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エイブラムスで索敵しよう

こんにちは、今日も今日とてエイブラムスについて探求する廃人くまさんです。最近一段と暑くなってまいりましたね、M1A2 SEPからTMSをふんだくって部屋に付けたいくらいです。

さて、今回は機密解除されているアメリカ陸軍の教範から、エイブラムスの乗員向けの目標補足・索敵テクニックの和訳を細かい解説を交えつつ書いていきたいと思います。

1. 索敵は装甲に勝る

高性能な戦車でも乗員が索敵・警戒を怠り、状況認識能力を欠いてしまえばあっという間に対戦車兵器の餌食になってしまうことは火を見るよりも明らかです。戦車の乗員らは常に、脅威となりうる存在に目を光らせていなければなりません。陸と空からの脅威に対抗するため、アメリカ陸軍の戦車部隊には航空目標の発見と排除を担当する戦車のエアガード(Air Guard)と、対戦車ミサイルの警戒を担当する戦車であるATGMオブザーバー(ATGM Observer)が編成されています。

目標補足に至るための索敵方法は大まかに

a. 裸眼と光学機器を使用した乗員による索敵Crew Search)

b. 砲煙、痕跡、音などの発見による潜在的な脅威の感知Detection

の2つに分けられます。

敵を発見したら速やかに目標位置の伝達(Target Location)、複数ある場合は目標の判定・識別(Target Classification)を行います。

乗員の索敵手段とカバーする範囲は以下の図の通りです。

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M1・M1A1の場合は車長/装填手は裸眼および双眼鏡で、砲手はGPS(昼間照準またはTIS:熱線映像装置)の最低倍率(3x)を使い、M1A2では砲手はGPS/TIS(M1A2 SEPではFLIR)で、車長はCITVと双眼鏡を併用して索敵します。昼夜を問わず、TISやFLIR、CITVで得られる熱線映像での索敵が効果的です。

機器類についての詳しい解説は用語集を参照のこと。


索敵(Crew Search)

索敵をせずに堂々と突入する... そんなコトが許されるのはアクション映画の主人公くらい。どんな脅威が待ち構えているか分からない場所へ突き進もうものなら、かのエイブラムスといえどあっという間にスクラップと化してしまうでしょう。

まず、地上に存在する脅威を発見するための最もオーソドックスかつ手短な索敵テクニックとしてラピッドスキャン(Rapid-Scan Technique)を紹介します。これはその名の通り敵の存在を示すサインを素早く発見するためのもので、移動中・停車中のどちらにおいても最初に使用される索敵方法です。

ラピッドスキャンで前方を監視する場合、砲手と車長がそれぞれ左右からエリアごとに手前から奥へと速やかにスキャンしていくといった手順で行われます。索敵の効率化を図るため、砲手と車長が同じエリアを注視するのは好ましくないとされています。

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次に紹介するのはスロースキャン(Slow-Scan Technique)です。これはラピッドスキャンで敵を発見できなかった場合に用いられる手法で、防御配置についている時や小停止をした場合に最適なメソッドです。双眼鏡と光学機器を用いてじっくりと地形を観察するスロースキャンは以下のように行われます。

・砲手は短いインターバルを設けながら、倍率を10xにしたGPSでそれぞれのエリアを横から横へと観察する

・不審な箇所や敵らしき姿が見えたら、ディテールドサーチ(後述)を使い注視する。

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不審な箇所があった場合や2つの方法を試しても標的が発見できなかったが時間の余裕がある場合は、ディテールドサーチ(Detailed-Search Technique)で索敵を行います。これはエリア内にある特定の場所(茂み、建物など敵が隠れていそうな箇所)を重点的に観察するといった手法です。

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次に航空目標を索敵するためのエアサーチ(Air-Search Technique)を二通り紹介します。低空でホバリングしていたり、NoE(匍匐)飛行するヘリコプター等を発見するために用いられるテクニックです。

まずは水平方向にスキャンしていく手法。地平線から20°程までの高さを目安に、下から上へと視線を動かしていくというもの。開けた場所での索敵に適しています。

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もう一つは垂直にスキャンしていく手法。これは山が多い地形において、地平線より下を飛行する航空機を発見するためのテクニックで、下から上へ、横に移りまた下から上へと視線を移していくものです。

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航空目標を索敵する際にありがちなのは、水平線を見続けてしまい中高度を飛行する目標を見落としてしまうのと、索敵範囲を広げすぎて低空目標の発見が遅れること。これを防ぐために水平線からおよそ20°までを索敵範囲としており、これは指を開いた片手を前に突き出すことで簡単に測定できます。

最後に、乗員が下車して索敵する場合。これは戦車が防御配置につき隠れているときにとられる手段で、観測手(オブザーバー)となる乗員はランドラインで車長と通信します。敵と味方の位置と数、その動向、そして民間車両などの存在を伝える、いわば車長にとって目と耳になり情報を提供します。

そして夜間に双眼鏡や裸眼、昼間用光学機器で索敵を行う際にはオフセンタービジョン(Off-Center Vision)を心がけること。暗中で目標物を直接見続けていると目標が暗闇に紛れフェードアウトしてしまうため、目標から少しだけ焦点をずらし、数秒おきに焦点を少し移動させるようにしましょう。

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目標の感知(Target Detection)

索敵と同じくらい重要な事...それは敵の存在をいち早く捉えて警戒し、脅威を排除すること。敵や潜在する脅威を捉えるためには、それらが発する”サイン”を知っておく必要があります。

1.兵士が発するサイン

・タコツボや掩蔽壕

・草木に残された痕跡や足跡

・焚き火など、火を使った形跡

・熱線映像装置が捉えるサーマルシグネチャ:露出した肌、装備品や頭髪と体温のコントラスト、使用した直後の熱を帯びた武器など

2.車両が発するサイン

・戦車砲発射時の火球、砂塵、硝煙、砲声

・移動目標が巻き上げる土埃

・ディーゼルエンジン特有のどす黒い排気煙

・エンジンと履帯が発する騒音(入り組んだ地形や市街地のほうが響きやすい)

・熱線映像装置が捉えるサーマルシグネチャ:車両は植生などといった周辺の環境よりも浮いて見える。エンジン排気、ラジエーター、サスペンションや転輪およびタイヤ、発射後に熱を帯びた砲身など

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3.対戦車ミサイル・ロケットが発するサイン

・地面や植生に残された細長い誘導ワイヤー

・ミサイル発射時に発せられる”パシュッ”や”パン”というような、乾いた鋭い音

・発射時に巻き上げられる砂塵や植生

・車両から降車した対戦車兵は、車両から約100m以内に潜んでいる可能性が高い

・熱線映像装置が捉えるサーマルシグネチャ:ランチャーを操作する人間、飛翔するミサイルがロケットモーターから発する熱源、発射後の熱を帯びたランチャー

4.航空機が発するサイン

・航空機が発する騒音

・キャノピーや機体、ローターブレードなどに反射する太陽光

・飛行機雲

・ヘリコプターのウォッシングによる埃や草木の揺れ

・熱線映像装置が捉えるサーマルシグネチャ:高温の排気、空とのコントラスト

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5.障害物と地雷

・掘り起こしたような土の痕

・地面にある不自然かつ規則的な痕

・地雷を踏んだ形跡がある放棄車両

・熱線映像装置が捉えるサーマルシグネチャ:地雷埋設後に緩くなった土は周辺と比べて浮いて見える

6.火砲のサイン

・大きく、鈍い爆発音

・グレーがかった色の大量の硝煙

・曳火砲撃によるオレンジ色の閃光と黒煙

・飛来する砲弾の風切り音

・熱線映像装置が捉えるサーマルシグネチャ:牽引車両や自走砲が発する排気や走行装置、砲身など


目標位置の伝達(Target Location)

索敵と感知の結果目標を発見したら、今度はほかの乗員にそれを伝える必要があります。限られた時間で的確に目標位置を伝えるため、乗員たちは5つの手法を使い分ける必要があります。

a. 車長オーバーライド(TC Override Method)... これは車長が目標を発見したが砲手が気付いていないとき、最も正確かつ素早く対処することがでる手法です。車長席にはCCHA : Commander‘s Control Handle Assemblyと呼ばれるスティックがあり、車長はこれを使う事で砲塔を自由自在に操作する事が可能です。車長は砲手が分かるよう、目標をおおよそ砲身と照準器の間に捉え砲手に操作を引き継がせます。M1A2シリーズにおいて車長はCITVの機能を使う事で、砲手用照準器に目標がいるセクターを直接指示することが可能になっています。

b. トラヴァース(Traverse Method)... Traverse (旋回)Methodは比較的素早く行える手法で、主にオーバーライド機能を使えない状況下で車長から砲手に対し使われます。

例 : “TRAVERSE, LEFT, STEADY-ON!”

c. リファレンスポイント(Reference Point Method)... これは車長が双眼鏡で発見した目標の位置をミル単位で指定する手法です。このメソッドは車長と砲手双方がミル角度に精通している必要があり、積極的に使用されるようなものではありません。

例:”ATGM TROOP, 133 RIGHT AND FIVE MILS"

d. クロック(Clock Method)... クロックポジションを用いたClock Methodはオーバーライドに次いで早く正確な伝達方法の一つで、主に装填手と運転手が用いる手法です。砲塔が向いている方向ではなく、車体正面が12時方向とされています。

例:運転手が2時方向に移動する敵戦車を発見した場合 ”DRIVER REPORT, MOVING TANK, TWO O`CLOCK"

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e. セクター(Sector Method)... こちらも素早く伝達できる手法で、戦車からから見て敵がどこにいるのかを直感的に伝えることに適しています。走行時と停車時どちらにおいても効果的で、こちらも車体が向いている方向を中心にして”Direct Front" "Left Front" "Right Rear"といった具合に伝達されます。

例:装填手が左前方に移動する敵戦車を発見した場合 ”LOADER REPORT, MOVING TANK, LEFT FRONT"

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f.スケッチカード(Tank Sketch Card Method)... これは防御配置についた状況において使用される伝達方法で、車長が予め得た地形や人工物などの情報を作図し共有することで目標補足の効率化を図っています。初期のM1・M1A1では手描きでしたが、現在ではIVISおよびFBCB2により車両間で共有することが可能になっています。

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g.グリッド(Grid Method)... これは戦術マップ上の座標から目標を指定する方法ですが、砲手が目標を捉えるまでに最も時間がかかる手法なので好ましくないとされています。


目標の判定・識別(Target Classification)

目標の位置が分かったらその識別と、脅威度の判定を行います。ここで敵味方を識別しなければいけないのは言わずもがな。

目標の脅威度は高い順に”MOST DANGEROUS TARGET""DANGEROUS TARGET""LEAST DANGEROUS TARGET"の3段階存在し、脅威度の高い目標から優先的に対処しなければいけません。

MOST DANGEROUS TARGETは戦車を容易に撃破しうる能力があるもので、さらに攻撃準備が整っている目標を指します。これは戦車にとって最大の脅威であり、発見後速やかに交戦・撃破する必要があるため複数存在する場合は距離が自車と近いものから排除します。発煙弾や排気発煙装置などの隠蔽装置を使用したり、複数の射撃ポジションから交戦することで敵に位置を悟られないようにすることが重要です。

DANGEROUS TARGETは戦車を容易に撃破しうる能力があるが攻撃態勢が整っていないもの。特別な場合を除いて、これらはMOST DANGEROUS TARGETを撃破した後に交戦されます。数存在する場合は距離が自車と近いものから排除します。

LEAST DANGEROUS TARGETは戦車に対し有効な攻撃手段をもたない目標で、これは上記2つの目標を排除してから攻撃されます。しかし例外として、敵の戦術を支える通信車両や指揮車両は優先して排除しなければいけません。

これらのプロセスがすべて完了したらついに攻撃へと移ります。攻撃に伴う射撃命令のプロセスにつきましては、こちらの記事をご覧下さい。

いかがだったでしょうか。一言に索敵といっても、状況によって様々な手法とプロセスがある事がお分かりになったかと思います。

それではまたお会いしましょう♪


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