に押し付けられたように感じた結果、気持ちが萎えてしまったのでしょう。これを聞き、私は「情報の伝え方次第で、かえって学生を追い詰めてしまうことがある」と痛感しました。


起業支援セミナーで感じたプレッシャー

その経験を自分自身の状況に置き換えてみました。起業を考えた際、私は創業支援セミナーに4回参加しましたが、終わるたびに「怖さ」を感じていました。ビジネス計画書の作成や銀行融資の相談、SNSでのプロモーションなど、効率的な「やり方」が提示されるたびに、「こんなに多くのことを完璧にこなせるのか?」というプレッシャーに押しつぶされそうになりました。

このように、セミナー講師が優秀であるほど、その内容は洗練され、合理的です。しかし、初めて挑戦する人にとってはハードルが高く感じられ、かえって自信を失わせる要因になることもあります。


自分事でなくなる危険性

情報量やノウハウの多さに圧倒されると、「自分事」ではなくなってしまう危険性があります。例えば、就職活動では、履歴書や面接の志望理由書を「マニュアルのコピー」で済ませる学生を多く見かけます。これは、自分の思いや考えを表現する余裕を失った結果と言えるでしょう。同様に、起業でも専門家任せにするケースが少なくありません。それでは、せっかくの挑戦が他人任せになり、主体性が損なわれてしまいます。


不完全な形から始める大切さ

こうした問題に対処するには、「不完全な形でも何かを始める勇気」を後押しすることが重要です。完璧である必要はなく、まずできることから一歩踏み出し、つまずいたらその都度修正していくことが結果的に最善の方法です。失敗はむしろ貴重な学びの機会であり、その都度自分に足りない点を確認しながら進めばよいのです。

私自身も、自治体の起業支援サービスを活用することで不安を軽減しました。留学生にとっても、大学のキャリアセンターやハローワーク、外国人就労支援の窓口など、頼れる機関が多数あります。これらの相談窓口を積極的に利用することで、学生の負担を軽減し、自信を持って次のステップに進むことができます。


まとめ

情報の伝え方次第で、相談者が受ける印象は大きく異なります。単に情報を提示するだけでなく、その情報をどのように使えばよいか、そして相談者が不安を抱えたときにどうサポートすればよいかを考えることが必要です。

日本での就職や起業は、新しい挑戦であり、容易な道ではありません。しかし、不完全な状態でも始めることを推奨し、支援の体制を整えることで、相談者が安心してその挑戦に臨める環境を作ることができます。相手の立場に寄り添い、小さな一歩を応援する姿勢が、支援者として最も求められる役割なのではないでしょうか。

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