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どうかしあわせになって。
いつだって、わたしは自分がいちばんだった。人生においてなによりも優先するべきは自分で、その次に友人や恋人や家族、遊びや仕事などがそのときの状況によって順番を変えて並んでいた。
2022年6月16日。わたしは第一子を出産した。3310gの元気な男の子。翌日から母子同室がスタートする病院だったので、出産のダメージをたっぷりと抱えたわたしのもとに、その子は早々にやってきた。
いつだって、わたしは自分がいちばんだった。行きたいところに行き、好きなものを食べ、好きな人たちと関わり、苦手なものは避けてきた。人生の主役は常に自分だった。
それが、たった1日でガラリと変化するなんて。
その子は甘い香りがする。口からはほにゃあ、ほにゃあとか細い泣き声。たまにふしゅうと息を吐く。おしっこをして、うんちをして、母乳とミルクをどちらも一生懸命飲んでいる。ゲップをさせている間にコテンと眠るくせに、ベッドに戻すとふすふすと動き出し、やがてうにゃあと泣き始める。抱っこをするとすぐに泣き止み、これこれ、と言いたげな顔でわたしを見る。
かわいいかわいい、かわいいちゃん。腕の中でゆっくりと眠りに落ちていく我が子を見ながら涙が出た。かわいいかわいい、かわいいちゃん。ひんひんと泣き始めたその子に、自然と言葉がもれる。「だいじょうぶだよ、おかあさんいるよ」。
だいじょうぶだよ、おかあさんいるよ。そばにいるよ。ぜったいぜったいまもってあげる。大きくなって、いつかわたしのそばを離れるそのときまで、おかあさんがまもってあげる。
どうかしあわせになって。悲しい苦しい寂しい気持ちが、どうかどうかこの子から遠ざかってくれますように。うれしい楽しいやさしい気持ちが、どうかどうかこの子を包んでくれますように。
わたしはわたしを忘れたくない。わたしの好きなもの、きらいなもの。子どもがいても、わたしはわたしを忘れたくない。けれど、それでも、自分を後回しにしても大切にしたい存在ができたのだと感じた。
甘い香りがする、その子が泣く。わたしは言う。「だいじょうぶだよ、おかあさんいるよ」。
どうかどうか、この子のこれから生きていく先が、しあわせでひたひたに満たされますように。そのしあわせの材料に、少しでもわたしが関われたら、そんなにうれしいことはない。
書いた日:2022年6月
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