毎日連載する小説「青のかなた」 第24回
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部屋の中をじっくり見ていたことに気づかれてしまい、ばつの悪い気持ちになりながらも、壁のペンダントを指さす。
「あのペンダント……イルカですか」
「ええ。近くで見てみますか?」
レイが扉を大きく開いたので、光は部屋の中に入った。デスクの上に山積みになった本は英語と日本語のものが混ざっていて、いずれも海洋生物の専門書が多かった。もしかしたら、レイは珊瑚礁センターかどこかで働いているのかもしれない。
光はペンダントを間近で見てみた。「気に入りましたか?」と後ろにいるレイが声をかけてきたので、光は頷いた。ガラス細工のイルカは体がずんぐりしていたり、不格好なことが多いけれど、このペンダントはとてもきれいだ。本来のイルカの体に近い感じがする。レイも、そこが気に入って買ったらしい。
「旅先で偶然見つけて、一目惚れしたんです」
そう話しながら、レイが隣に来た。壁にかけられているペンダントに目をやったあと、光に視線を移す。
「イルカが好き?」
レイの問いかけに、光は「はい」とためらいなく頷いた。
「どんなところが?」
「シルエットがあんなに美しい生き物は他にいません。それに……とても感情豊かでしょう」
「感情豊か?」
「はい。私の家の近所に水族館があって、子どもの頃からイルカに会いに行っていたんです。私が水槽の前に立つとそばに来てくれて、ガラス越しにかわいい声を聞かせてくれました。遊んでくれるときもあって、私が水槽の前を走ると追いかけてきたり。それに、私がよく会いに行っていたイルカは、『かわいいね』って声をかけると、嬉しそうに体を揺するんです。まるで『そうでしょ、そうでしょ!』って言っているみたいに。その子とおしゃべりするのが楽しくて、しょっちゅう水族館に……」
そこまで一気に話して、光ははたと冷静になった。
「イルカとおしゃべりなんて、ばかみたいだと思いますか?」
レイは首を横に振った。
「いいえ。思いません」
レイがとてもしっかりと言い切ってくれたので、光は少しだけ嬉しくなった。
「光さんはイルカのシルエットが美しいと言っていましたね。どうしてそうなったのか、わかりますか?」
「泳ぎやすくするため?」
「そうですね。イルカは海で暮らしているから、体つきも泳ぐことに特化しています。尾びれで前進して、胸びれで方向転換やブレーキをかける。背びれはバランスを取るため」
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