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30歳過ぎて、NY留学した話 #6 -人生、先が見えない。

2016年5月。
私は最後の現場を2本抱えていた。それが終われば、1週間の準備期間を経て、渡米する予定だった。

アメリカ行きが決まり、何人かに報告をした。すると、その一人が最後に飲みにいこうと誘ってくれ、彼の地元の豊洲に出かけた。

そこは、その人の行きつけの小さな居酒屋だった。私の好きなスタイルの小さな庶民的な日本居酒屋。彼の友人もそこにいた。

なぜアメリカに行くのか、どうゆう心境なのか、など色々なことを聞かれた。その人は、私が入社してすぐにお世話になったアメリカ系エンターテイメント・スポーツ業界にいる憧れの人だった。私とは違う豪快な性格で、友人も多い人だった。

私は留学について多くのことを人には話してこなかったので、あの一夜が留学前に自分のことを整理するための唯一の時間だったと感じる。毎日忙しく、目の前に迫る留学について、あまり考える時間がなかった。だから、あの夜は、幻想が現実になるようで、少しづつ興奮し始めたのを覚えている。

彼に、入社の時から一緒にした仕事の思い出や、なぜ行くのがアメリカなのかみたいなことを話した。そう話していると、ハッキリとこう感じた。

人生の先が見えない。

そう感じ、興奮した。

2週間後には、ニューヨークにいる。その自分が想像できない。留学先がどんなところなのか、自分が住む場所がどういう場所なのか。自分にどんな生活が待っているのか。何も想像できなかった。

ニューヨークへは行ったことがなかった。行ったこともないし、街のイメージもついていなかった。知ってるのは、タイムズスクエアとか、ビックアップルと呼ばれる多国籍の土地であるということだけ。

ああ、本当に私の人生どうなるのか... でも、なんだかワクワクする。楽しい。

人生30歳を過ぎて、自分の人生はきっとこうなるんだろうという予想ができ始めていた頃だった。それが留学することになり、先がぼやけ始め、留学直前には完全に真っ黒になっていた。何が起こるか分からない。ああ、どうしよう。その気持ちと同時に先が見えない人生に対して、胸が躍り始めた夜だった。