働く妊婦が忘れてはならないこと
私は恵まれた妊婦の会社員だ。
4年前、某中小企業に事務員として中途入社した。
職場は自宅の最寄り駅から1駅とアクセスは良いが、2020年春から開始された週2〜3の在宅勤務文化が今も続いているため、そもそも出社が少ない。
また、年間残業時間は1時間もないのでワークライフバランスはとても整っている。
その上、人間関係はとても良好。
ゲラゲラ笑える職場の飲み会が心から大好きだった。
妊娠を報告した際も、みんなが「良かったね」と言ってくれた。
聞けば20年以上の歴史がある中で、働く妊婦がいる状況は初めてだという。
それでもみんな声を揃え「サポートするよ」と言ってくれた。なんて心強く、そして幸せだと感じたことか。
※弊社は8:2で男性が多く、新卒採用をしていないため、私は年齢の割に若い女性に分類されていたことから、かなり甘やかされているという事情もある。
しかし今から記すのは、そんな恵まれた会社員の私が、妊娠を機に会社を嫌いになるまでの話である。
つわり期間の勤務スタイル
結婚して約1年、私は妊娠した。
望んでいた妊娠だった。
そして、妊娠6週目からつわりの症状が出た。
ちょうど年末年始の時期に差し掛かっていたため、初期の頃は実家でのんびり過ごしていた。
そんなお気楽期間があっという間に終わり、年が明け、仕事始めの日を迎えた。
悲しいことに、この日からつわりの症状が急スピードで悪化した。
上司に相談し、一週間の大半を在宅勤務にしてもらった。
ピーク時には丸々在宅勤務にしてもらった週もある。
そんな融通を効かせてもらっていたにも関わらず、私のつわりはなかなか収まらなかった。
偶の出勤日ですら一日中机に向かう体力が無く、半日で早退させてもらう日もあった。
この間、私がいない分の仕事は誰かが代わりに行ってくれていた。
いくら妊婦とはいえ、かなり優遇された環境を与えてもらっていたと思う。
皆の本心は分からないが、嫌味の一つでも言ってくるような人は、誰一人としていなかった。
『つわりピーク上がり』期間突入
つわりのピークを超え、少しだけトイレから離れて生活が出来るようになってきた頃の話だ。
ようやく自分の体調以外を少しだけ考えられるようになった私は、会社に対してこう思うようになった。
「今まで迷惑をかけた分、頑張らなくては」
「出社日くらいは、明るく元気に働こう」
私はやる気に満ち溢れていた。
妊婦には、『つわりピーク上がり』の期間があることを知らずに。
これは私が初産であるが故に初めて知ったことだ。
妊婦はつわりのピークを超えて少し気分が楽になってきた頃に、第二次体調不良を訴えるようになる。
これは何かというと、風邪でいう『病み上がり』があるのと同じで、『つわりピーク上がり』のようなものだ。
つわりによる一日一食&寝たきり生活が続けた結果、体力が著しく低下する。
そのため、少し歩いただけでヘロヘロになるし、一日会社にいようものなら、2〜3日は休まないと身体が回復しない。
つわりによるボディーブローが、ジワジワ後になって効いてきたようなイメージだ。
私は仕事へのやる気についてきてくれない身体状況にすぐ気づき、またしても自身にセーブをかけるようになった。
しかし、つわりを経験していない人にとっては、この状態への理解が少ない。
前述したとおり、私もつわりを経験するまでこの期間のことを全く知らなかった。
つわりが終われば、ハイ元通り!元気いっぱい★になるんだと、本気で疑っていなかった。
私が所属する部署は紅一点。
つまり、『つわりピーク上がり』の状態についてよく理解している人は、一人もいなかったように思う。
妊婦様、誕生
出勤日が増え始めた頃、周りから「元気になってきた?」と、よく聞かれるようになった。
「元気?」と聞かれ、「元気じゃない」と答えることはなかなか難しい。
「マシにはなったもののまだ気持ち悪いし、つわりピーク上がりで体力が低下しているので、椅子に座っているだけでいっぱいいっぱいです。」が、本音だ。
しかし、ここで冒頭に帰る。
私は恵まれた妊婦の会社員なのだ。
手厚いサポートをこれでもかと受けている私が、今ここで本音を言ってみろ。
「こいつ、まだ甘える気か。」
そう思われてしまうという恐怖があった。
だから私は目だけ笑って言った。
「おかげさまで良くなってきましたよ。」
こう答えるとみんな笑顔で「良かったね、もう大丈夫だね。」と言ってくれるのだ。
その顔を見て私はホッとし、やっぱりこの答えが正解だよなと思っていた。
この問答を繰り返すうちに、周りからは「ようやくつわりが落ち着き、今まで通り仕事ができるようになったんだな。」と思われてしまった。
というか、思わせてしまった。
その結果、妊娠以前と同じように話しかけられ、同じ量・同じ難易度の仕事が振られるようになった。しかし実際の私の身体はボロボロの状態だ。
辛く終わりが見えないつわり期間を経て、メンタルもそこそこ削られている。
そんな中で以前と変わらない毎日が訪れると、あろうことか私は周りに対して「少しは気ぃ使ってくれよ」と思うようになってしまったのだ。
次第に私は周りへの当たりが強くなった。
周りだって気を使っているかもしれないが、私だってしんどい顔を隠して必死に頑張っている。
なんで分かってくれないの。
元気?と聞かれ、精いっぱいの笑顔で「ぼちぼちです」と答えている私の気持ちに気づいて。
「いつになったら治るんだろうね?」
「なかなか長いねぇ。」
「まだ本調子にはならないんだね。」
そんなこと言わないでよ。
治る時期なんて私が一番知りたいよ。
体調なんてずっと悪い。
前も今もずーーーっと無理してる。
辛い、しんどい、帰りたい、辞めたい。
嫌いだ、こんな会社嫌いだ。今すぐ辞めたい。
つーか、妊婦にこんなこと思わせないでよ。
こっちは妊婦だぞ。
こうして立派な妊婦様が出来上がった。
私が一番なりたくなかった姿になってしまった。
妊婦を雇う会社のメリット
私は会社でイライラする度、夫に愚痴を吐いていた。
私の夫は良くも悪くも正論マンである。
今までもどれだけ私が愚痴をこぼしても、決して私の味方ばかりをせず、常に第三者からの意見をくれる人だ。
今回もそうだった。
「会社の立場から考えると、こちらの妊娠・出産は何のメリットもない。
マンパワーが減るという事実があるのだから。
更にいうと、妊婦を無下に扱えば、
『この会社は女性が働きにくい!男尊女卑の会社だ!マタハラだ!』
と、声を上げられるかもしれず、大損することだってある。
そんな中で、妊婦というこちらの都合だけで変更してもらった勤務スタイルやサポート体制に対して、誰も何も言ってこないことは、優しさだと思っていいんじゃないの?」
と。
ぐうの音も出なかった。
夫なんだからこんなときくらい優しい言葉だけ掛けてよ!と、一瞬は思ったが、事実私の妊娠出産は会社に対し何の利益も生み出さない。
私の子どもが将来優秀な大人になり、弊社に入社してくれるのならともかく、その可能性はほぼゼロに近い。
正論マンにキチンと正論を言われ、改めて自分を見つめ直した。
反省、猛省
私は周りの優しさをスルーして、辛い自分にしか目を向けていなかった。
これが今回最大の反省点だ。
みんな、10回中9回も優しく接してくれていたのに、たった1回でも私の理想どおりの言葉をかけてくれなかっただけで、私は怒り狂っていた。
つわりの時期の私は、10回中10回とも低パフォーマンスの仕事しかできていなかったのに。
嫌われるべきは、会社ではなく私だったはずなのに。
本当にどうかしていたと思う。猛省してます。
皆様、あのときは本当にごめんなさい。(謝罪済みです)
働く妊婦が忘れてはならないこと
職場に妊婦がいるという環境は、長い日本の歴史で見ればまだまだ始まったばかりだ。
このブログでは自戒の意を込めて、会社ではなく自分の反省点を述べてきたが、実際は妊婦を雇う整備ができていない会社もたくさんあるのだと思う。
まずはその現状があることを知っておくべきだ。
その上で、会社が妊婦の雇用を守ってくれるのであれば、まずはそれに対して海よりも深く感謝しなければならない。
繰り返すが一社員の妊娠・出産は、会社に対しては何のメリットも与えていない。
それでもそんな一社員のために、
仕事をサポートしてくれる人、
産休・育休の申請をしてくれる人、
温かい言葉をかけてくれる人、
何も言わず見守ってくれている人、
などなど、妊婦が働き続けるためにたくさんの人が動き、支えてくれていることを、決して忘れてはならない。
今後の私
優しさは無限でも当たり前のものでもない。
会社から呆れられる前に、皆からの優しさが本当にゼロになってしまう前に、自分の幼さ・愚かさに気づくことができて本当に良かった。
周りが私を嫌いになったとき、私は会社員でいられなくなる。私が会社を嫌うだなんてそんなおかしな話はない。
嫌われないため・好かれるために頑張るわけではないが、とにかく感謝の気持ちを忘れずに、産休まで働き続けたいと思う。
そして次の社内妊婦を守るために、妊婦として働いてみた感想を会社に提出していこうと思う。
会社初の妊婦として、弊社が妊婦の働きやすい環境作りをするためのお手伝いができればと思っている。
だって次の社内妊婦は、またまた自分かもしれないし。