月収30万円は夢?日本の所得の現実と留学生が考えるべき現実とは
大学で留学生向けにキャリア授業を行っていると、彼らが日本の平均月収や初任給について驚くほど知らないことに気づかされます。「希望する月収はどのくらいですか?」と尋ねると、多くの学生が「30万円くらい」と答えます。しかし、実際の初任給の平均額は大卒で22万円前後、大学院卒でも26万円前後です。業種によって多少の差はあるものの、初任給は全体的にこの範囲に収まります。このギャップを知ったとき、学生たちはそれまでとは違う真剣な表情を見せます。収入は一般にキャリアの授業であまり触れられることはありませんが、学生にとってはすごく関心の高いことだということがわかります。収入がキャリアの一つの大きな指標であると考える人は少なくないからです。
さらにOECD(経済協力開発機構)のデータでは、日本の平均年収は42,118ドルで、調査対象国38か国中24位。OECD平均の55,420ドルを大きく下回り、韓国よりも低い水準です。この事実を聞いた留学生たちは、日本で働くことの現実をより深く考え始めます。(以下のサイトにグラフが載っています。下記の世界の所得比較のグラフを見せた時、クラスが文字通り「どよめいた」のを鮮明に覚えています。)
英語を話す留学生たちの選択肢
特に英語を流ちょうに話せる「英語トラック」の学生にとって、日本以外の国で働く選択肢は現実的です。OECDの中には、日本よりも賃金が高く、社会保障制度が充実した国がいくつもあります。そうした選択肢を示されて初めて学生は、「日本で働くことは自分にとって本当にメリットがあるのか?もしあるとしたら何なのか?」と自問し始めます。
実際、日本はアジアやアフリカの多くの国と比べればまだ高い給与水準にありますが、世界的な視野で見るとその魅力は相対的に低いといえます。それでも、日本での就職を考える価値があるのは、収入を超えた経験や学びを得られる可能性があるからです。
日本就職のメリットを考える
日本で働くことには多くのメリットがあります。一般的に考えられているメリットをいくつか挙げてみたいと思います。
日本国内のネットワークを築ける: ビジネスパートナーや友人、職場の人間関係を通じて、グローバルなキャリア形成に役立つ人脈が得られる。
日本語スキルが向上する: 日本語を活用して仕事をすることで、実践的な言語能力を高められる。
日本が強みとする分野の技術を学べる:日本には、自動車産業、ロボット工学、半導体、医療・バイオテクノロジー、鉄道技術、環境・エネルギー技術、さらにはゲーム産業など、世界に誇る数多くの先端技術があります。
これらの経験は、将来的に他国で働く場合や母国でキャリアを築く際に大きな強みになります。一生日本にいる必要はありませんが、通過点として日本での経験を積むことで、次のステップに進む準備ができるでしょう。
個人的に日本を選んだ目的を振り返る
そしてさらに重要なことは、「なぜ自分は日本を留学先に選び、就職の可能性を検討しているのか」を振り返ることです。これは外国人留学生が就職活動を進めるうえで非常に(最も)重要なことです。日本を選んだ理由は人それぞれでしょう。アニメや伝統文化への興味から始まり、技術力の高さや治安の良さに魅力を感じた人もいれば、日本の労働文化を学ぶことで将来のキャリアにつなげたいと考える人もいます。
「なぜ日本なのか?」という問いを再び自分に投げかけてみることで、就職活動の軸が見えてきます。この問いに向き合うことは、日本で働く目的を明確にするだけでなく、将来どのようにその経験を活かすかを考えるための第一歩です。
現実的な計画を立てる
重要なのは、自分のキャリアにおいて日本で働くことの目的を明確にし、それに基づいて現実的な計画を立てることです。「どのくらいの期間、日本で働くのか」「日本での経験をどう活用するのか」「収入面でのギャップをどう埋めるか」といった具体的な課題を考えなければなりません。
たとえば、「日本の企業で3年働き、次はヨーロッパや北米の企業に挑戦する」「大学院で学んだ後により高い知識を身に着けてから就職する」といった明確な目標をもつことで、日本での経験が単なるステップではなく、大きな意味を持つものとなります。
日本で働く選択を成功させるために
日本で働くことのメリットとデメリットを理解したうえで、現実的な収入や生活費と自分のキャリア目標をどう調整するかを考えることが大切です。また、学生時代に「日本で働く理由」をはっきりさせておくことで、就職活動やその後のキャリア形成がよりスムーズになるでしょう。
「収入」の話題は日本ではタブーのような扱いを受けていますが、それを隠さずにあえて持ち出すことで、具体的な将来設計を考える大きなきっかけになります。ぜひ、取り入れてみてください。