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毎日連載する小説「青のかなた」 第33回

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 エリライの大きく開いた口を覗き込んだあと、レイは首からぶら下げていた小さな笛を鳴らした。その音を聞いたエリライが口を閉じる。

「よし、今日もいい色だ。OK,good.good girl」

 つるつるとしたエリライのおでこを撫でながら、レイは言った。嬉しそうな顔だ。
 レイはそばにあったバケツから魚をいくつか取り出してエリライの口めがけて放った。エリライはそれを上手に飲み込む。「ぺろり」というよりも「つるり」という感じだ。イルカは咀嚼をしないらしい。

「ハンドサインでこちらの要望を伝えて、イルカたちがその通りにしてくれたら魚を与える。これがトレーニングの一連の流れです」
「さっき鳴らしてたその笛は何ですか?」

 光はレイが首から下げている笛を見て言った。レイだけではなく、イルカのトレーニングをしているスタッフはみんなこれを下げている。

「この笛は、イルカたちがこちらの要望の通りに動いてくれたときに『OK』の意味で鳴らすものです。犬のしつけで言う、『よし』かな」

 だから笛の音を聞いたエリライは口を開くのをやめたのか。なるほど、と光は思った。

「ハンドサインもこの笛の意味も、イルカたちは最初から理解しているわけじゃない。時間をかけて教えていくものです。イルカのトレーナーは日本では人気の職業みたいだけど、根気よく動物と向き合っていかないといけない、大変な仕事なんですよ。イルカとは言葉が通じないから、血色や瞳の輝き、体の動きとかで彼らの状態を判断しないといけないし。――ほら、見て」

 レイが指さした方向を見ると、別のスタッフがフロートの上に腹ばいになり、イルカの尾びれのつけ根あたりに何か細いものを差し入れている。その細いものはフロートの上に置かれた小さな機材に繋がっていた。

「あれはイルカの体温を測っているところです。体温計はお尻の穴から入れるから、ああやってイルカたちに仰向けになった状態でしばらくじっとしていてもらわないといけないんですが、それだって急にできるようになるわけじゃない。毎日のトレーニングでじっくり教えていきます。イルカのトレーニングはショーのためだけにされていると思われがちだけど、実はそうじゃない」
「トレーニングはイルカたちの健康管理の一環でもあるってことですか?」
「そう。それに、イルカたちを楽しませるためのものでもあるし、運動でもある」

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