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後6日間で映画「タレンタイム」を観ないと、きっと後悔します

 昨日、ヤフーニュースでマレーシアの「タレンタイム~優しい歌」という映画のことを知った。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3933721263db6057bcb9604ef28f1320fbee8d52

 ヤスミン・アフマドという女性監督の遺作となった作品で、日本では2017年に公開され、その後もイベントなどで繰り返し上映され、ファンが増えていったとのこと。
 その作品が、9月20日(金)に日本では権利切れになり、観ることができなくなるらしい。Amazonプライムでも後6日間(今日も含めて)の配信となっている。
 後6日間で、観られる人は絶対に観ておいたほうがいい。
 そう感じる映画だった。

「タレンタイム」とはTalentime、つまりTalentとtimeを合わせた言葉で、音楽コンクールのこと。ある高校でタレンタイムが開催されることになり、その出演者7名を選ぶところから映画は始まる。

 日ごろ、ハリウッドや日本の映画・ドラマに慣れている私としては(最近なら「地面師たち」とかw)、正直言って、始まってしばらくの間は「たるいな」と思って、途中で見るのをやめようと思ったぐらいだ。
 冒頭から、「このシーンにこんなに時間を割く必要がある?」と感じる場面の連続だし、登場人物が次々に出て来るけれど、どういうつながりがあるのか分からない。
 しかも、下ネタも結構出て来るし、ハフィズという少年の母親は脳腫瘍で入院してるんだけど、嘔吐するシーンがやけに長くて、「こんなにたっぷりと描く必要あるの?」とドン引きした。
 こういうまったりした映画は苦手なんだよね…と思ったんだけど、登場人物のつながりが徐々に分かり、それぞれの人物の輪郭が見えて来てから、がぜん面白くなってきた。

 一言で言うと、タレンタイムに出場する少年少女の青春物語、ということになるのだろう。
 でも、映画全体に漂うのは、決してハッピーな雰囲気ではない。
 多民族国家ゆえの衝突や差別、抑圧の雰囲気が描かれていて、テレビCMで以前流れていた「美しい国マレーシア」という印象とは全然違う。
 マレーシアは多民族国家で、マレー系、インド系、中国系を中心に、それ以外の民族で構成されている。公用語はマレー語、英語、中国語、タミル語で、映画ではそれぞれの言語で会話が交わされている。
 でも、生徒がステージで歌うときは英語で歌っているから、イギリスの植民地時代の名残っぽくて、複雑な気分になる。

 そして、民族が違うと宗教が異なる。
 これから観る人のために、あまりネタバレしたくないんだけど…。
 ムルーという少女はマレー系でムスリム(イスラム教)の家庭で生まれ育ち、彼女と恋に落ちるマヘシュという少年はインド人でヒンドゥー教。お互いに身分も違うから、「ロミオとジュリエット」っぽい展開になっていく。
 母親が病気のハフィズはマレー系で頭がよくて歌も上手、しかも作詞作曲もできる才能あふれる少年で、中華系のクラスメイトに嫉妬されてしまう。その背景には、「マレー人優遇政策」が関係しているらしい(これは映画では描かれていない)。

 そんな複雑なマレーシアの日常を、ファンタジーの要素も織り交ぜながら描かれた作品である。
 ラストのタレンタイムのステージのシーンは泣けた。このシーンのために、ぜひ皆さんにもこの映画を観ていただきたい。
 母親の嘔吐のシーンも、ラストのあのシーンを際立たせるための演出だったのかもしれない。
 最後はみんな歩み寄れたような雰囲気で終わっているけれど、私はハッピーエンドだとは思っていない。少年少女のこれからの人生がどうなるのかを思うと、困難しか待ち受けていないのが分かるから。

 日ごろ、勧善懲悪の分かりやすい作品しか観ていないと、ハッキリした答えが描かれていない作品を観ると、モヤモヤが残るかもしれない。でも、そのモヤモヤが「あの場面の意味は何だったんだろう?」と考えるきっかけになり、自分が知らない世界を知るための手掛かりになるのだと思う。

 繰り返すけれど、後6日間で日本では観られなくなってしまう。観なかったことを後悔しないために、最後のチャンスを逃さないようにしてくださいね。


 

 

 


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