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毎日連載する小説「青のかなた」 第111回
(111)
「もうすぐクリスマスだよ」
「……。え?」
「もうすぐクリスマスだよ! このアパートではクリスマスパーティーをするのがハウスルールだよ!」
「そうなの?」
「うん。今決めたよ」
「今かよ」光と風花はほぼ同時に言った。
「パーティーにはレイも呼ぼう。おいしいもの、たくさん食べさせてあげよう。プレゼントも用意して!」
思南は明るく言った。
「僕たちにはレイのお仕事は手伝ってあげられない。でも、彼がお仕事を離れているあいだ、楽しい気持ちでいられるようにしてあげられるよ!」
思南がにこにこと笑う。そのどこまでもやわらかい表情と声は、ルーの病気を知ってから暗澹としていた光をほっとさせてくれた。
「……うん、そうだね。そうしよう」
泣いている時間があるのなら、レイのためにできることがあるはずだ。それをちゃんと探したいと、そう思った。
風花の仕事が休みの日、光は彼女と一緒に買い物に出かけた。
コロールの繁華街に行き、スーベニアショップに入る。店内にはTシャツやギョサンのほか、高瀬貝でできたアクセサリーや車に貼るステッカーなどさまざまなものが並んでいた。
「パラオでギフト買うのって、意外に難しいんだよね」
店内を物色しながら、風花が言う。
「お店の数が少ないからさ、何を贈っても『ああ、これあの店で見たやつだ』ってなるわけよ」
「ああ、それはありそうだねー」
今日買うのは、思南が企画したクリスマスパーティーのプレゼントだ。参加者はアパートに住む三人にレイと朝之を加えた五人。それぞれプレゼントをひとつ用意して、それが誰に当たってもいい、という形式にするらしい。
予算が十ドルと限られている上に、五人のうち誰に渡ってもいいものを選ぶというのも、プレゼント選びのハードルを上げている。
「あ、これなんかいいんじゃない? ミルキーウェイの泥を使った美白美容液だって」
風花がそばにあったボトルを手に取って言う。
ミルキーウェイというのは、パラオの人気観光スポットだ。ロックアイランドの隙間にある内湾で、海底に白い泥が沈んでいるので、海がきれいな乳白色に見える。その泥には美肌効果があると言われているそうで、ボートでミルキーウェイまで行き、泥を体に塗りたくって遊ぶツアーはパラオ観光の定番になっている。
「美容液なんて使う人いるかなあ?」
光が言うと、風花は「レイは欲しがるかもよ」と言った。
「そばかすで悩んでるみたいだしね」
レイの名前を聞くと、胸がきゅっと痛む。朝之が言うには、光がドルフィン・ベイを訪れた翌日にルーは息を引き取ったそうだ。
レイはその後も忙しく働いているようで、あれから会えていない。