
「自分の趣味に、とても助けられたと思います」うつ病の姉を支えた大学時代
お姉さんがうつ病を発症したと語ってくれたのは、埼玉県で一人暮らしをしている三井さん。お姉さんの薬の管理もしていた三井さんは、ときに「しんどいな」と感じることもあったそうです。
その気持ちにどのように向き合い、消化していったのか。三井さんのお話を伺いました。
姉が救急車で運ばれたことで、うつ病だと知った
― うつ病を発症したのは、三井さんのお姉さんなんですね。
そうです。私は4人兄弟の末っ子で、姉・姉・兄・私の順番です。2番目の姉が、うつ病を発症しました。
― お姉さんがうつ病を発症した理由は様々あるかと思いますが、思い当たることはありますか?
責任感がとても強い人だったので、それもうつ病になった要因なのかなと思っています。
あとは、大学時代に体育会系の部活に入って、いじめにあってしまったみたいで…。
― うつ病と診断されたのは、大学生のとき?
いえ、診断されたのは社会人になってからです。ただ、大学時代のいじめにも、結構まいっていたと思います。家に帰ってきて、いじめの主犯だった女の先輩に対して「死ね」と愚痴っているときもあって。大丈夫かな?とは思っていました。
大学を卒業してから、姉は就職して一人暮らしを始めました。会社でなにがあったかは詳しく知らないんですが、しばらくして会社に行けなくなってしまったんです。
― 入社してから、どれくらいのときだったんですか?
まだ、1年目だったと思います。出社できなくなったことを知って、姉の家まで「もう家に帰ろう」と母と迎えに行きました。
でも、正直言うとそのときは、姉のことをうつ病だとは思っていませんでした。気持ちがまいっているだけだと思っていたんです。
姉は実家に帰ってしばらく休んで、別の会社で働き始めました。
― 1社目を退職してから、どれくらいで仕事復帰を?
半年くらいだったと思います。根が真面目な人なので、「働かなきゃ」と焦りを感じていたのかもしれないですね。
ただ、次の会社でも人間関係がうまくいかなかったようです。少しずつ元気がなくなっていって、ある日、「お姉ちゃんが救急車で運ばれた」と母から連絡があったんです。
詳しく話を聞くと、薬を飲みすぎたせいでオーバードーズしてしまったらしくて…。そこで、姉がうつ病と診断されていたことを知りました。
【オーバードーズ】
薬や麻薬を過剰摂取すること。過剰摂取によって病気になったり障害が残ったりすること。また、致死量までの大量摂取のこと。OD。
引用:コトバンク
姉が病院に運ばれたときに、病院の先生からは「また薬を飲みすぎてしまわないように、ご家族が気をつけてくださいね」と言われました。そんなこと言われても…と悩みましたね。
― 「気をつけて」と言われても、簡単なことではないですよね…。
そうそう。母も働いているので、付きっきりで見ることもできなかったんです。だから、何度かオーバードーズを繰り返しました。
そのときは、私もとても辛かったです。同じ家に住んでいたので、何回も救急車で運ばれる姉を見なくてはいけなかったから。
その状態が1年ほど続いて、最終的に私が、姉の薬を管理することになったんです。私が大学生のときでした。
姉の薬を管理していた大学時代
― お姉さんの薬の管理をするようになったのは、三井さんがまだ大学生のときだったんですね。
そうです。姉も、自分ではどうしようもないとわかっていたみたいです。嫌だとは言いつつも、薬を渡してくれました。何回か薬を隠されたことはありましたけどね。
― 大学生活と薬の管理の両立は、大変ではなかったですか?
大学時代は、不真面目だったので…(笑)それなりに時間はあったんです。
あの時期は姉が病院に運ばれることも多くて、放っておいたら死んでしまうんじゃないかと心配もありました。私が見れるのであれば、見ようと思ったんです。
― 三井さんは4人兄弟の末っ子ですが、他の兄弟の方の手助けはなかったんですか?
1番上の姉とは、私も含めてみんなと性格が合わなくて…。うつ病になった姉にも、興味がないのか我関せずでしたね。兄も早い段階で家を出ていたので、頼ることはできませんでした。
― では、お母さんと三井さんで協力して、お姉さんを支えていたんですね。
そうです。ただ、母は心配はしつつも、それは言わない方がいいのでは…ということを言ってしまう人だったので大変でした。
― それは、具体的にはどういう…?
「あんたこれからどうするの!」とかですね。姉の将来を心配しての発言だとは思いつつ、姉を追い詰めてしまうのではないかと心配でした。
だから、「お母さんも心配してるんだよ。とはいえムカつくよね!」と声をかけたりしていました。母と姉の喧嘩を仲裁することも多かったですね。でも、できたのはそれくらいです。
姉は、「こんな人がいて嫌だった」と愚痴をこぼすことはあっても、自分がどうしたいのかは言わなかったんです。言わない以上、こちらが動くこともできなくて。遠くから見守るしかないのかなと思っていました。
― 「これをしてほしい」などの要望は、お姉さんからなかったんですね。
そうです。だから、薬を飲みすぎないようにするくらいで、積極的に自分がなにかできたとは思っていないんです。
症状がひどいときは、どうやったら状況がましになるのか全然わからなかったので…。仕事が一番の原因なんだろうなと思いつつも、軽々しく「辞めれば?」とも言えませんでした。仕事を辞めてもらっても、私が養えるわけではないですから。責任が持てなかったんです。
だから、「しんどいことはやらなくてもいいんだよ」くらいしか言えなかった。それも、無責任だったかもしれないなと思います。
― お姉さんにとっては、三井さんのその言葉はうれしかったのではないかなと思いますが…。
そうだったらいいなと思います。
実は、姉はシスコンで、私のことが大好きなんです。だから、私に頼ってくれた部分もあったのかなぁ。できれば、そう思いたいですね。
やり場のない気持ちを、自分の趣味に助けられた
― お姉さんに言えなかったことや、聞けなかったことはありますか?
姉の愚痴を聞くのも私の役目だったんですが、それを聞いていると、出口のない迷路に迷い込んだ気持ちになるんです。だけど、「聞きたくない」とは言えませんでした。私が拒否したことで、また薬を飲みすぎてしまっても嫌だから。
でも、答えがない話を聞くのは、正直しんどかったですね。
― そのしんどさを相談できる人や、発散できる場所は、三井さんにはありましたか?
姉の話を、誰かにすることはなかったです。元々誰かに話して発散するタイプではないので。人に説明するのって、難しいじゃないですか。状況をしっかり説明しないと伝わらないし。
「お姉ちゃんが、薬を飲みすぎて救急車で運ばれて…」だけ言っても、「え!どういうこと!?」ってなりません?
― そこだけ聞くと、確かにびっくりしちゃいますね…。
自分の中で整理できていない部分もあったから、誰かに話して発散することはなかったです。そういう意味では、抱え込んでいたのかもしれませんね。
でも、集中できることはあったんです。私、オタクなんですよ。趣味にのめり込んでいれば、自分のほうが落ち込んでしまうことはありませんでした。
やり場のない気持ちを、自分の趣味に助けられたんだと思います。
― 周りの人が、当事者の方と同じように落ち込んでしまうこともありますもんね。
それは絶対あると思います。自分を支えてくれるものがなにもなければ、誰だって苦しくなってしまいますよね。
力を抜いて、姉には生きていってほしい
― 今は、お姉さんの症状は安定しているそうですね。
はい。実は、結婚して地方に引っ越したんです。もう薬も飲んでいません。
このまま何事もなく幸せになってほしいけど、まぁ、人生なにがあるかはわからないから。今は働いていて金銭的余裕もあるので、なにかあれば頼ってほしいとは思っています。
― お母さんは、お姉さんとよく喧嘩をしていたとのことでしたが、お母さんに伝えたいことはありますか?
母も、きっとしんどかったんだと思います。今だからこそ言えることですが、姉に強く言う前に、まず私に相談してほしかったなと思います。
私は大学生だったので、頼りなかったのかもしれないですけどね。
― お姉さんと一緒に暮らしていた自分に、なにか伝えたいことはありますか?
がんばってるね、よくやってるねと言いたいです。時間的にも体力的にも、大学生だからできたことでした。
― 最後に、お姉さんになにか伝えたいことはありますか?
無理せず、楽しく生きてほしいと思っています。どんなことでも、自分を責めすぎないでほしい。真面目な人なので、難しいかもしれないけど…。
力を抜いて、生きていってほしいです。
「自分の趣味が支えになった」と話してくれた三井さん。誰かのためだけに生活をするのではなく、自分のために時間を使うことも大切だと教えていただきました。自分が生活を楽しむことで、気持ちに余裕を持ってお姉さんにも接することができたのではないでしょうか。
姉はシスコンなんだと語る三井さんに、私はある質問をしました。「三井さんは、お姉さんのことは好きですか?」。その質問に、すぐに「はい、好きです」と返してくれた三井さん。はにかんだような表情が、とても印象的でした。
精神疾患の症状を安定させるには、周囲の人のフォローが必要不可欠です。ですが、その周囲の人も、同じように誰か、またはなにかの支えが必要です。三井さんの話を聞いて、改めて、そのことを深く感じることができました。
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