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毎日連載する小説「青のかなた」 第53回

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「はい。パラオの絵を描いてほしいって祖母に頼まれているので、何枚かざっくりしたラフ画を描いて送っているんですけど……どれも『なんか違うんだよね』って言われてしまって」
「あっは。ダメなクライアントが言うやつじゃん、それ」
「そうなんです。クライアントが具体的な発注をしてくれないと、こっちは納品のしようがないんです……」
「なるほどね~。ねえ雨田、おばあちゃんに送ったラフ、私にも見せてよ」

 光は祖母に送ったラフ画のデータを緑にも見てもらった。ロングアイランド・パークの海やロックアイランドなどパラオの主要な景色を大まかに描いたものだ。それを見た緑は「あ~、こういう感じか~」と少し渋い顔になった。

「雨田が入社したばっかりのとき、私が雨田の描いたイラストを見て何て言ったか、覚えてる?」
「はい。覚えてます」

 光の描いた背景イラストを見た緑は「クオリティは高いけど、何となく寂しい感じ」と言った。「ゲーム画面の中で、視線が一番先に向かうのは背景じゃなくてキャラクターでしょ。つまり人間。でも、あなたの描く背景は人間がその場所に立つことを想定して描いてない感じがする」とも。忘れられない言葉だ。

「雨田の絵は、あの頃よりはずっとよくなったよ。でも、このラフたちを見ると、まだその感じは残ってるんだよね」
「さみしい感じがするっていうことですか?」
「なんていうか、無人島の景色みたいなんだよ。その国にも人がいて、生活があるでしょ。このラフからはそれが匂い立ってこないんだよ。たぶんきれいな絵に仕上がるんだろうけど、ガイドブックに載ってる写真と変わらないんだろうなっていうか。あ、ごめんね、仕事で描いてるものでもないのに」
「いえ……」

 そう返しつつも、心の中ではけっこう落ち込んでいた。緑は嘘やお世辞を言わない人だ。本当に感じていることしか口にしない。そういう人だとわかっているだけに、彼女の言葉は光の心に深く刺さる。

「風景だけだから余計にさみしいんじゃないかな。そこの国の人とかも描いてみたら?」
「そう……ですね」
「そうそう。雨田、それと似た話なんだけど、いっこ提案してもいい?」
「なんですか?」
「雨田さ、背景だけじゃなくて、キャラクターも描いてみない?」
「……キャラクター、ですか」
「そう。雨田、ゲームのアイテムとかは描けるじゃん。キャラだって描けるよ。ていうかね、今後もフリーランスでやっていきたいなら色んなもの描けるようになっておいた方が仕事取りやすいよ。間違いない。雨田さえキャラを描きたいと思うなら、私は本気で教えるよ」

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