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ちょうどいい幸せ ④

【街のケーキ屋さん】

「んー!どうしよう」

ボウリング対決から二日たった日曜日、ボクは彼女の家にいた
彼氏ヅラしてという訳ではなく、あくまでも修理工場から電話があってここに来ている

「いちおう動くけど、こりゃもうダメだな」

兄から譲り受けたポンコツに戦力外通告が受けた瞬間だった
そう告げた監督…ここの社長である彼女の父親は先日の《赤鬼》の影は微塵もない

そしてボクの放つであろう言葉をひたすら待っているのである

赤鬼は「ここの部品があーだこーだ」と話しながら上手いこと修理工場からここの中古車が沢山置かれている場所までボクを誘導してきているのだ

「やはり…買い替えですかね」

ボクは赤鬼とお母さんと彼女の笑顔の圧力に簡単に屈した

最初の「うーん!どうしよう」はボクのセリフでは無く、彼女の言葉なのだ

正確には「どれにしよう」なのだが…

ボクは小声で彼女に大凡の予算を伝えたのだが、何をどう聞き間違ったのか…

それより10万円ほど高い車を物色しているのだ

(え?もしかして彼女バックマージンが入るの?)

約束通り「彼女を好きになった」とはいえ、予算オーバーは勘弁して欲しい

でもそういう訳ではなく、彼女はボクの予算よりももう1つの条件《長く乗れる車》を重視して目利きをしているのだ

「やっぱりこれかな?」

そう言って、1台のクルマにアタリをつけた

結果

ほぼ運転手付きの「白のプレリュード」をボクは買う事になった

「今日はケーキ屋さんに行きます」

数日後、プレリュードのハンドルを握る彼女がこう宣言した

「誰かの誕生日なの?」

彼女の家族の誕生日であればケーキのひとつふたつ買うのはやぶさかでは無い、むしろまたお母さんの料理をご馳走になるのであれば喜んでお金を出す

「違います」

彼女は少し不機嫌そうに話す

「あれ?さっきから不機嫌っていうか、業務的な話し方なんだけど」

そう言いながらきっと女の子特有の《◎◎日記念日》みたいな事なのかと、彼女との出会ってからの日にちを数えてみる

それでもしっくりくる数字も曜日も浮かばない

「ケーキ屋さんに何か関係ある記念日なのかな?」

恐る恐る尋ねてみる

彼女は「ハァ…」とひとつ溜息をつく

そして

「この道走ってケーキ屋さんと聞いてピンとこないんだ?」

余計ヒントが解らなくなって来た

「ごめん…全然…えっ?この道って」

ひとつの出来事を思い出した

ボクがこの街に来たのは12月…

そして、それから何日か経ったクリスマスイブの当日

クリスマスイブのケーキ屋と言えば、年に一度の稼ぎ時である
この街道沿いにあるケーキ屋さんもそうだった

そこのケーキ屋さんのクリスマスはケーキの店頭販売ではなく、各家庭からの注文を受け、そのケーキを当日に宅配をしていたらしい

当然クリスマス当日はケーキ作りや各家庭への配送で店の中はごった返ししていた
そんな中、そこに手伝いに来ていたある女の人の2歳くらいの子供が、店を抜け出して車道にトコトコ歩いて出たのだ

夕方五時頃だろうか辺りはすっかり暗くなり街灯と通り沿いの店の灯りで道は明るく照らされていたが

ここは大型トラック等も頻繁に通る2車線の道なので、この子が事故に会うのは必然と言ってもいい

ボクはちょうどそこに居合わせた

その子を認識したボクは2車線の中央で車を停めるとハザードをつけ、車の外に出て大きく手を振った

奇跡的にスピードを出して通り過ぎる車は無く、数台の車の運転手もボクがしようとしている事に理解をしてくれた

ボクはその子を抱き抱えて車に戻ると、車をあらためて左端に停めた

そして、協力してくれたドライバーさん達に頭を下げると、その子をケーキ屋さんに連れていく

急に我が子を抱いた見知らぬ人を見て母親らしき人は慌てていたけれど、事情を話すとそこにいた全員に感謝の言葉をかけてもらった

あまりにもしつこく「後日、ケーキを届けさせて欲しい」と懇願されたので
会社と名前を伝え、その日はその店をあとにした
ご丁寧にも次の日には会社にショートケーキの詰め合わせみたいのが届けられた

もう半年も前のことだ

「あの日、私も手伝ってたんだよ」

彼女はそう言うとひだりの人差し指でボクの頬をグリグリと突っついた

「名刺見て取引先の会社の人だったからビックリしたよ」

「えっ?あの時?ケーキ屋に?」

「そうだよ?それなのに今までずっと集配で顔を合わせて来たのに全然気付いてくれないし」

どうやら僕達はずっと前に出会っていたらしい

「だったら…」

「言えよな!」
「気付けよな!」

二人同時にこう言う

そして彼女は続ける

「こんなに可愛い子を」

そして頬に刺した人差し指にさらに力を入れた



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