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毎日連載する小説「青のかなた」 第27回

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「レイさんもトレーナーなんですか?」
「いえ、獣医です」
「じゅ……?」
「トレーナーの仕事もしていますけどね」

 そう微笑むレイは、ものすごく失礼だけれど、とても獣医には見えない。白衣じゃなくてTシャツとハーフパンツだし、靴はパラオ住民の定番である漁業サンダル……いわゆる「ギョサン」だ。こんな動物のお医者さん、いるだろうか。

「行きましょうか。仕事の合間になってしまいますが、PDRを案内します」

 レイが言った。他のスタッフはもうオフィスからマリーナに移動しており、光とレイもそのあとに続くことになった。イルカたちはマリーナからボートで五分程度のところにある内湾で飼育されているらしい。
 マリーナの桟橋まで行くと海がよく見えた。この数日は部屋で仕事を片付けていたので、ちゃんとパラオの海を見るのはこれがはじめてだ。浅いところは明るいターコイズで、遠くに行くにつれて、深く濃いブルーに変わっていく。今は空にレースのような薄い雲がかかっていて、それが海の色を全体的に白っぽくしていた。ブルーハワイソーダにバニラアイスを落としたような、ミルキーな色の海だ。ガイドブックの写真で見た冴え冴えとした海とは違うけれど、これはこれでかわいい。
 パラオ人のおじさんが運転するボートが発進すると、エンジン音が大きく響き、隣の人の声も聞こえないほどだった。「毎朝これに乗るのは大変ですね」となんとか声を上げると、レイもまた大きな声で「そうでもないですよ」と言った。

「だって、ほら!」

 レイがボートの外を手で示す。どこまでも広がる海の上に、ぽこぽことマッシュルームのような小島がたくさん浮かんでいる。島はどれも植物で覆われていて、深い緑色をしていた。
「ロックアイランドです。パラオが誇る世界遺産!」レイがどこか誇らしげに言った。

「あの小島は珊瑚礁でできていて、パラオにはこれが三百ほどあるんですよ。その総称がロックアイランド。あの小島のひとつひとつに植物や鳥が生息していて、島の周囲では魚もよく育つから絶好のダイビングスポットでもあります」

 レイの明るい茶色の瞳は、イルカの話をしているときと同じくらいいきいきとしている。彼は毎日のようにこの景色を見ているのか。そう思うと、なんだかふしぎだった。
 フリーになる前……まだ会社員だったころに乗っていた通勤電車を思い出す。狭い車両にぎゅうぎゅう詰めになった乗客は、朝だというのにみんな疲れた顔をしていた。

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