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毎日連載する小説「青のかなた」 第14回

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 滞在中に使うSIMカードを購入したあとは、食料品を買いに行くことにする。繁華街の中心部では二件のショッピングセンターが向かい合わせになっていた。ショッピングセンターといっても、外から見た限りでは日本の大型スーパーよりも少し小さいくらい。光は思南がよく使うという店に入ってみることにした。一階が食料品で、二階は衣料品や文房具、ちょっとした家電製品などが売っているらしい。

 一階の売り場に入ってみると、青いユニフォームを着たパラオ人スタッフが、商品を補充したりレジを売ったりとそれぞれの仕事をしていた。空港でも感じたけれど、パラオの人はみなよく日焼けしていて、ふっくらした体格の人が多い。
 入り口を抜けてすぐのところがお菓子コーナーになっている。見覚えがある商品ばかりが並んでいることに、光は驚いた。輸入したらしい日本製のグミやチョコレートだ。他にも味噌や醤油などの調味料に、真空パックに入ったたくあんもある。スナックのコーナーでは、日本製ではないものの「かっぱえびせん」によく似たものが売られていた。パッケージに大きく表示されている商品名は「Oishi(オイシー)」。これは間違いないだろうと思い、かごに入れる。
 野菜のコーナーもあるけれど、値段の割に鮮度が低い。しなびたカンクンや、ところどころ腐りかけた玉ねぎが積んである売り場を見ると、日本のスーパーのありがたさがひしひしと身に染みてきた。思南が「野菜と果物はお向かいのスーパーの方がいいよ」と言っていたのを思い出し、ここではあきらめることにする。

 とりあえずの水と食料を買い、思南の車に戻る。彼は誰かと電話していた。車の外で待った方がいいかと思ったけれど、思南が手招きしてくれたので、助手席に座る。

「うん。そうそう。トモにも、このあいだ話したでしょー。東京から来たアーティスト。今、WCTCに買い物に来てるよ」

 思南は日本語で楽しそうに話している。どうやら光のことらしい。

「うん。とてもいい子だよ。今度、一緒にごはん食べよう」

 そう話す思南の声は、普段よりもいっそうやわらかかった。アパートで光や風花と話すときとは、明らかに違う。

「うん。ありがとう、トモ。夜にまた電話するよ」

 思南は電話を切ると、ちょっと照れくさそうに光を見た。

「今の電話の相手……スーの好きな人?」
「わかる?」
「声がいつもと違う」

 そう言うと、思南は笑顔になった。嬉しそうな、好きなもののことを考えているときの顔。

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