池上エリアリノベーションプロジェクト|池上を紡ぐvol.01「相談してくれることは、僕らにとっては嬉しい」青果店の岩田さん
今回お話を伺ったのは、青果店「八百吉青果店」店主の岩田好正(いわた よしまさ)さん。江戸時代の終わりからお店を守り続けて、岩田さんでなんと五代目!
八百屋さんらしいハキハキとした口調で語っていただいたのは、お客さまへの丁寧な心配りと、変化を怖がらない柔軟さ。そして、チャレンジする若手へのエールでした。
お店を守るために大切なことは? 池上で新しいことを始めたい人にアドバイスはある? 困ったときは相談してもいい? などなど、詳しくお聞きしました!
店を守るために大切なのは、人からの信頼
ーー 「八百吉」の五代目としてお店を守り続けている岩田さんですが、お店を継ぎたい! という気持ちは昔からあったんですか?
生まれたときから八百屋だったから、店を継ぐんだろうなと自然に思っていたかなぁ。
仕事を始めたばかりのころは、つらかったね。10代のころは、もう、ずーっと遊んでいてさ。とうとう19歳のときに、祖父や父親に「修行に行ってこい」ってどやされたの。
父親の知り合いの八百屋に、住み込みの修行に行かされて……。3年半くらい、住み込みで働いたかな。
―― 修行、きつかったですか……?
やっぱり、人の家だからさ。好き勝手に行動できないじゃない。食事も、出されたものを素直に食べるしかなくて。朝は早いし、先輩はいるし。すぐに十二指腸潰瘍になったよ(笑)
まぁ、そのおかげでまともになったかな。修行を終えて八百吉に戻ってきて、なんとかこうして、お店を守れているから。
―― 大変な修行を乗り越えて、今の岩田さんがあるんですね。コロナ禍でまだまだ不安定な世の中ですが、八百吉にもなにか影響はありましたか?
あまり出歩けなくなって、お年寄りの配達が増えたね。電話でほしいものを言ってくれたら、うちは家まで届けてあげているから。自転車で、えっこらよっこら配達してるよ。
―― お年寄りの配達だと、なんだか見守りの要素もありますね。
あぁ、確かにそうだね。いつも電話がある人から連絡が途絶えたら、やっぱり気になるもんね。配達を介して、あまり意識せずに人と繋がっている部分はあるかもしれない。
―― 長く商売を続けていくために、岩田さんはどんなことが大切だと思いますか?
やっぱり、信用が大切だと思う。なによりも、人からの信用。
信用は、すぐにしてもらえるものではないからさ。お客さんの期待を裏切らずに、いいものを売る。お客さんのニーズを考えて、変えていくべきところは変えていく。
そういうことを積み重ねていくうちに、八百吉は少しずつお客さんから信用してもらえたんだと思うよ。
―― お客さまのために、柔軟に変化していくことも必要なんですね。八百吉は、どんなことを変えてきたんですか?
例えばさ、今のお客さんはきれいな野菜が好きなの。野菜の形がいびつだと、あんまり喜んでもらえないのね。
昔は、野菜の形を気にしない人が多かった。多少形が不揃いでも、売れたわけよ。だからと言って、「昔は売れたんだから!」と意固地になるのは、僕は違うと思う。
不揃いな野菜を専門的に扱って、安く売る方法を選ぶのはいいけどさ。お客さんが求めている野菜と違うものを押し付けるのは、おかしな話でしょ。
お客さんの求めている野菜の形が変わったことを、ちゃんと認めて、こちらのやり方も変えていかなくちゃ。
―― 自分のやり方を変えることに、怖さはなかったですか?
僕がお店を継いだときは、時代の変化も大きかったから。お店を守るために、変わる必要があったんだよね。それまでは手書きの発注書でよかったのに、パソコンじゃないと受け付けてもらえなかったりさ。新しいことを覚えていかなきゃいけなかった。
まぁ、変化を求められるのは、いつの時代も変わらないのかもしれないね。お客さんのことを考えて、自分を合わせていくことが大切なんじゃないかな。
相談してくれることは、僕らも嬉しい
―― 池上で長年商売している岩田さんから見て、池上はどんなまちだと思いますか?
人との繋がりが残っているまちだと思うよ。何世代も続けて池上に住んでいる人も多いから、顔見知りになりやすいんじゃないかな。
あとは、優しい人が多いと思う。困っている人がいたら、スッと手を貸すような。お年寄りがたくさん住んでいるから、自然と助け合う雰囲気ができているのかもしれないね。
ただ、最近は若い人も増えている気がする。八百吉に来てくれるのも、もちろんお年寄りも多いんだけど、若い人も買いに来てくれるようになってさ。嬉しいよね。
―― 2021年3月には、駅直結商業施設「エトモ池上」が池上駅にオープンしましたね! 若い方が増えてきたのは、その影響もあるんでしょうか?
そうだねぇ、あると思うよ。駅が盛り上がれば、そこに人が集まるからね。駅が起点となって、まちがさらに盛り上がっていけば嬉しいなぁ。
駅だけが盛り上がっても、人がまちに降りてきてくれなきゃ悲しいじゃない。まちにおもしろいお店がたくさんオープンして、まち全体がさらに賑やかになっていけばいいよね。
―― 池上で新しいことを始めたいとき、長年商売している方たちに馴染めるか、不安に感じる方もいると思うんです。池上でなにかにチャレンジしてくれることは、岩田さんにとっては嬉しいですか?
もちろん! そりゃ嬉しいよ。池上でお店をオープンさせた子たちと、たまに話す機会があるんだけど、しっかりした考えを持ってるなぁと思うよ。志もあって、やる気もあって。感心しちゃうよ。
昔は、確かに閉鎖的な部分もあったと思うんだよね。大型スーパーができるときとかさ、「でかいもんができたら、こっちは商売にならない」と拒否反応を示す人もいたよ。
でも、最近は変わってきていると思う。新しいものを、しっかりと受け入れるようになってきた。
まちが大きくなっていくほうが、みんなにとっていいじゃんって思うようになったんじゃないかな。長く続いているお店も新しい人に代替わりして、世代が変わってきている部分もあるのもしれないね。
―― 池上で新しくお店をオープンさせた方と、話す機会もあるんですね!
あるある。新しくお店を始めたときに、八百吉まで挨拶に来てくれたりさ。
あとは、「商店会」っていう、商店街のお店が集う会があるの。池上には商店会が12もあって、商店会を束ねたものを「池上地区商店会連合会」って呼んでる。
池上地区商店会連合会では、それぞれの商店会の会長が集まって、池上で行うイベントを話し合ったり、困りごとを相談するわけ。そこに、新しくお店をオープンさせた人が挨拶に来てくれたり、相談に来てくれることもあるよ。
―― 最近では、どんな相談がありましたか?
「蓮月」っていう古民家カフェがあるんだけど、台風で建物の一部が破損して、修繕費が必要になったの。でも、コロナ禍で飲食店は大打撃を受けてるでしょ。だから、クラウドファンディングで修繕費を補うために活動していたんだよね。
その活動を広めるために、連合会にポスターを持ってきてくれて。僕たちも自分のお店にポスターを貼って、蓮月を応援させてもらったよ。
―― 困っているお店を周りが助ける雰囲気があるのは、新しく出店するか悩んでいる方にとっては心強いですね!
商店会に入るのは個人の自由だけど、入ってもらえると横の繋がりができるからね。若い人同士で知り合う機会にもなるから、悩みも共有しやすいんじゃないかなぁ。
もちろん、僕らのように、ずっと池上で商売している人間に相談してくれてもいいし。
―― なにか困ったことがあったら、八百吉に直接相談に行ってもいいんですか?
いいよ! 相談してくれることは、僕らにとっては嬉しいよ。ふらっとお店に遊びに来て、世間話のついでに相談してくれてもいいし。僕だけでは解消できない困りごとも、連合会の議題に上げたら、いい案が出てくるかもしれないしさ。
せっかく池上で新しいことを始めてくれるなら、やっぱり根付いてほしいから。まちを一緒に盛り立てていく仲間として、できることはしたいと思うよ。
僕だけじゃなくて、他の商店街の人もそうなんじゃないかな。若い人に頼られたら、張り切っていろいろやってくれると思うよ(笑)やさしい人が多いからさ、怖がらずに頼ってほしいね。
あまり構えなくても、大丈夫
―― 最後に、長年池上で商売をしている岩田さんから、池上で新しいことをしたい方にメッセージはありますか?
池上に住んでいる人は、穏やかな人が多いから。あまり構えなくても大丈夫だと思うよ。不安なことがあったら、商店街の人たちが相談に乗るからさ。
初めから、深いコミュニケーションを取ろうと必死にならなくてもいいし。商店会に入ったり、軽い挨拶をしているうちに、自然と人と繋がっていけると思うから。
―― 「あまり構えなくて大丈夫」と言ってもらえることは、新しく池上に飛び込む方にとって、とてもホッとする言葉だと思います。では、次にインタビューする方のご紹介をお願いします!
えーっとね、朝日新聞の配達センターに、宮崎さんって人がいるんだけど。彼の話を聞いてみるのもいいと思うんだよね。
八百吉の野菜をお年寄りに配達してるって話したときに、見守りの要素もあるって言ってくれたでしょ? 宮崎さんも、新聞を配達するときに、なにか別のサポートができないかって考えているみたいだから。
買い物には行けなくても、新聞は取っているって人も多いじゃない。そこでなにか手助けができたら、僕もすごくいいなって思うし。ぜひ聞いてみてほしいな。