毎日連載する小説「青のかなた」 第149回
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「確かに、風花が生理のとき何となくわかるようになったかも」
「でしょ。私も光が生理のときわかるもん」
「じゃあ、僕が昨日トモのおうちでイチャイチャしてきたのもバレてるの?」
「まあ、おおむね」
「おおむね」
「日本人の言う『おおむね』は怖いよ~」
光の心のうちは、口にせずとも風花に伝わっていた。そう思うと、かなり恥ずかしかった。レイと「ぽこん」してからというもの、頭の中はふわふわしてばかりなのだ。気がつくと鼻歌なんか歌っているときもあって、風花からするとアホみたいに見えたかもしれない。
「このところの光を見てたら、なんだかしあわせそうだなって思ったよ」風花は言った。
「ちょっとアホっぽいけど」
「やっぱり……」
「でも、いいんじゃない? そういう相手がいるって、きっと楽しいことなんだろうし」
その他人事みたいな言い方が気になった。まるで、風花はそれを経験したことがないみたいだ。
「風花はそういう人いないの?」
「そういう人って?」
「なんていうか、一緒にいて気持ちがほわほわする感じの人」
「光、レイと一緒にいるとほわほわするんだ」
風花だけでなく思南もニヤニヤするので、光は顔から火を噴きそうになった。
「私の話はいいから……! 今は風花の話!」
「そう言われてもなあ……。私は、残念ながらそういうのはないよ。そういう、誰かを特別に思ったりするようなのは、たぶん一生ない」
「一生」という言葉で、風花の周りの雰囲気が変わるのを感じた。彼女がそこまで言うのには、きっと何か理由があるはずだ。光の考えていることが通じたみたいに、風花は話を続けた。
「この先、私が男の人と付き合うことはない。かと言って女性が好きなわけでもないから、パートナーを作ることはもうないだろうね」
「どうして、そう感じるの?」
「前に、少し話したよね。私の実家には、離婚して子どもを連れて帰ってきた姉がいるって」
光は頷いた。忘れもしない、はじめてスノーケリングに行った日に風花が話してくれた。姉と姪の存在で手狭になった実家を出たいというのが、イントラを目指すきっかけだったことを。
「姉が結婚したのって、まだ高校生のときだったんだ。学校の先輩と付き合ってて、その人の子どもを妊娠したの。私はそのときまだ小学校を出るか出ないかくらいだったから、姉はこれから旦那さんや子どもと一緒にしあわせに暮らすんだろうって思ったんだ。変だなって気づいたのは、ずっとあとになってから」