ちょうどいい幸せ ③
【デート・デート!・デート?】
『 おはようございます!』
何時もの時間に何時もの元気な声が聞こえる
しかし、その声とは裏腹に明らかに不機嫌そうな顔をしているのは判る
およその予想はついているが、あえて知らない顔をして彼女に近づく
『 昨日は本当にありがとう。助かったよ…』
『 私のプレリュード』
『 はっ?』
『 私のプレリュード擦ったりしてないよね?』
やはり気になるのはそこなのだ
代車とはいえ彼女が頭金を入れている以上、白のプレリュードは彼女の所有物でもある訳だ
『大丈夫だよ。それより昨日は本当に助かった。ご飯も、特にあのスープは絶品だったよ』
彼女の好物を褒めた事で少しは機嫌が直ったようだ
『そっかーそれは良かった』
『それで…番号はこれで良いのかな?』
ボクは上着のポケットからプレリュードの鍵を取り出し、キーホルダーに付いてある修理工場の電話番号を指さして尋ねた
彼女は頷くと『そっちも番号教えて』と紙とボールペンを手渡してきた
ボクは机の中の名刺ケースから1枚取り出し、裏に自宅の電話番号を書いて彼女に渡した
そして
『今度御礼がしたいんだけど。もちろんお家に…』
そう言いかけた時に
『あら!かおりちゃんにデートの申し込み?』
と事務員さんからの横槍が入った
この一言からの社内感染は早く…2分後には
再び《今日の6時に帯広駅前》で待ち合わせという構図が出来上がっていた
もちろん、彼女本人にも御礼はしたかった気持ちもあるのでその流れに乗ることにした
但し、『車は置いてくること』と約束をさせられた
自分の車?に対する危機管理能力の高さに感服するよりない
【やっぱボウリングでしょう】
帯広市の《市》とはいってもそんなに大きな街でもなく、若者の娯楽施設といったらカラオケか映画館かボウリング場くらいしかない
なので、昼間の時点でボウリングというのは決まっていた
もちろん《御礼》なので費用は全てこちら持ちになる
本当は先に軽く夕食とも思ったが、万が一帰りが遅くなった時の《赤鬼》の顔を想像したら、数ゲームのボウリングの後、サッと送り返したほうが良い
修理中の車に何やら危険なオプションをつけられても困る
だが、残念な事にボクは圧倒的にボウリングのセンスというものが欠落していて80~100前半というスコアしか出したことが無い
そういう理由もあって本当に数年ぶりのボウリング実践だ
この手の女の子に後から恥をかくのは、一生いろいろ言われ続けられそうなので、予め『下手だからという話はしておいた』
既に勝ち誇った顔をしている彼女を見て、この事を話しておいて本当に良かったと思う
最初のゲームこそ30ピン程の差で負けてしまったが、対戦型ゲームというものは実力が均衡している程熱も入りやすい
やはりというか、既に主導権を握っている彼女は僕に向かってこう提案してきた
『さて、練習はここまで、次のゲームに負けた方が勝った方の言う事を何でも聞く…で良いよね?』
(調子に乗りやがって)
とは言え…この勝負に負けた場合、彼女にいったい何をさせられるか判らない
その前に女の子相手に2連敗は是非とも避けたい
ここは多少、卑怯な真似をさせてもらおう
彼女が自信満々に投球フォームにはいったらその時
『ボクが勝ったらこのプレリュードを君ん家から買うからな』
(どうよ?)
《カッコーンッ!》
見事なストライクだった
さて、次はボクの番だ…どうせ同じ作戦にでてくるはずだ
何を言われても大丈夫なように最初の投球は投げるフリをすることに決めた
そして構えて歩き出す…
(さあ、こい)
そして予想通り背中越しに彼女にの声
『何かしら言うと思ったんでしょ?甘い甘い』
チッ…そうきたか
そしてそのままボールを投げる
《カッコーンッ!》
その声に拍子抜けしたのが幸いして身体から余計な力が抜けたのか、ボクの投じたボールも10ピン全て倒す結果になった
それから、互いに守れもしないだろう約束を言い合って最終フレーム
ギリギリスペアをだして3回目の投球だ
現在、先程のスペアを数えて4ピン差で彼女がリードしている
つまり5本倒せばボクの勝ちとなる
とは言え…出来れば後々に禍根を残さないように
《4本》倒して引き分けで終わるのがベストだと思う
そして、最後の1球の前に、彼女はボクに近づいてきてこう言った
『私が勝ったら好きになってくれますか?』
いつも顔を会わす元気な女の子、2日前のスーパーでのやり取り、昨日の夕食、今日のこの時間
そうだよな…
「その代わり、ボクが勝ったら好きになってくれるかな?」
ボクもこう君に伝えたいと思ったんだ
そう言って思い切りボールを投げる
ボクの思いを乗せたボールは転がっていく、その先にある10本のピンを目指して
そして奥に吸い込まれていく
レーンに7本のピンを残して
To be continue