毎日連載する小説「青のかなた」 第60回
光の気持ち……それも、なるべくなら隠しておきたい思いを、ここまでズバズバと口にするのは明人くらいのものだ。図星なのでいっそう腹が立つ。
「でも、このあと二人で話す約束したもん」
「おお、すごい進歩じゃないか。友達になれるといいな」
「友達……?」
「そうだよ。光、友達いないだろ」
「シツレイな……! いるよ、友達くらい」
「なんていう人?」
「……。それで? あき兄の方は元気でやってるの?」
「ごまかすの下手だなあ」
「ごまかしてないし。私の話ばっかりで、あき兄の近況は聞いてないから」
「俺の話なんかいいんだよ。どうせ変わり映えしないんだから。……それで? はるばあちゃんに頼まれた絵は進んでるのか?」
「それ、いま一番聞いちゃダメなやつ」
「なんでだよ」
「なんででもだよ」
「わかった。進んでないんだろ」
「ふん」
「はるばあちゃんとは連絡取ってるのか?」
「取ってるよ。このあいだもパラオの絵のラフを何枚か描いて送ったら『なんか違うんだよね』って言われたとこだよ」
「ダメなクライアントが言うやつだな、それ」
「でしょ……! 困ってるんだよ! クライアントが具体的な発注をしてくれないと、こっちは納品のしようがないんだよ、本当に!」
「クリエイターあるあるだな」
明人は大手のIT企業で人事広報の仕事をしている。彼の会社は事業のひとつとしてゲームの開発もしているので、光の仕事の内容もだいたいわかってくれている。そもそも、高校生の光に「ゲームの背景イラストを描く仕事がある」と教えてくれたのは明人だった。
「これは俺の予想だけど……」明人は言った。
「クライアントの中にも、具体的なイメージはないんじゃないかな」
「そうなのかな」
「うん。はるばあちゃんは、きっと光に自由に描いてほしいんだよ」
明人はトミオと同じことを言った。
「だからさ、いちいちラフ描いてお伺いなんて立ててないで、『これが私の描くパラオだ! どーん!』って出しゃあいいんだよ」
「……言うのは楽だけどさ」
「だよな」明人はにっと歯を見せて笑った。
「光も、まだパラオに行ったばかりだろ。その土地のことを知っていけば、描きたいものも見つかるかもしれないぞ」
「うん」
「でもさ、本当に嫌になったら、帰ってこいな」
「え?」
「絵が描けなかったらおばあちゃんががっかりするかもとか、そんなの考えなくていい。つらくなったら、いつでも帰ってこい。今なら特別に空港まで迎えに行ってやる」
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