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毎日連載する小説「青のかなた」 第41回

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 いよいよ意識が遠くなって目を閉じたとき、何かが光の胸を押した。そのまま水に逆らうようにして、ぐぐぐ、と上に向かって力強く押し上げる。気がつくと、光は水面から頭を出していた。今まで水に浸かっていた肌が空気に触れると、体が酸素の気配を感じ取ったのか、勢いよく咳が出た。げほげほと何度も咳き込みながら気管の中の水を吐き出す。ようやく息が吸えるようになったとき、自分の体の下にあるものが何なのか気づいた。つるつるとした濃い灰色の、イルカの肌だ。一頭のイルカが、まるで浮き輪のように光の体を支えていてくれているのだ。

「光さん! 光さん、大丈夫ですか!」

 近くで声がした。レイだ。彼はほとんど飛沫を立てずにするっと水に入ると、犬かきをするみたいにして近くに来た。持っていたライフジャケットを光に渡す。
 レイが来たことを察したみたいに、光の体を支えていたイルカがすっと離れた。そのままどこかに泳ぎ去ってしまうかと思ったら、くるりと方向転換をして光に顔を向けてきた。真正面から向き合う形になってようやく、「あの子だ」と気づく。唯一、まだ名前を聞いていないあのイルカだ。相変わらずしんとした瞳で、光を見つめている。顔を見ていると、なんとなくメスだなというのがわかった。
 頭はまだ混乱しているけれど、溺れていた自分をこの子が助けてくれたのだということはわかった。体当たりしてきたのは、水の中でめちゃくちゃにもがく光を大人しくさせるためだろう。光が動かなくなったところで、水面に引き上げてくれた。

「ありがとう……」

 光の声が届いているのかいないのか、彼女は頷きもせず、どこまでも静かな表情でじっと光を見つめている。その瞳を見ていると、ふっと、頭の中で声が響いた。

 ――私がやるのはここまで。あとは自分で泳ぎな。

 彼女はスッと体の向きを変えると、光から離れていった。頭から滑り込むように水の中へと潜っていき、あっという間に姿が見えなくなった。


「本当にすみませんでした」

 光が頭を下げると、タオルで濡れた髪を拭いていたレイは「とんでもない」と体の前で手を振った。

「謝るのは僕の方です。危険な目に遭わせてしまって、すみませんでした」

 海から上がった光とレイは、まず真水で体を洗い流した。光の髪はまだ滴が垂れているというのに、レイの髪ときたらもういつものクルクルした爆発頭に戻りつつある。毛の一本一本が縮れていて空気を含みやすいから、乾くのも早いのだろう。


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