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毎日連載する小説「青のかなた」 第34回

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 レイがすっと右手を高く掲げた。宣誓するようなポーズだ。それを見たエリライはくるりと体を翻し、プールの中央まで泳いでいく。スピードを上げて泳いだかと思うと、尾びれを強く振って、空中で高くジャンプする。エリライの上げた細かい水しぶきが、パラオの強い日差しを受けてきらきらと光った。
 ふいに、その水しぶきのずっと向こう――プールの奥の方に灰色のものが見えた。イルカの頭だ。プシュッと息継ぎをしたあと、また姿を隠すように、水の中に潜っていく。

「他にもまだイルカがいるんですか?」
「ああ、あの子は……」

 レイが言いかけたとき、スタッフの女性がレイを呼んだ。ベテランらしいトレーナーで、さっき梓を叱っているのを見かけた。

「またあとで話します」

 レイはバケツを持って、女性のところに駆けていった。エリライもそれを追うように水面を泳いでいく。光は海に目を戻した。さっき見たイルカは海の深いところにいるのか、もう影も形もなかった。


 朝の十時ごろになって、ドルフィン・ベイにお客さんを乗せたボートが到着した。台湾からのツアー客だということで、十五人くらいいる。イルカたちがジャンプするのをそばで眺めたり、触れたりしている。中にはライフジャケットをつけた状態で海に入り、イルカの背びれに掴まって泳いでいるお客さんもいる。みんな楽しそうだ。美しいパラオの海でイルカと触れ合い、イルカやパラオの自然環境についての理解を深める。そういう体験を求めて、彼らはここに来るようだ。
 光が任されたのは、フロートをデッキブラシで磨くというごく簡単な仕事だった。ブラシを動かす合間に、光はイルカやスタッフの様子を眺めた。梓たちトレーナーのハンドサインに合わせてイルカがジャンプするたびに、お客さんたちが歓声を上げる。梓の隣にはレイもいて、彼女と同じようにイルカたちにハンドサインを出している。彼は獣医だというけれど、トレーナーの仕事もするし接客もするようだった。今朝は魚の用意もしていた。それでも不満そうな様子はなく、楽しそうだった。
 午前中のお客さんが帰ったあとは、もうランチの時間だ。スタッフの昼休憩の時間はお客さんがいないので、ドルフィン・ベイはとても静かだった。イルカたちが時折水面に頭を出し、プシュッと音を立てて息継ぎをする。イルカは哺乳類だから魚のようにエラで呼吸はしない。頭のてっぺんにある噴気孔という穴で息継ぎをしているのだと、さっきレイが英語でお客さんに説明しているのを聞いた。

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