毎日連載する小説「青のかなた」 第23回
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怪訝な顔をしていたのか、レイが「野宿じゃないですよ」と慌てたように言った。
「庭に離れがあって、そこを借りています。小さい部屋でキッチンがないから、食事はこの家で食べます。シャワーもね」
レイは手を洗ってくると言い、バスルームの方へ消えた。
「レイの仕事が早く終わったときは、みんなで一緒にごはんを食べるよ」トミオが言う。
「レイは家族みたいなものなんだ」
「もう一緒に暮らして長いんですか?」
「そうだね。スー、レイがパラオに来たのはいつだった?」
「うーん。僕とだいたい一緒だから、二年とちょっと」
「そう……。もっと長く一緒にいる気持ち。彼は僕よりずっと若いけれど、とてもいい友達」
バスルームの方から「がらごろごろ」と、レイがうがいをするのんきな音が聞こえてきた。帰宅するとちゃんとうがいと手洗いをするところが日本人っぽい。けれど、顔立ちや髪の色、それに滑らかな英語の発音は日本人っぽくない。なんだか不思議な人だなあ、と思った。
夕食を終えて、思南と光はアパートに帰ることにした。トミオやロシタに手を振って別れたあと、思南はそのまま車には乗らず、庭にあるプレハブ小屋のような建物に立ち寄った。屋根はトタンでできていて、湿気対策なのか高床式になっている。扉の横には大きな窓があり、網戸の向こうから部屋の中が見えた。ベッドの横のカウチで、レイがくつろいだ様子で本を読んでいる。思南いわく、ここがレイの住み家らしい。
思南がノックすると、扉を開けてレイが顔を出した。さっきシャワーを浴びていたせいか、髪がいっそうクルクルしている。マンガでよくある、火事で髪が焦げた人みたいな感じだ。
「レイ、今度、光のウェルカムパーティーをやろう。トモも入れて」
思南の誘いを聞くと、レイは「いいね」と笑顔を見せた。
「予定がわかったら連絡するよ」
思南とレイが立ち話をしているあいだ、光は小屋の中が気になって、つい覗き見してしまった。デスクの上には本がたくさんある。十冊くらい横に積んであるかと思えば、蝶々みたいに開いたまま重なっているものもあった。
壁には何かオーナメントのようなものかけられている。よく見ると、それはペンダントだった。壁に刺した画鋲に、革紐のペンダントがかけられているのだ。革紐の先には何か青いものがぶら下がっている。イルカだ。深い青色のガラスでできたイルカが、尾びれを上に向けてL字を描いている。
「何か気になりますか?」
光の視線を感じたのか、レイが言った。
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