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イングリッシュトラック留学生の日本でのキャリア支援ポイント

日本の大学には、世界各地から多くの留学生が集まります。特に英語トラックで学ぶ留学生にとって、日本でのキャリアを築くことは一筋縄ではいきません。ここでは、日本語が話せない留学生へのキャリア支援において難しいと感じる(けれども非常に重要な)ポイントをいくつか挙げてみます。


支援が難しいポイント

1. 日本語の問題


日本で就職するには、ほとんどの場合、日本語力が求められます。特にコミュニケーションレベルの日本語力が必要です。しかし、英語トラックで大学に入学し、授業も生活もすべて英語で行っている留学生にとって、日本語の学習は高いハードルです。さらに言うと、多くの学生は、英語すら母語ではありません。英語で行われる授業に加えて、第二の外国語である日本語を学ぶ時間を確保するのが難しく、結果として十分な日本語力を身につけることができない場合があります。日本での就職を選ばない場合でも、日本語を身につけないまま母国に帰国すると、留学の「成果」を証明するのが難しくなることが考えられます。

多くの大学では日本語の授業を提供しているのですが、多くの場合「単位にならない」自由参加型の授業で、それが災いしてか学期途中でのドロップアウトにつながっているようです。

さらに、この背景には、留学生の多様なバックグラウンドが影響している可能性もあります。英語トラックの学生は、日本語学校を経由して進学してくる留学生とは異なり、世界中のさまざまな地域(中東、アフリカ、南米など)から入学してきます。これらの国々では日本語や日本文化がまだ浸透していなかったり、日本に関する情報が十分に伝わっていない地域もあるため、日本語学習へのハードルは、日本語教育関係者が想像している以上に高いかもしれません。
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/guide/outline/data/files/5dt619/@@download/file

(参考)大阪大学 外国人留学生数(国別)2024年5月1日現在

2. キャリアの選択肢(日本・母国・第三国)


日本語を十分に習得しないまま卒業を迎える留学生は、日本だけでなく、母国や第三国(主に英語圏の国)という選択肢を考えることになります。初めから母国に帰る予定の学生も多いですが、卒業が近づくにつれて、日本での就職を考える学生もいるでしょう。これは自分でも予測ができないこともあります。つまり、タイミング次第で選択肢が変わることもあるので、支援者は柔軟な対応が必要になります。

しかし、多くの支援者(キャリアカウンセラー、就職相談室のスタッフ、外部のキャリコン、日本語教師、外部の就職エージェント)にとって、日本以外の就職のサポートはほとんど経験がなく、提供できるリソースも少ないのが現状です。支援者は、対応次第で、学生の選択肢を狭めたり、不安を拡大させる恐れもあることは心にとどめておかなければなりません。

3. 学生生活の充実


留学生にとって、国外での勉強や生活は人生やキャリアにおいて貴重な経験です。しかし、不安や分からないことが多く、毎日が「楽しめない」状態が続くと、その経験が将来「忘れたい過去」になってしまう可能性もあります。これは留学の目的を果たせないばかりか、日本に対するイメージを悪くする要因にもなり得ます。私たち教師や支援者は、留学生の「今」を充実させ、将来に役立つキャリアを築けるようサポートする必要があります。
留学生が将来どこで活躍するにしても、「日本で何を得たのか」というのはどこでも聞かれますし、一生ついて回ることのです。

具体的なサポート案


 ▶キャリアカウンセリング:留学生が自分の将来について具体的に考え、計画を立てるサポートを行います。これは大学の授業ですでに取り組んでいますが、いくつかの問題があります。

1.日本語ができない学生に日本語でカウンセリングや情報提供を行っている
多くは「やさしい日本語」を使用しています。ただし、日本語が不得手な学生にやさしい日本語でカウンセリングをしても、情報が十分に伝わらず、また自分の希望が適切に伝えられず、計画を実行に移すのが難しいです。英語トラックの学生には「英語で」カウンセリングを行う必要があると強く訴えたいです。
2.学生の状況を把握していない
日本語学校を経由して入学する「留学生」と、国から直接日本に来る「留学生」では、その性質が根本的に異なります。この違いを理解せずにカウンセリングを行うと、見落としがちな重要なポイントが多く出てきます。こうした背景の違いを把握することが、より効果的なサポートを提供するために不可欠だと強調したいと思います。

この課題の解決のために、現在、英語を使ったキャリアコンサルティングのロールプレイ会を実施しています。


 ▶メンタリングプログラム:先輩留学生や卒業生との交流を通じて、実際の経験やアドバイスを得る機会を提供する(英語で)。この方式を取っている機関をいくつか見てきましたが、これは留学生のモチベーションを上げるという意味では、日本人のキャリアカウンセリング以上に効果があると思います。同じ視点で話せるので、困難に感じる点が共有できるのが大きなメリットです。実際に、就職に関する相談は留学生は教師やキャリアカウンセラーよりも友人や先輩であることがデータでも明らかになっています。https://www.rieti.go.jp/jp/publications/rr/20r001_2.pdf

(参考)外国人留学生の就職支援の在り方に関する考察(P37)

一方で日本で活躍している英語トラックの卒業生は数も少なく、見つけるのが難しいので、大学側が意図的にマッチングがなかなかうまくできないという問題もあります。大学側が卒業前から学生と信頼関係を築き、卒業後も協力してもらう体制を作ることが重要だと考えます。

 ▶日本語学習サポート:日本語の授業だけでなく、学習アドバイジング制度を強化し、日本語力向上を支援することが大切です。現状では日本語の授業は豊富ですが、学習アドバイザーの数は少ないかもしれません。アドバイザーは、単に語学を教えるのではなく、学習者が自律的に学べるようにサポートし、学習過程を共に進む役割を担います。この役割はキャリアコンサルティングと共通しています。特に、学習初期のモチベーションが低下しやすい時期に、こうした支援が重要になります。課題は、日本に学習アドバイザーが不足していることです。また、英語でサポートできるアドバイザーはさらに限られています。これにはすでに資格を取得している英語圏のアドバイザーの協力が必要になるかもしれません(日本在住の方も多くいます)。加えて、日本語教師やキャリアコンサルタントの資格保有者が学習アドバイジングのスキルを身につけること、そしてさらに英語でのコミュニケーション力を習得することも、積極的に推進する価値があります。支援者に過度な負担がかかるように見えますが、新たな段階へ進みたい「成長型」日本語教師/キャリアコンサルタントにとっては一つのキャリアパスになるかもしれません。
https://kuis.kandagaigo.ac.jp/rilae/japanesecourse1/

(参考)神田外語大学 学習アドバイザー養成プログラム
日本語、英語それぞれでコースを提供しています

 ▶交流イベント:日本文化への理解を深めることで、日本での生活をより豊かにし、また、単に文化を学ぶだけでなく、イベントの参加者同士の交流を促し、その後の交流を継続する仕掛けを作ることも大事です。これは自然発生を待つのではなく、SNSなどのグループを作るなど、計画的に段階的に行っていくことも必要ですね。自治体や外部機関と連携するのもいいかもしれません。
ここで大事なことは「日本語が話せないとダメ」などの制限を作らないことです。スタッフの中にも英語話者を入れて、誰でもウェルカムな状態を作っておくことは必須です。

まとめ


これまで述べたように、英語トラックの学生を支援することは決して容易ではありません。膨大な時間と人材が必要となります。しかし、英語トラックの留学生は今後も増加すると予想されており、大学の制度の抜本的な見直しや新たな仕組みの構築が急務です。これらの取り組みを通じて、英語トラックの留学生が日本で充実した留学生活を送り、将来のキャリアに繋げるための基盤を築けるはずです。また、他国でも英語トラックのコースが多数存在するため、それらの機関との連携も今後期待されます。言語の壁やキャリア選択の課題に対し、私たち支援者がどのように貢献できるかを常に考え、実践することが求められています。

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