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毎日連載する小説「青のかなた」 第36回

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 光がカトウたちの輪の中に入って刺身を堪能していると、「楽しそうじゃん」と上から声がかかった。見上げると、背の高い男性と目が合う。日本人で、確か、今朝イルカのごはんづくりをしていたときにもいた人だ。よく日に焼けていて、わさわさと毛量の多い黒髪を押さえつけるようにキャップを被っている。服装はTシャツとハーフパンツで、足元は裸足だ。

「どうも。光さんだっけ?」

 人懐こい感じの笑顔を見せて、彼は言った。光は「はい」と頷く。

「俺は朝之(ともゆき)。PDRのネイチャーガイド」
「ネイチャーガイドって?」
「このドルフィン・ベイはロックアイランドの中にある施設でしょ。その立地を活かして、お客さんにパラオの自然について解説するガイドツアーもやってるんだよ。パラオ自然塾。よかったら今度参加してみて」

 朝之が言ったところで、今度はレイがこちらに来た。黒く塗られた重箱のようなものを手に持っている。

「お疲れ様です。これ、どうぞ」

 レイは光の隣に腰を下ろすと、重箱をひとつ差し出してきた。

「コロールにあるレストランのお弁当です。注文しておけばPDRのオフィスまで届けてくれるんですよ」
「光さん、パラオ語で弁当が何て言うか知ってる?」朝之が尋ねてきた。
「『ベントー』ですよね」
「なんだ、知ってたか」
「ガイドブックで読んだから」

 パラオには日本統治時代の名残が今もあらゆるところに残っている。レストランに行けば「ウドン」なる麺料理がメニューにあるというし、「オツカレサマ」もパラオ語として定着している。酒を飲むことは「ツカレナオース」と言うらしい。

「いただきます」

 光は重箱のふたを開いて食べはじめた。見た目は日本の弁当と大して変わらない。梅干しの乗った日の丸ごはんに、いくつかのおかず。卵焼きも、甘辛く炒めた焼き肉も白いごはんによく合う。

「けっこういけるだろ?」

 光の食いつきがいいのに気づいたのか、朝之が笑った。

「パラオの飲食店ではプラスチックゴミを出さないようにって、この重箱でお弁当を出すんだよ」

 それは光も知らなかった。どうして重箱なんだろうと思っていたが、そういう理由だったのか。パラオは環境保護に力を入れており、珊瑚礁に有害な成分を含む日焼け止めを持ち込むと入国の際に没収されるらしい。その情報をガイドブックで読んで、光も出発の数日前に慌てて日焼け止めを探しに行ったのだ。
 けれど、ドラッグストアで売っているような市販の日焼け止めは、その多くが珊瑚の白化現象の原因となる化学物質を含んでいた。
 ダイビングやスノーケリングなどを楽しむ人びとの肌に塗られている日焼け止めから溶け出した化学物質が、そのまま周辺の海に滞留し、蓄積して珊瑚や魚、イルカなどの生物に影響をもたらしてきた。海を愛しているはずの人たちが、海を殺してきたのだ。

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