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毎日連載する小説「青のかなた」 第112回
(112)
「……レイはあのそばかすがいいんだよ」
光が言うと、風花は「それ、本人に言ってあげなよ」と笑った。
「『レイのそばかす、いいと思う!』っていきなり言ったら、変な人みたいじゃない?」
「いや、タイミングは計りなよ。いきなり言うから変な人になるんだよ」
「でも、そばかすを褒めるタイミングってどんな?」
そんな感じであれこれと悩み、それでも結局ピンとくるギフトには出会えなかった。休憩がてら、光と風花はイタリアンジェラートの店に入った。パラオで唯一のジェラート専門店で、風花のお気に入りらしい。
「イタリアからきたご主人が開店したんだって。私は甘いものはそんなに食べないけど、この店のジェラートは大好き!」
店内に入ってすぐのところはカフェスペースになっており、赤と白が基調のフロアにテーブルと椅子がいくつか並んでいる。奥に行くと大きなガラスケースが置いてあり、色とりどりのジェラートが容器に入って並んでいた。選ぶのを迷ってしまうくらい、種類がたくさんある。
「うわあ、見てるだけでわくわくする……!」
光が言うと、風花はおかしそうに笑っていた。先に注文している客がいたので、ガラスケースの前に並んで順番を待つ。そのあいだも光の興奮は冷めない。
「ねえ、なんだかブルーシールを思い出さない?」
光は言った。ブルーシールは沖縄県内で展開しているアイスクリームショップだ。子どもの頃、母がよく連れて行ってくれた。
「チョコチップとか、ストロベリーチーズケーキとか好きだったなあ……」
「ああ、わかる」風花が言った。
「私は島パインココナッツと沖縄田芋チーズケーキだな」
「えっ、何それ。そんなフレーバーあるの!?」
「しに(とても)おいしいからね。あと琉球ロイヤルミルクティーも」
「えー! いいなあ、食べてみたい!」
こうして沖縄の話で盛り上がれるのが、なんだか嬉しかった。少し前までは思い出すのも怖かったのに。
さんざん悩みながらジェラートを選んだあと、店内のカフェスペースでそれを食べることにした。小さなテーブルに風花と向かい合い、二種類のジェラートが山のように盛り付けられたワッフルコーンにかぶりつく。光はパラオレモンとハイビスカスを選んだ。
「なんだこれ、おいしい……!」
ばかみたいな感想を言う光を見て、風花は「だはは」と笑っていた。
夢中になってジェラートを食べていると、店に新しいお客さんが入ってきた。日本人のカップルだ。
二人とも肌の色が白いところを見ると観光客だろう。ハネムーンかもしれない。二人で「どうしよう、全部食べたいね」と言いながらジェラートを選んでいるのが、なんだかかわいかった。