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「消えた影」ショートショート

カフェの片隅で、男は静かにコーヒーをすする。窓の外には夕日が差し込み、街の影を長く伸ばしていた。

ふと、男は異変に気づく。店内にいる人々の影が、一つ、また一つと消えているのだ。

最初は気のせいかと思った。しかし、確かに消えたはずの影の人物は、まるで何もなかったかのようにそこにいる。男は震えながら自分の影を確認した。まだある。しかし、すぐそばの席にいた女性の影が、次の瞬間、跡形もなく消えた。

男の心臓が高鳴る。何が起きている?

そのとき、店員が微笑みながら言った。

「お客様、ご注文は?」

その声と同時に、男は自分の足元を見た。影がない。

男の視界が白く霞んでいく中、店員が小さく呟いた。

「ようこそ、影のない世界へ」

その瞬間、男の存在もまた、静かにこの世界から消えた。



元気なニンジン「キャロ」のお話です!


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