第21回 JR東日本キハ141系700番台「SL銀河」について語る
もう春が終わりそうです。
梅雨になる前に駆け込みで旅行に行きたくなる時期ですね。
第21回、紹介するのはJR東日本の誇る「SL銀河」用客車、キハ141系700番台です。
1:「SL銀河」の名脇役、キハ141系に迫る
キハ141系700番台は2014年に登場し、JR東日本に所属する「気動車」にして「客車」です。
いきなり何を言ってるのかと思うのかもしれないませんが、この車両は非常に数奇な運命を辿り、今では蒸気機関車の引く客車として運行されています。
まずこの車両、元々は50系客車という正真正銘の客車でした。
1978年に登場したこの車両は当時まだ主に地方路線で走っていた旧型の客車を置き換える目的で量産され、全国に配備されました。
しかし登場からたった数年でこれら客車列車の置き換えに電車や気動車が充当されるようになり、これを機に全国から客車列車は急速に姿を消していくことになります。
そして迎えた国鉄の終焉、そしてJR誕生。
客車列車縮小の波はとどまることを知らず1989年以降、全国で親しまれた50系客車はその殆どが廃車になってしまいました。
ですが50系客車は登場からまだ10年余りの若い車両。そのまま解体してしまうなんてもったいない!と考えたのが当時のJR北海道。
この50系客車をディーゼルカーに改造し生まれたのがキハ141系なのです。
合計で44両の50系が改造され北海道の通勤・通学輸送に活躍しました。
そんなキハ141系に転機が訪れたのが2012年。
東北地方の復興支援策の一つとして岩手県の釜石線で蒸気機関車を運行する計画が浮上し、キハ141系にその列車の「客車」として白羽の矢が立ちました。
そして2014年、新たに運行を開始した観光列車「SL銀河」専用の客車として改造されたのがこのキハ141系700番台です。
客車から気動車に改造されておよそ20年、再び客車として活躍することになるなんてとても珍しい来歴と言えますね。
なぜ客車に気動車を改造して使用しているのかというと釜石線は蒸気機関車の運行が難しい路線だったから。
急勾配と長大トンネルが連続する釜石線はSL単体で運行をさせると機関車への負担が大きくなってしまいます。
こういった路線でSLを運行する場合は客車の後ろに補助の機関車を連結することが多いのですが、SL銀河では客車自体に動力を載せることで機関車を後ろから押し、その負担を軽減してあげようと考えたんですね。
実際の運行時にはこの客車の先頭車にも運転士が乗り、SLの運転士と無線で連絡を取りながら列車を走らせています。
さて、このキハ141系700番台、宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」をモチーフにとっても大胆に改造されているんです。
まず外観、4両編成の車両は一両ごとにだんだんと濃くなっていくブルーのグラデーションで塗られていて1号車は明るい青、最後尾4号車は濃紺になっています。
そして側面には夜の星空をイメージした金塗装に加え星座をシンボル化したプレートが!
このプレートがキラキラ光ってとっても綺麗なんですよね。
そして中はもっとすごい!大正・昭和をイメージして徹底した改造が行われていて座席や荷棚、調度品に至るまで隅々まで手が入っています。
派手さを抑えた全体的にシックな内装はとっても洒落ていて、特に座席はやたら豪華にし過ぎず、かつまるで童話に出てくる列車のような非日常感を併せ持つ、他の列車に類を見ない空間になっています。
座席以外のフリースペースを大きくとっているのも特徴。
大きなソファーを配置したり、宮沢賢治に関するギャラリーを設置したりとスペースをとっても贅沢に使っています。
元々1両に2つあった客用扉も大胆に埋めて広げた客室を効果的に使っていますね。
とてもじゃないけど元々通勤列車として走っていた車両だとは思えない仕上がりです。
JR東日本って本当にこういう改造が上手いと思いますね。
そしてこのSL銀河の最大の特徴ともいえる設備、それはなんとプラネタリウム!
列車の中に小さいプラネタリウム室を設置し運行中に星空を眺めることができます。
いやいやそんなのアリですかね?流石にちょっとアレじゃないですか?
でもこういう常識に囚われない独特なサービスはとても素敵だと思います。
私は定員オーバーで見れませんでした。
他にも売店やラウンジも完備してあるますから車内でお土産も買えるしお酒だって飲めます。
力強いSLの走りを全身で感じながら飲むお酒って最高ですよね。
さらに個人的に一押しなのがその売店のすぐ近くにあるスペース、その名もSLギャラリー。
大きなソファーの周りにはSL銀河の主役である牽引機、「C58 239」号機の写真がずらり!
SLが現役の時代の写真やこのC58 239号機が静態保存されていた時の写真、そして動態保存のために改造されていた時の写真などなど、とっても貴重な写真が並べられています。
是非足を止めてじっくり見て欲しいですね。
…そんな魅力的な列車「SL銀河」、なんとラストランは今年の6月4日です。
なんでこんなタイミングで紹介したんでしょうね。
でもみんな是非乗って欲しい!大人気の列車過ぎて予約はとっても大変だけど乗って欲しい!
キハ141系最後の活躍、その目に焼き付けてあげて欲しいですね。
2:もう少し語りたい 「SL銀河」にまつわる車両たち
これまではキハ141系700番台について集中的に紹介しましたが、それをとりまく車両たちについてもぜひ語りたいことがいくつもあるためここからはその補足をしていきます。
まずちらっと触れたSL銀河の牽引機C58の話。
C58型蒸気機関車は1938年から47年にかけて製造された国鉄の機関車で合計431両が製造されました。
銀河に使用されているのが239号機なのでそれ以上の数が製造されているのは当たり前なのですが…なんだかその数字に圧倒されてしまいます。
このC58という蒸気機関車は主にローカル線や都市部での入換用に使用されていたそうでして、その広い用途から全国的に活躍した機関車でもありました。
現在では大半が廃車済みですがSL銀河に使用されている239号機の他にも実は首都圏で元気に活躍している車両があります。
それがC58 363号機、秩父鉄道の「SLパレオエクスプレス」として既に30年以上活躍している、SLの動態保存機のパイオニアというべき存在です。
現在でも冬季を除く土曜休日には熊谷~三峰口間でほぼ欠かさず運行されており東京からの近さもあり大変人気の列車です。
秩父鉄道自体も非常に面白い路線であり沿線には観光地も多いのでとってもオススメです。
日帰り旅行にどうぞ!
そしてキハ141系の話。
先述の通りキハ141系は北海道の通勤輸送用に誕生した車両ですが流石に老朽化を重ね、また主力として使われていた札沼線が電化されたことで電車にその役目を譲り一部車両が廃車。
一部の車両はミャンマー国鉄に譲渡されるなどして数を減らしていきます。
最終的には比較的新しいグループであったキハ143形10両が残され苫小牧~室蘭間の普通列車として活躍していました。
ですがこの区間に新たに電車が投入されることが決定。
キハ141系は全車が置き換えられることとなり、現在最期の春を迎えています。
東日本に渡った4両も引退が決まっている以上、キハ141系という車両は今年で消滅してしまうのでしょう。
北海道での引退は5月19日だそうで、最後まで元気に走って欲しいですね。
もうひとつ、キハ141系は元々50系という客車だったとお話ししました。
50系客車はほぼ全ての車両が廃車、現在JRに残っているのはイベント列車などに改造され当時の姿を失っている車両のみです。
ですがこの50系、実は今でも当時の姿のまま運行している路線が一つだけあるのです。
それが栃木県を走る真岡鉄道、そこを走る蒸気機関車牽引の臨時列車である「SLもおか」の客車として現在も活躍しています。
このSLもおかの客車は本当にJRで運行されていた当時から手が入っていません!
どれくらいかというとかつての乗客によって刻まれたと思われる落書きがそのまま残っているくらいです!
SLを使った観光列車というのはある程度特別な客車を使用することが多いのですがこの50系客車からそんな雰囲気は皆無!
むしろかつては日本中どこでも見られたSLが牽引する普通列車に限りなく近い雰囲気を纏う、かえって珍しい列車となっています!
…いやまあ私そんな歳食ってないのでSLの普通列車とか見たこともないですけど、雰囲気です雰囲気。
さっき紹介したパレオエクスプレスと同じく東京からアクセスしやすい立地なのでこちらもオススメ。
終点の茂木駅からはバスで宇都宮に出ることもできますよ。
3:乗ってみよう降りてみよう釜石線
さてここからは毎度お馴染み、観光案内です。
SL銀河の走る釜石線、そこに私が実際に行って調べたお気に入りスポットを紹介します。
銀河に乗って終わるだけではもったいない!
ローカル線の旅の醍醐味はやはり途中下車にあり、です!
まず紹介したいのが終点釜石駅のこと。
盛岡発のSL銀河で到着した後乗客の大半はそのまま改札を出て行ってしまいます。
ですが30分待って欲しい!この下りSL銀河最後の見せ場がこの釜石駅での入れ替え作業なのです!
釜石駅に到着した列車は乗客が全員降りた後、駅構内にあるSL銀河用の留置線へと移動します。
そのために先頭の機関車は客車から切り離され、駅構内の線路を単独で走る姿をホームから間近で見ることができるんです!
もう一方の終点の盛岡駅では編成毎車庫まで回送されてしまうのでC58 239号機が単独で運転している姿を見られるのはこの釜石駅だけ!
さらに機関車が回送された後は客車も留置線まで自走します!こちらの姿も超貴重!
釜石駅では是非足を止めてSL見学を!
続けて紹介するのが陸中大橋駅です。
こちらはかつて鉄鉱石の積み出しで非常に賑わった駅。
周囲には鉱山住宅が建ち並び、駅自体も立派な駅舎を持っていたそうですが今はホームに待合室があるだけの無人駅。
駅周辺も人の気配が少なく、また山に囲まれた立地をしていることもあり非常に静かで明るい昼間に訪れてもどこか寂しい空気の流れる駅です。
この駅の見どころは構内に残るホッパーの跡!
列車に鉄鉱石を積み出すための巨大なホッパーと貨物線が解体されず、そのまま放置されているんです!
残っている場所はホームのすぐそば!実際に間近で見ると予想以上に大きく、そのスケールに圧倒されてしまいます!
一応公道から近付くこともできるのですが保存ではなく放置なので近付くと結構ボロボロで危険です。
近付き過ぎには注意してください。
この陸中大橋駅にはもう一つ、非常に珍しいものがあります。
それがオメガループと呼ばれる特殊な線形。
隣の上有住駅との間にある仙人峠はなんと陸中大橋駅との高低差が300メートルもあります。
この峠を越えるため、陸中大橋駅を出た列車はトンネルで山の中を大きく弧を描くように進み180度方向を転換、そこで稼いだ距離で少しずつ勾配を登っていくのです。
地図で見るとΩの文字のように線路がループしているためオメガループ線と呼ばれているのでした。
そして峠を登り切った列車は大きな鉄橋を渡るのですが、この鉄橋からついさっきまで走ってきた線路をはるか眼下に望むことができるんです!
こういったループ線はずっとトンネルの中を走ることも多く本当に登ってきたのかどうかいまいち疑問に思ってしまうパターンも少なくないのですがここはもうはっきり見えます!
この列車はこんな高さまで登ってきたのかというのが一目瞭然です!釜石線を利用するときは是非見て欲しい車窓ですね。
そして釜石線を語る上で恐らく最も重要で最も有名なスポットは恐らく宮守駅でしょう。
宮守駅から徒歩10分ほどの場所にかかっているのが宮守川橋梁です。
「めがね橋」と呼ばれているこの橋は鉄筋コンクリート造5連アーチ橋、その非常に美しいアーチを間近で見られる橋として有名なんです!
またこの宮守川橋梁、実は2代目でして初代の橋から1943年に架け代わったのですがなんとその初代橋梁の橋脚も残っているんです!
初代の橋脚は石造りでありこちらも非常に強い存在感を示しています!
これほど立派な橋が駅のすぐ近くで見られるというのは非常に嬉しい!また橋のすぐ近くには道の駅みやもりがあり列車の待ち時間に食事をすることもできます!
勿論橋の下を流れる川に入ってみてもいいですね!とても綺麗な水でした!
ただし有名観光地かつ有名撮影地なのでSLが走る時はもう人がすごいことになりますのでご注意を。
こういった巨大建造物に共通して言えることですが、写真で見るより実際に自分の目で見た方が遥かに迫力があります!
ここは本当にオススメです!
終わりに
今回はここまで。
先述したようにSL銀河のラストランは6月4日。
……もう一ヶ月切ってるじゃないですか!今から切符取るとか絶対無理なのに紹介しちゃったんですかやだー!
まあ次回は既に引退してしまった車両を紹介する予定なので全然マシですね。
はいごめんなさい。
それに乗るのは無理でもまだ見ることはできますよ!
本当に素敵な車両ですし釜石線も上で紹介した以外にも魅力的な駅はいっぱいあるので是非行ってみてくださいね!
ところで…銀河が引退した後の後継列車はどうなるのかなあ…?