毎日連載する小説「青のかなた」 第5回
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中から「はーい」と声がして、扉が開いた。現れたのはアジア系の男性だ。百八十センチ以上ありそうな長身に、エプロンを着けている。
「レイ、ありがと。助かったよー!」
くせのある日本語で言ったあと、彼は光を見た。
「光さん、こんばんは! 思南(スーナン)です」
出発前にメールのやりとりはしていたが、顔を見るのはこれがはじめてだ。想像していたよりもずっと柔和な顔立ちをしている。つぶらな目は少し垂れ気味で、笑うといっそうやさしげになった。額にかかる程度まで伸ばしたやわらかそうな黒髪も、彼の雰囲気によく似合っている。
「Come in!」
思南に招かれて中に入ってみると、扉を開いてすぐのところがダイニングになっていた。大きなテーブルに料理がずらりと並んでいて、その隣に女性が立っている。よく日に焼けた肌に、さっぱりとしたショートカットの黒髪がよく似合っていた。Tシャツとショートパンツから伸びた手足は、子鹿みたいにすんなりしている。
「彼女はフーカだよ」
思南が言うのに合わせて、女性が微笑んだ。きっかりとした二重まぶたに濃い眉の、日本人離れした顔立ちをしている。肌の色が濃いので、笑うと白い歯が際立って見えた。
「玉城風花です。よろしく」
よく通る、はきはきとした声で風花は言った。
「風花はね、光と同い年だよ。ニジュウナナサイー!」
「ちょっと、スー。勝手にトシばらさないでよ」
風花はあきれたようなもの言いをしたけれど、その表情は笑っている。ずいぶん仲がよさそうだが、雰囲気から言ってカップルという感じではなさそうだった。
「光さん、お腹空いてる? スーはリゾートホテルで調理師をしてるから、どれも絶品だよ」
風花が言う。テーブルに並ぶ料理は食べ合わせこそあまり配慮されていないけれど、ひとつひとつが丁寧に盛り付けしてあって、とてもおいしそうだ。でも、よく知らない人と一緒にごはんを食べるなんて、ちょっと嫌だった。
「光の部屋はこっちねー」
思南が歌うように言いながら、リビングの東側にある一室へ案内してくれた。
入ってみると、八畳ほどの部屋にベッドと簡単な木製のデスクが置いてあるだけだった。殺風景だけれど、物が少ないぶん窮屈な感じがしないのがいい。
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