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毎日連載する小説「青のかなた」 第67回

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 トミオはそう言うけれど、今の光が描くものとは比べものにならないような絵だ。猫なんて顔より手足の方が大きいし、ゆし豆腐に添えられている箸だって皿に比べると短すぎる。ものの比率といい構図といい、めちゃくちゃだ。
 それでも、今の光にはない、確かな力強さがあった。自分は愛されていると信じて疑わない、そういう者が持つ力強さだった。

「僕の一番のお気に入りはこれだよ」

 トミオが最後に見せてくれた絵は、今までで一番明るい色使いのものだった。夕暮れのピンク色の空を背景に、一人の女性の肩から上が描かれている。よく日に焼けた彼女は、背中まで伸ばした黒髪を肩に垂らしていた。顔の描写は決して上手ではないが、それでもやさしい笑顔をしていることがわかる。
 それは、まだ幼い光が母を描いた絵だった。

「……」

 息が苦しくなった。何か重いものを胸にぎゅうぎゅうと押しつけられているような、逃げ場のない苦しさだ。トミオの持っている画用紙を今すぐ奪い取って、その場で破ってしまいたかった。真ん中からふたつに引き裂いて、あとかたもなくなるくらい細かくちぎって、その破片が見えなくなるようにゴミ箱の底に突っ込んでしまいたい。いっそ燃やしてしまいたい。
 でも、トミオの前でそんなことができるわけもなかった。彼は光が喜ぶと思って持ってきてくれたのだから。
 この画用紙の一枚一枚が、光にとっては忘れたい記憶、忘れようと努力してきた記憶そのものだ。母の絵は特に。でも、トミオはそんなこと思いもしないだろう。

「……ごめんなさい。暑くなってきたので、日陰にいます」

 なんとか不自然にならないように言うと、その場を離れた。歩いているうちに胸の苦しさはどんどん強くなっていき、トミオから見えない場所まで行くと、光は昼に食べたものを吐き出してしまった。


 ペリリュー島からコロールに戻ると夕方になっていた。ロシタの車でアパートに到着した頃には日が沈んでいて、思南と風花はすでに帰宅していた。

「おかえり、光。ごはん食べる?」

 思南がにこにこして言うけれど、今はとても食べる気になれなかった。

「ごめんね。お腹空いてなくて。今日はもう寝るよ」

 部屋に戻ってすぐ、緑から電話が来ていたことに気づいた。通話アプリを使ってかけ直してみると、彼女はすぐに電話に出た。

「もしもし、雨田? ごめん、土曜日に。ちょっと急ぎで伝えたいことあってさ」
「何ですか?」
「私も昨日聞いたばっかりなんだけど、うちのプロジェクト、来年あたり新しいキャラクターを増やすことになったらしくて。キャラクター設定はもうできてるみたいだからさ、雨田がデザインのラフを描いてみたらどうかと思って」

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