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毎日連載する小説「青のかなた」 第10回

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「光は沖縄のことよく知ってるね。行ったことある?」思南が言う。
「高校生のとき、修学旅行で行っただけです」
「そっかー。光、もっと食べる?」
「いえ、大丈夫です……!」

 ぼうっとしていると思南がまだ皿に何かを乗せてきそうだったので、光は慌てて食べはじめた。何も考えずに口に入れた煮卵を噛みしめた瞬間、はっとする。

「おいしい……」
「それは茶葉蛋(チャーイエダン)。台湾ではコンビニでも売ってるくらい、みんな大好きだよ」

 思南いわく、ゆで卵を紅茶とスパイスで煮たものらしい。日本で育った光にも食べやすい味だけれど、よく味わうと薬膳のような風味がある。パラオに来たはずなのに、なんだか台湾の夜市にいるような気分だ。

「これ、スパイスは何が入ってるんですか?」

 口の中のものを飲み込んでから尋ねると、「ダメだよー」と言われてしまった。

「光、このアパートは敬語禁止だよー」
「そうなの?」風花も初めて聞いたらしく、訝しそうな顔になった。
「うん。今決めたよ」
「今かよ」風花が言うのとほぼ同時に、光も心の中で同じことを思った。
「そう。このアパートにいる人はみんなフラット。敬語使わない。僕のこともスーって呼んでね。わかった?」
「わかり……わかった」

 なんとかそう返事したけれど、感覚的には慣れない。思南も風花もさっき会ったばかりなのだ。光の気持ちを察したのか、風花が「ゆっくりでいいよ」と言ってくれた。

「ここではリラックスするっていうのが、一番のハウスルールだから」
「そうだよー! おうちの中をきれいに、大事に使ってくれたら、あとは何してもOK! 日本と違って隣のおうちとは離れているから、ちょっとくらい騒いでもいいよ!」
「あはは」

 光が笑うと、思南もにこっと微笑んだ。

「光の笑った顔、はじめて見たよー」

「え……そうかなあ」
「うん。いいねいいねー! パラオでは、光がにこにこできるようなこと、たくさん待ってるよー」

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