
【取次制度黙示録④】書店ポイントカードの存在の耐えられない軽さ
〇〇カードはお持ちですかー??
世の中いろんなDXが進んだのに最近は『カードやアプリをお持ちですか?』のようにレジでの声かけ項目はむしろ増えている(笑)
まだまだ、しばらくはこんな案内を日々聞き続きるのだろう。。
この国での消費生活、購買行動にポイントカードが関わる事が一般的になってから、どの位の年月が経ったのだろうか?
最近はポイ活なんて呼ばれて倹約や軽めの貯蓄行動捉えられているようだ。
軽く調べると、コンピューターシステムを使用してのポイントカードは書き手が唯一愛用?してるヨドバシカメラのゴールドポイントカードが始祖となるらしい。
リンク先にもあるが、ヨドバシカメラのポイントカードは当時の家電業界で一般的だった現金値引き交渉の簡略化と値引き分をポイント化することによっての次回以降の来店誘導が主な目的で作られた。
その後レンタルビデオの会員証から派生したTカードは本来の目的だけでなく、マーケティングや集客策としての活用&マルチポイント化による異業種間での協業から発達し、マーケティング活用や商品開発を経て、いま流行りの(笑)大企業の囲い込み施策『経済圏』に繋がる事になった。
この流れに書店業界も無関係でいることは出来ない。
書店自身がポイントカードを運営することもあるし、書店が入居してる商業施設(百貨店、ショッピングモール等)にて採用されているポイントカードが利用可能なこともある。勿論ゆわゆる共通ポイントだって、、
んで場合によっては一度のレジ会計で3枚のポイントカードや類似カード(株主優待系)が使用可能で、支払いは図書カードやクオカードとなると、レジのオペレーションは複雑怪奇を極めることになる。
これにクレジットカードの使用特典迄含めるとホントに大変。
各社の説明を見ても、何を言っているのかチンプンカンプンで読む気力すら危うくなるのが、現在の複雑怪奇なポイントカード界隈の状況だ。
書店独自のポイントカードって、、、
さて書店独自のポイントを調べるとチェーン店を中心にそこそこに存在するようだ。
書店のポイントカードあることには、あるけど、、
これってそんなに誰かが喜んでる施策なのかな??
書店はポイントカードを運営して売上や利益に繋がっているのかな?
しかも、書店でのポイントカード導入にはひと揉めあった経緯がある。
例の「再販制度」との整合性が問題視されたのがその原因だ。
『ポイント制度=実質値引き』と考えたのが当時の業界内での認識なんだけど、そもそも利益率の低すぎる(笑)書店業界で高率ポイントの設定なんてできないし、現状も雀の涙以下の程度の付与率に留まっている。
Amazonの大幅ポイント付与を誘発する、との憶測もあったようだけどポイント無でも売れてるAmazonは日本市場でそこ迄することも無いし、現地法令を遵守している。
※海外でのAmazon書籍部門の販売力の源泉は確かに値引き率の事もある。勿論、書籍の値引き販売が許されている国での事だけど。。
結局、お楽しみ程度の1%、2%程度のポイント還元なら値引きに該当せずとの当局からの公式見解が引き出されて現在に至る。
ここまでは、これまでにも本連載で触れてきた、いつも通りの書店業界内部のつまらない話の延長線上で本連載を読んでくれている読者諸氏にとっては予定調和かと思うが、話はここで終わらない。
誰がための、何のためのポイントカード?
さて、ここでもう一度基本に立ち返ろう。
『書店は何のために独自のポイントカード施策を行っているのか?』
冒頭に述べたように、他業界のポイントカードではポイント付与は、きっかけ作りに過ぎず、来店誘導、他業界との相互送客、マーケティング、商品開発と様々な応用施策の元になっている。
書店のポイントカードってそもそもオマケ程度の還元しかなくて、お買い得度はほとんどないのに、何か出来ているのかな?
もう皆様、薄々お気づきかもしれませんが壊滅的に何にもしてないんですよ(笑)
いや正確には施策はあるんにはあるのですけど。。
列記してみますか?見てみますか?
特定の新刊本を予約したら+ポイント付与 (主に出版社都合の高額企画刊行物が対象)
特定の出版社の本を購入したらボーナスポイント(〇〇出版の本、期間限定でポイント2倍とか、、)
NHKの語学テキストの定期購読を申し込んだらポイント付与
誕生月ポイントUP
手帳、カレンダー、年賀状素材集を早期購入したらポイントUP(笑)
CD、文房具を購入したらポイントUP(笑)
もう、思いつく限りの最もつまらない、どーでもいいポイント付与施策だけを選りすぐって実行してる感じ(笑)
これらの施策を実施してる人は『やってますよー』っていう惰性の空気感を作りたいだけで、真剣に読者の需要とかマーケティングなり、ブランディングを考えているとは、とても思えない駄作のオンパレード。
更にもっと、はっきり明言すると書店で書籍、雑誌を買う時に
『あら、こっちの方がポイント沢山貰えるからこれにしましょう♪』
ってな感じのポイ活読者が、どれだけいると思っているの??
そのポイ活読者があなたの経営する書店の主たる顧客層なの??
また別の角度で考えると、ポイント付与されて消費者が素直に嬉しく受け入れる場面ってどんな場面なのかな?
それは、所謂『経済圏』を築いてるポイント勢力を俯瞰すると一目瞭然。
携帯電話、EC、コンビニetc.
そう、日常生活の中の必需品での消費に関わる出費につくポイントが重宝されているのではないだろうか?
※本稿とは関係無いが、証券などの金融系サービスでも重視されている。
誰でも、ご飯は食べるしスマホもネットも使う。それらの必要経費にポイント付与されるとお買い得感は増し、サービスからの離脱防止作用を発揮する。
はたして、今の書店業界は多くの消費者にとって生活必需品の中に分類されているのかな?
M常務の危機感
ここまで書店業界のポイントカード施策を振り返ってみて正直、パッとしない状況しか見えてこない。
でも、ポイント施策自体が書店にとって不要や無駄という訳でもなさそうだ。実現はしなかったが、先輩書店員の顧客=読者への強い思いを感じた経験がある。
時に西暦2003年。
書き手は、某中規模書店チェーンでポイントカード施策の立ち上げ業務に店頭で関わったことがある。
ある新規店舗の開店に合わせてポイントカード施策が試験的に開始された。
新規受付業務、レジオペレーション、顧客情報管理など全てが手探りで日々改善点を検討するような日々であったが、それなりの期待感が感じられたのも事実だ。地方店舗だったが、連日東京本社より応援人員が代わる代わる派遣されて来ていた。
その中にM常務もいた。
M常務はアルバイトからの叩き上げで、売場チェック、品ぞろえに厳しく、特に『はたき』の使い方に拘りがあるらしい痩身老躯の方だった。
老眼鏡の奥から厳しい目線を売り場に行き渡らせていたが、印象的だったのは、ある日の朝礼でスタッフにかけた訓示内容だ。
オープンしてから1週間後位のその日。
M常務自身が、ポイントカード施策の様子を一通り確認した後の事だった。
順調にポイントカード会員を獲得出来ていて、レジでの声掛け案内などもまあまあ合格点で、地方都市のためか、お客様もあまりポイントカードに抵抗が無く、受け入れられている現状を振り返ってからこのように述べた。
『ポイントカードは、ポイントを付けるために行っていることではない』『お客様の事を知るために、とても重要な施策なのだ』
『今までの書店はお客様の事も何も知らなかった。知らなさ過ぎた。どんなお客様が何を買っているのか』
『本雑誌は売れなくなっている現在こそ、お客様の事をより深く理解して、売場作りをしなければならない』
『利益が少ない書店では家電量販店のようにポイントを沢山つけることは難しい。ならば、ポイント以外のお客様に選ばれるきっかけになるような事を考えなければならない』
『ポイントカードをきっかけとして、お客様とフェイスtoフェイスの関係を築いて欲しい』
その後の本格運用の際には省かれた項目もあるが、この店舗での展開では、ポイント付与以外に購入履歴表示のMYページ、ポイントカードを利用した簡易な取り寄せ注文受付、店頭サイン会等のイベント優先受付等の機能を試行していた。当時としては会社の規模の割には様々なことを考えていたのは事実。
何よりポイントカードをきっかけとした、顧客へのアプローチ施策を語る、M常務の眼光は鋭く、口調に一切の澱みは無かった。
信念と覚悟をもった書店員の語りだった。
現場たたき上げが故の現状に対する強い危機感を感じることができた。
しかしM常務はその後程なくして勇退。
そのポイントカードがM常務の思いに沿った運用がなされることは、ほぼ無かったように思える。少なくとも顧客の購買状況の分析なんてお目にかかった事は無かった。
前節迄では、頑なに商品や売り場=本と向き合わない書店業界について紐解いた。
今回以降は本だけでなく、顧客=読者ともちっとも向き合ってこなかった書店業界の状況をお伝えする。
では、また。
いいなと思ったら応援しよう!
