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外国人社員の日本語研修:スキルアップか経営視点か

日本で働く外国人社員に対する社内日本語研修は、その目的によって大きく異なります。日本語教師(またはキャリアコンサルタント)が企業の研修の設計を行う場合、その企業が「スキルを磨く」ことを主眼に置いているのか、それとも経営者視点を養うことを目的としているのかを見極めることが重要です。特に、就労年数が一定以上の外国人社員に対する研修では、この点をしっかりと区別することが必要です。多くの日本企業では、社員が「プレイヤー」として業務を行う場合と、「マネージャー」として経営的視点で考える場合が、時に明確に、時に曖昧に分かれており、それぞれの立場に応じた日本語が求められます。


プレイヤーとしての日本語研修

プレイヤーとして働く外国人社員に対する日本語研修では、業務遂行に必要な専門用語や実務的な言葉が中心になります。この場合、日本語研修はあくまで「スキルアップ」や「仕事の効率化」が目的であり、日常業務や業界特有の用語、報告・連絡・相談(いわゆる「ホウ・レン・ソウ」)に必要な表現力を身に付けることが求められます。例えば、営業職であれば「商品名」「契約書」「顧客対応」など、職場で使う言葉が増えていきます。また、事務職であれば「手続き」「書類」「会議」など、仕事の進行に欠かせない言葉を学ぶことが必要です。

そのため、こうした研修の日本語は、いわゆる「実務的な日本語」になることが多いです。内容は非常に具体的で、どうやって効率的に自分の仕事を進めるか、上司や同僚とのコミュニケーションを円滑にするためにはどのような言葉を使うべきかに焦点が当たります。この段階では、言葉の意味だけでなく、正しい使い方や、適切なタイミングでの言葉の選び方を学ぶことが求められるのです。

経営者的視点を養うための日本語研修

一方で、経営者的視点を養うための日本語研修では、より戦略的な考え方や、管理能力を高めることが目的となります。この場合、日本語の使い方も変わり、特に「管理」「生産性」「利益」「営業」など、会社全体を俯瞰するための言葉が中心となります。例えば、会議での発言や報告、プレゼンテーションにおいて、単なる業務の進捗報告ではなく、チームや部門全体の戦略を語るための表現が求められます。

また、指示をする立場に立つ場合、日本語の表現も変わります。例えば、部下や後輩に指示を出す際には、単に「これをやってください」と言うだけでなく、「このような理由でこれを行ってください」「これを実行することでこうした結果が得られるはずです」といった、目的や背景を説明する表現が求められます。こうした研修では、企業の目標を達成するために必要なビジョンを語れるような表現力が重視されることになります。

自分の立場を意識した研修内容の選択

私自身の経験を振り返ると、新卒で入った会社では、どちらかというと経営視点を身に着けるための研修が多かったように思います。そのため、仕事を進める際には常に「全体最適」を意識するように言われ、どのように部下を育てるか、チーム全体をどう動かすか、部門ごとの調整をどうするかなど、具体的なマネジメントスキルが磨かれました。外国人社員の研修と比べることはできませんが、少なくとも、「新入社員だから仕事だけ覚えればいい」というスタンスではなかったのは確かです。

研修内容の選択が今後のキャリアに与える影響

研修内容を設計することは、外国人社員のキャリアに大きな影響を与えます。プレイヤーとしてのスキルを磨く研修では、業務を着実にこなしていくための技術や知識が深まりますが、経営者的な視点を養う研修では、リーダーシップや戦略的思考力が培われます。日本語を学ぶという目的だけでなく、その社員が将来どのような立場で働くことを企業に求められているのか、どのような役割を果たすことを期待されているのかを企業や本人も交えて一緒に考え、それに合った研修を設計することが大切です。

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