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「閉鎖病棟」って怖いところなの? 閉鎖病棟の看護師さんに、実態を聞いてきました
"閉鎖病棟"と聞くと、どんな印象がありますか?
「どんよりして暗そう」
「よくわからないけど怖そう」
閉鎖病棟に対して、そんなイメージがある方も多いのではないでしょうか。そのイメージ、果たして本当なのでしょうか?
閉鎖病棟のことは、閉鎖病棟にいる方に聞くのがいちばん!
ということで、精神科の閉鎖病棟で看護師として勤める沢田さんと森下さん、精神科医の山谷さんに、詳しくお話を伺いました。
閉鎖病棟へのイメージについて、入院している方の過ごし方、入院したことでの患者さんやご家族の変化について、たっぷり語っていただきました。
【1】そもそも、閉鎖病棟ってなんですか?
■くまの
まずは、「閉鎖病棟」の定義を教えてほしいです!
■森下さん
精神科病院で、入口が施錠されている病棟のことを「閉鎖病棟」と呼んでいます。常時閉まっている病棟もあれば、決まった時間帯のみ施錠している病棟もあります。夜勤の時間帯のみ施錠するとか。
■くまの
閉鎖病棟に入院するときは、どのような流れなんですか?
■森下さん
入院形態にも種類があります。
・措置入院(そちにゅういん)は、自傷他害のおそれがある方に対して、警察などが介入して、都道府県知事の権限で行われるものです。ご本人の意志はここには含まれません。
・医療保護入院(いりょうほごにゅういん)は、ご本人に入院の同意が得られない場合に、精神保健指定医とご家族に入院が必要だと認められて、行われるものです。
・任意入院(にんいにゅういん)は、ご本人の同意がある入院ですね。
■くまの
根本的な質問なんですが、閉鎖病棟に鍵をかけるのはどうしてですか?
■沢田さん
大きな理由としては、患者さんの安全を守るためです。人との接触や、大きな音や光など、外からの刺激で精神状態を悪化させる方もいるので……。
落ち着いた環境で、じっくり治療を進めていただきたいんです。
■森下さん
症状が現れているときだと、命令調の幻聴が聞こえることもあるんですよ。例えば、自分を馬鹿にする声が聞こえて、振り返ったときに人がいれば、その人が言ったんだと思ってしまいますよね。
「こいつが言ったのか」と勘違いして攻撃してしまったり、パニックになり自分の命を奪うような行動をとってしまうかも。閉鎖的にすることで、そういったリスクを少しでも減らすことができるんです。
■くまの
なるほど……外部の刺激から、患者さんを守る意図があるんですね。
閉鎖病棟に入院する方は、どんな診断で入ってくる方が多いですか?
■森下さん
統合失調症やアルコール依存症、うつ病や双極性障害……。あとは、認知症の方も増えてきています。
■くまの
認知症の方だと、症状が改善されて退院、という流れではなさそうですが、どうでしょう……?
■沢田さん
症状が落ち着いて施設でも対応可能と判断されてから、移動していく方が多いです。
もちろん、ご自宅へお帰りいただくこともありますが、徘徊や暴力などが頻繁にあると、ご家族も疲弊してしまうので……。
■山谷さん
認知症の症状だと、物忘れを思い浮かべる方も多いかと思うんですが……。
入院で治療していく症状で多いのは、幻覚や興奮状態、徘徊や不眠なんです。それらが落ち着いたら、物忘れはあるけど自宅に帰って、デイサービスに通う方もいますよ。
■くまの
症状が改善して、よし退院! ということではなく、安定した生活を送れるようになって、自宅に戻る、もしくは施設に入る方が多いんですね。
【2】閉鎖病棟って、「怖い」ところなんですか?
■くまの
もう、はっきりお聞きしますが……。
閉鎖病棟って、怖いですか? 怖くないですか?
■森下さん
私たちの職場ですからね、怖くないと言いたいですが……。
■くまの
患者さん同士で、なにか揉め事が起きることはありますか? それによって、例えば患者さんが怪我をしたりとか……。
■森下さん
やっぱり人間同士なので、揉め事はあります。
「あいつが物を盗んだ」と疑心感を持ってしまったり、妄想対象になって「あいつが悪口を言った」と疑ってしまったり。
■沢田さん
口論はありますよね。物の貸し借りでトラブルが起きたりとか。「倍にして返してくれると言ったのに、返してくれない」と怒ってしまう方もいました。
冷蔵庫を空けたらおいしそうなジュースが入っていたので、つい飲んじゃったとかね。それで、ジュースの持ち主が怒ってしまったり……。
ゴミ箱を見たら、自分の名前が書かれた空のペットボトルが捨ててあって、なんで!? となってしまった方もいましたね。
■くまの
一緒に生活をする上での揉め事が起きている感じなんですね。患者さん同士のトラブルが起きたときは、どうやって対処するんですか?
■沢田さん
私たちが間に入って、口論以上にならないように仲裁します。「物の貸し借りはしないでね。これでわかったでしょ、もうやらないでね」って。
■森下さん
そもそも、入院時に物の貸し借りはしないようにお伝えしているんです。それでも、やってしまう方もいて。
ただ、怪我までいくことは……。少なくとも、僕が働いている病院では、患者さん同士のトラブルで怪我に繋がったことはないです。
口論の声が聞こえた時点で、病院側の誰かが必ず行くので。
■くまの
例えば、ひとりの患者さんがパニックになってしまって、その影響で他の患者さんもパニック状態に……、ということはありますか?
■沢田さん
患者さんが大声を出して騒いでしまい、他の患者さんに迷惑をかけてしまうことはありますね。
その場合、迷惑を被っている患者さんには、ひとりひとり病気の症状は異なること、病気の症状で大声を出してしまっている状況であることを、まずは説明します。
そこで理解を得られればいいんですが、得られない場合は、主治医と相談することもあります。
■くまの
大声を出している理由を周りにいる患者さんに説明して、安心してもらうんですね。
■沢田さん
そうです。
また、「病棟」を「社会」と見ると、退院後に刺激から遠ざかる力も必要なんです。自分に悪影響がありそうなものから遠ざかるために、距離の取り方を指導することもありますね。
■くまの
大声を出している患者さんには、どう接していますか?
■沢田さん
どうして大声を出しているのか話を伺いながら、その時々で判断をしていきます。
気分転換の活動をしてもらったり、必要であれば薬を飲んでもらったり、不満や不安があることに対しての解決策を提案したり……。
患者さんに合わせて、適した判断をしていくように意識しています。
【3】閉鎖病棟が「怖い」と思われる理由はなんだろう?
■くまの
閉鎖病棟に対して、「怖そう」などのネガティブなイメージを持っている方が、個人的には多いように感じています。
閉鎖病棟で働いている中で、そういったイメージを感じることはありますか? もしあるなら、そのイメージはどうして出てくると思いますか?
■沢田さん
そうですね……まだまだ、世間一般ではいい印象はない気がします。理由のひとつとしては、昔の閉鎖病棟のイメージが、根強く残っているのかなと。窓に鉄格子がガッチリはまっているような……。
今は建て替えて綺麗になっている病院も多いのに、そういった情報は届かずに、おどろおどろしいイメージのまま止まっている気がします。
■くまの
窓に格子のイメージは、確かにわかります。実際に、まだそういった病院もありますよね……?
■山谷さん
建て替えていない病院だと、そのままの病院もあるかと思います。
ただ、綺麗な病院も増えていますよ。外がちゃんと見えるように、患者さんのことも考えて設計されているところとか。
■森下さん
メディアの影響もありそうですよね。精神疾患がある人が事件を起こすと、病気のことを集中的に報道されることも多いですから。
■くまの
メディアの影響は、とても大きい気がします。切り取り方によっては、精神疾患そのものが、怖いものとして扱われている場合もありますし......。
■森下さん
「悪いことするとここにいれちゃうよ」と、精神病棟を子育ての脅し言葉として使っていた時代もありましたからね。
子どものときに精神病棟が怖いところだとすり込まれてしまうと、なかなかそのイメージから抜け出せないのかも。
■山谷さん
過去の話だと、精神障害は治療するものではなく、座敷牢などに隔離されてしまう時代もあったんですよ。すごく残酷なことですけど。
治療法が少なかったり、そもそも治療するものだと認識がなかった時代です。その時代のイメージが、まだ残っているのかもしれないです。
「閉鎖病棟」や「精神病棟」と検索すると、いまだに大昔の座敷牢が出てきたりするんですよ。病院がホームページに綺麗な院内写真を載せていても、ショッキングな画像のほうが、頭に残ってしまうのかなと。
■森下さん
そもそも、精神疾患や閉鎖病棟に関しては、わからないことだらけなんだと思います。わからないことに関しては、なんであれ怖いイメージを持ちやすいですよね。
■くまの
わからないから怖い、確かにそうですね……。どうしたら、ぼんやりした「怖そう」のイメージが少なくなっていくと思いますか?
■森下さん
閉鎖病棟に関しての情報が、正しく伝わるものが増えていけばいいなと思っています。記事とか、メディアとか。
■沢田さん
看護学校の生徒さんも、最初は精神科に怖いイメージがあったという子も多いんですよ。でも、患者さんと関わりながら実習を終えると、イメージが変わるんです。
「楽しかった」「イメージしていた病棟とは違った」と言ってくれる子もいます。実際の現場を知ることで、漠然とした怖さがなくなるのかもしれません。
■くまの
生徒さんの「楽しかった」の声は、聞く側としても、明るい方向への変化になりそうです。まずは「知る」ことが、ぼんやりとした嫌なイメージを変えるきっかけになるのかもしれないですね。
【4】患者さんはどのように病棟で過ごしているの?
■くまの
閉鎖病棟に入院した方は、どのように1日を過ごしているんですか?
■沢田さん
起床時間や就寝時間が決まっていたり、生活リズムを整えるための取り組みはありますが……。過ごし方は、患者さんの状態によりけりです。
体調が悪ければ休んだり、回復してきたら活動に参加したり。
■くまの
活動は、例えばどのようなものがありますか?
■沢田さん
基本的には、患者さんに合わせた作業療法があるので、それを行っていただきます。作業療法士が、患者さんに合わせて考えてプログラムを作っています。
病棟で行っているものだと、一例ですけど体操とか。体を動かしていただくだけで、スッキリして気分転換にもなるんですよ。
■くまの
体内リズムを整えることは、治療にも大切なんですか? 夜更かしはあまりよくない?
■森下さん
治療を進めていくにあたって、生活リズムを整えることは大前提です。昼寝をして夜眠れないのであれば、声かけをして起きてもらうこともありますよ。
睡眠時間がバラバラになると、薬の内服リズムも崩れますから。眠れない夜に、幻聴が聞こえてしまう方も多いんです。
■くまの
自由時間に娯楽を楽しみたい方もいるかと思うんですが、持ち込みはどこまでOKなんでしょう? スマホとか、携帯ゲームとか、雑誌とか……。
■森下さん
持ち込みの規定も、病院によって違うんです。ゲームがOKのところもあれば、スマホはNGのところもある。同じ病棟内でも、個室ではスマホの使用が許可されているけど、共有スペースではだめだったり。
患者さんの状態を見て判断することもありますよ。任意入院の方だと、外出時は携帯電話を使っていいですよ、となっている病院もあります。
■くまの
持ち込みが禁止されているものは、なにがありますか?
■沢田さん
刃物や火器などの危険物は、基本的に持ち込みできません。あとは、アルコール類やガラスなどの割れやすいもの、ズボンの紐やベルトなど……。
どういう活用をされるかわからないし、他の方の手に渡ってしまう可能性もありますから。自分や周囲を傷つけるために使う可能性のあるものは、基本的には持ち込めないんです。
【5】入院することで、患者さんにどんな変化があるの?
■くまの
入院することで、患者さんへのいい影響はなにがありますか?
もちろん、治療のために入院しているので、薬の内服リズムが整ったり、刺激が多い外部と距離を取ることで精神的に落ち着いたり、たくさんあるかと思うんですが……。
■沢田さん
薬をきちんと飲めるようになることが大きいですけど、入院している他の患者さんとの交流もいい刺激になっていると思います。
同じ病名の方とお話しすることで、今まで理解されなかった気持ちを共有できたり……。患者さん同士で交流することで、気持ちが明るく変化していく方も多いですよ。
■くまの
逆に、入院して症状が悪化する方もいるんでしょうか……?
■森下さん
複数回入院している方だと、「昔入院したときに、無理矢理薬を飲まされた」と過去の嫌な気持ちを思い出して、入院時に気持ちが高ぶっている方はいます。
信頼関係を作りながら治療を進めていくうちに、少しずつ落ち着いて、治療に取り組んでいただけるようになりますね。
■山谷さん
これは、病院にもよるかと思うんですが……。入院生活に依存してしまう患者さんもいます。
病棟内では落ち着いているけど、退院してすぐや、退院日程を調整し始めたら、症状が悪くなってしまうんです。
■くまの
入院生活に依存してしまうのは、どうしてなんでしょう?
■山谷さん
入院中は、なにかあればスタッフが対応してくれるし、医師も近くにいます。退院して通院を続けるより、安心感があるんでしょうね。
入院生活が長くなることで、他の患者さんと仲よくなることもありますし。入院生活の居心地がよくなって、退院したあとの生活に戻れなくなってしまうんです。
■くまの
なるほど……。退院したあとの生活に馴染むために、病院側がしていることはありますか?
■山谷さん
入院が必要ないと判断した方に、それでも入院を求められた場合は、本当に入院がご本人のためになるのかじっくりお話をします。
入院することで逆に症状が悪くなる可能性があるなら、安易に受け入れることも難しいんです。
【6】入院することで、患者さんの「家族」に変化はある?
■くまの
閉鎖病棟に入院することで、患者さんのご家族に変化はあるんでしょうか?
■森下さん
一時的にでも入院することで、サポートをしてきたご家族の休息にもなるんです。心身ともに休んで、ご家族も元気になっていただきたいですね。
たまに、入院に同意したことで、ご家族側が罪悪感を持ってしまう場合もあるんです。面会に毎日来て、気を使ってあげたり……。
そうすると、患者さんは元気になって退院しても、ご家族は疲弊したまま。退院後の生活を考えると、あまりいいことではないですよね。
■くまの
ご家族側は、「自分の家族を病院に追いやった」と思ってしまうんでしょうか……?
■森下さん
そう思ってしまう方もいます。入院してもらったことに、後ろめたさがあるんでしょうね。
ただ、後ろめたさを感じるご家族は、患者さんとの共依存になっていることも多いです。
■くまの
共依存……。具体的に、どんな関係性ですか?
■森下さん
患者さんに対して、「この人には私がいないとだめだ」と思って、尽くしすぎてしまうんです。それは、患者さんの自立にも影響してきます。
入院は、ご家族側にとって、ご本人との距離を保つ勉強にもなるんですよ。
■くまの
共依存になっているご家族がいた場合、どうするんですか? 伝えるんですか……?
■沢田さん
「あなたたちは共依存だから、離れなさい!」とは、言えないので……。
「距離を置くことも大切ですよ」と伝えたり、ご家族向けのプログラムをおすすめすることが多いです。
■くまの
プログラムに参加することで、変化があったご家族はいましたか?
■森下さん
「自分にまったく時間を使っていなかった」と、気がついてくれる方もいました。ご家族に、自分の時間も大切なんだと知っていただくことも、プログラムの目的なんですよ。
近しい立場の方が集まることで、気持ちを吐き出せる場所にもなるんです。「こんなことが大変だった」と感情を外に出して、他のご家族が共感してくれることが、心の安定に繋がるんだと思います。
わかってくれる人がいると知るだけで、気持ちは楽になりますから。
【7】看護師から、患者さんとご家族に伝えたいメッセージ
■くまの
病気だと診断された方のご家族に、なにか伝えたいことはありますか?
■森下さん
不調が起きているご本人が、精神疾患で調子が悪いのか、元々の性格なのかわからずに悩んでいるご家族も多いんです。
診察に来ることが難しければ、どこかの相談窓口に電話をしたり、なにかしらのSOSを出してほしいと思います。残念ながら、相談窓口が足りているとは言えない状況ですけど……。
ひとつのところが助けてくれなくても、諦めないでほしいです。本当に、ご家族だけで抱え込まないでほしい。
■沢田さん
もし入院することになったら、ご家族は自分の力を抜いていただきたいですね。気負わずに、安心してほしいです。365日、24時間、私たちが見ていますから。
なによりも、自分の休息をとってください。
■くまの
「自分の休息をとって」と病院の方に言われるのは、ご家族側にとって、すごく気持ちが楽になるように思います……。
これから入院する、もしくはしているご本人に、なにかメッセージはありますか?
■森下さん
不調が起きてしまって、入院することになった方には、なによりも私たちを味方だと思ってほしいです。初めての入院だと、周りがすべて敵に見えるかもしれません。
でも、私たちは治療に携わる者として、患者さんの理解者になりたいと思っています。些細なことでもいいから、なんでも話してほしいです。
■くまの
周りがすべて敵に見えるというのは、珍しくないかもしれないですね……。
■森下さん
はじめましての人に囲まれて、いきなり「この薬を飲んで」と言われたり、「点滴をしますから」と言われるのは、誰だって怖いですよね。
必要な治療だと理解してもらうためにも、私たちとの関係性を作ることはとても大切だと思っています。
医療者は味方だということを、これからも伝えていきたいです。
■沢田さん
患者さんに、「なにもしてくれないじゃない」と言われることもあるんです。自分の希望が通らなかったり、こちらからのアクションが少ない時期に。
でも、なにもしていないんじゃないと、いつか伝わればいいなと思います。状態によっては、遠くから見守ることもあるんだよと。
距離が離れていると感じたときでも、こちらはちゃんと見守っています。見放すことはしないから、どうか安心して、治療を進めていただけたら私たちもうれしいです。
閉鎖病棟に対して、ぼんやりとした不信感を持つ理由のひとつに、情報が正しく届いていない実情があるのではと、今回の取材を通して強く感じました。
医療従事者による認識の誤りやミス、または怠慢で、患者さんに対してなにかしらの不利益があった場合は、もちろん見逃すことはできません。
ただ、患者さんのことを深く思い、回復のために心身を削って奮闘している医療従事者がいることも、どうか知っていただきたいなと思います。
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