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らいふいず……その1

【おーぷにんぐあくと】

6月の初旬

「何やってんだよ!お前ら」

全くと言っていいほど着こなせていないスーツに身を包んだ《へいじ》が口火を切る
学生時代は「三度の飯よりケンカ好き・ケンカは飲み物」と豪語していたコイツも
あの頃の自慢のリーゼントを今ではぺっちゃんこの横分けにして少なからず更生したようである

もとい…更生したように見えているだけである

「お前が言うかね?」

そう切り返したのは《かず》だ
コイツは当時のまんまの茶髪に白色のスーツ
何処かのお笑い芸人かホスト丸出しの格好だ
それでもサッカー選手としてはここいらでも名の知れた存在で現在は地元のJ3チームの要のひとりだ

最近の悩みは「ヘディングし過ぎて髪の毛が薄くなった」だそうだ

「それよりもアイツだよ」

二人の話しに割ってでる

僕のその言葉に二人は目線の先にいる新郎新婦…
特に新郎の方へ《最大限のやっかみの視線》を送る

そう、今は結婚式の真っ最中である

先に紹介した2人は同じ高校の同級生で、いわゆる《悪友(ツレ)》である
そして目の前の幸せいっぱいの新郎新婦もとりあえず《我々の恩人》であり

その恩人同士のおめでたい結婚式に何故僕達が揃いも揃ってこの席にアホ面晒して座っているのか?

そう考えれば考えるほど《結婚式》にはそぐわない《殺意》にも似た感情が湧き出てくる

【出会いは億千万の胸騒ぎ】

《2年4組…前田、木下、明智。至急職員室に来るように…繰り返す!2年4組…》

放課後、毎度おなじみのこの校内放送が流れた
マイクを握っている生活指導のハマノの声は段々と
語気が強まってきている

帰り支度をしていた矢先にコレだ

「お前ら何やったん?」
「逮捕おつ!」
「ご愁傷さま!」

教室のあちらこちらからお褒めの言葉をいただく、特に

「アンタ達早く行きなさいよ!」
「毎回毎回この声耳障りなのよね!」

このクラスの女帝である《かずみ》と《たまみ》の《かずたま・デンジャラスシスターズ》は

「村の危機を救うために生贄を差し出す村長」のような言動で近づいてくる

「どうするよ?」

「そりゃ君たち」

「逃げますか」

誰が誰ともなくそんなことを言い出して

「もちろん」

3人声を合わせて合意する

そして教室の時計を確認すると

「今から走って…靴に履き替え…うん間に合う」

《かず》が頭の中でシミュレーションした結果を伝える

「33、22、11、あくとぉー!」

その掛け声と同時に揃って教室を後にする

「ごめんよ!ちょっと道開けて」

そう叫びながら廊下を走り階段をかけ下りていく
そして、無事昇降口から外へ飛び出す

それを《かずたま・デンジャラスシスターズ》から情報を仕入れたのだろう…2階の職員室の窓から聞こえる

「お前ら!待て!戻ってこい!」

と言うハマノの声を背に校門の真ん前にあるバス停から待機していた発車ギリギリ前のバスに乗り込んだ

僕達の通う高校はこの街の郊外に位置してあり最寄りの駅からは20分もかかってしまう
そして駅からはそれぞれ電車やバスに乗り換えての家路になるため大体30分から1時間は必要なのだ

つまり

生活指導のハマノに捕まり小一時間も説教されようものなら

貴重なセブンティーンライフを無駄にしてしまう

そりゃ逃げるよ

見事に我々を救出したバスは終点の駅の東口ロータリーの停留所に着いた
もちろん、これからそれぞれの家に帰る訳では無い

いわゆる《溜まり場》に遊びに行くのである

駅の東口から右手数十メートル行ったところの古い3階建ての商業ビル

《第2ODAビル》

そこの2階の1室に我らの憩いの場

《喫茶TAKE・ハイセイコー・FIVE》

がある

如何にもここの主人の好みが丸わかりなネーミングだ

ここのお店は代々の高校生が通う喫茶店であり
《入学と同時にここに集い卒業と共に顔を出さなくなる》
という謎の風習がある

確かに学生服だらけのこの店に卒業してから顔を出すのは少し遠慮したくなる

その伝統のおかげなのか、このカウンター8人がけとボックス3席だけの小さい店の客が途切れることはない

とはいえ…高校生相手では単価がしれてると思うのだが、普段高校生の来ない昼間や日曜日はこの店を卒業した元学生達が集まり大人マネーを落としていく為、それなりの収益を上げているのだとか

だったらもっと手広くやったらいいと思うのだが…

マスター曰く

「バイトを雇う金も店を手広くする金も無い」

との事

世の中の経済の仕組みというのはよく分からないのだが
傍目にも儲かっているであろうこの店にお金が無いのは
ここのマスターがお店の名前の通り

《競馬》にお金を費やしているからなのだ

マスターはそのせいで独身彼女ナシと豪語していて

「お前らこういう大人になるなよ」

を身をもって教えてくれている《生きた学問》だ

そして…何よりここに高校生が集まる理由は

《コーヒー代が無ければその分ここで働け》

という代々つたわる店の方針というかマスターの優しいところにある

というよりは

「俺が競馬の予想をしている間は話しかけるな!コーヒー?自分で淹れろ!っていうかお前たちの誰かが俺の代わりに働け!」

というこの人の本音にあるのだと思う

それでもお金の無い高校生にとってこんなありがたい店は無いし、だから卒業したあとはその《お返し》にここでお金を使おうと思うのかも知れない

それにしても…

JAZZの名曲《TAKEFIVE》と名馬《ハイセイコー》を合体させただけのセンスはどうなのだろう

そんなこんなで僕達3人も毎回1杯300円のコーヒーを一人頭100円ずつ出し合い残りの2杯分は働いて返すsystemを活用させてもらう為
今ではここの立派な主要スタッフなのである

特に僕は3人の中の誰よりコーヒーを上手く淹れることが出来るので、保存可能なアイスコーヒー等は今では完全に僕の淹れたアイスコーヒーだし

《へいじ》は何故かヤンチャな見た目が近所の商店街の奥様方にウケて安くて良いものを仕入れてくるのでお店の経費削減のための重要買い出し要員だし

《かず》にあたっては根っからの人当たりの良さで悩める女子高生の相談相手として人気が出てこの店の新たな《ウリ》のひとつを生み出したのである

それでもコーヒー代以外のお金は貰ったことは無いし、それはこの店のルールとして成り立っているので反対に僕らも心地よかった

そして…

ハマノから逃げ切った僕らはいつものようにお店に顔を出した

そこで彼女との運命的な出会いをする

らいふいず…えんかうんたー(出会い)



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