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愛なんか、知らない。 第3章③運命の出会い
望月さんのブースは、かなり人が減ってきていた。
写真撮影している女の子たちを横目に、並んでいる作品を眺める。
ミニチュアハウスを制作して販売しているだけで、グッズは売ってない。しかも、その作品の値段は300万円や500万円と、とびきり高い。すべて売約済みのシールが貼ってある。すごい世界。。。
ミニチュアハウスは、まるで外国の絵本に出て来そうなかわいらしい家ばかり。
家の中を覗き込んで、釘付けになった。
すべての家が、ピンクがベースになっている。ピンクの壁紙、ピンクの床。カーテン、ベッドカバーやテーブルマットもピンク。そのバランスのとり方が絶妙だ。たぶん、ピンクの色にすっごいこだわってる、この人。甘すぎず、安っぽくならない感じのピンク。上品なピンクを選んでるのが分かる。
あの甘~い感じの男の人なら、ピンクを使っても不思議じゃないな。まさに王子様って感じ。
この家の中の家具も、一つ一つ手作りなんだろうなあ。あの白い食器棚の中の、コーヒーカップとかお皿も、たぶん全部作ってる。お皿には絵も描いてあるし、何気にすごすぎる、この人。それに、あの子供部屋の
「洋服。継ぎ目で模様がちゃんと合ってる。壁紙も継ぎ目で柄がちゃんとそろえてあるし。よくよく見ないと、貼り合わせてることが分からないかも。すごいな、神業って感じ。ベッドカバーのパッチワーク、あれ、手で縫ったのかな? あんなに小さいと、ミシンは使えなさそう。あの洋服を着せてるの、なんていうんだろ? マネキン?」
「あれはね、トルソーって言うんだよ」
ふいに背後から声がして、驚いて振り向いた。望月さんがにこやかに立っている。
「神業なんて、嬉しいな。継ぎ目で柄がズレないように合わせてること、よく気づいたね。そこに初見で気づいた人、初めてだよ」
顔にピッタリな、甘い甘い声。
わわわわ私、声に出しちゃってた!? ウソっ💦💦
思わず、口をパクパクさせてしまう。望月さんは私の隣に立つ。
「僕ね、トルソーが好きなんだ。だから、すべての家にトルソーを置いてるの」
確かに、どの家にもトルソーが置いてある。洋服を着せてあるのもあれば、トルソーだけのもある。トルソーはチェック柄にしてあったり、襟元にレースがあしらってあったり、トルソーだけでもかわいい。
それにしても。なんで男の人なのに、こんなに甘い香りがするの⁉ 香水? 男の人なのに香水? 香りも声も顔も甘い、甘い、甘すぎる~‼
あ、なんか、興奮しすぎてめまいがしてきた……。
「ミニチュア、好きなの?」
私は声を出せなくて、何度もうなずくので精いっぱいだ。
「自分でも作ってる?」
「ハハハハイ、ねん、粘土、粘土で」
「どんなの作るの? 今、何か持ってる?」
私はパニックになりながらも、何とかスマホケースと財布につけてるミニチュアを見せた。
望月さんは手に取ってじっと見つめる。
「へえ~、いいね。キレイにできてる」
「ええええっ、ホ、ホントですか?」
「うん。もうかなりの年数、作ってるんじゃないの? 君、学生さんだよね? ちょっと待ってね」
望月さんはスタッフさんの一人に、「佐倉さん、あのチラシ、持って来てるかな。学生さん向けのコンテストの」と尋ねる。
スタッフさんから受け取ったチラシを、私にくれた。
「これ、来年の春、中学生と高校生を対象にした、ハンドメイドコンテストを開くんだ。僕はこれの審査員。よかったら、応募してみたら? 手作りの作品なら、なんでもいいよ。ミニチュアハウスを作ってもいいし、ミニチュアのグッズでもいいし」
望月さんは、周りのファンに聞こえないよう、声を潜めた。
「僕、トルソーを作るワークショップも開いてるんだ。すぐに定員いっぱいになっちゃうんだけど、学生さんなら大歓迎。12月に開くから、よかったら遊びに来て。ポイッターで連絡くれたら、返事するからね」
私はフワフワした気持ちで浅草駅に向かって歩いていた。
ああ。今日は来てよかった。
たくさんの作家さんとお話しできたし。みんな、優しかったな。楽しそうだったな。
私、もっと頑張ろう。
いつか、私もああいう場で自分の作品を出したい。売ってみたい。
そのためにも、もっとセンスのいい作品を作らなきゃ。
もっともっと、ミニチュアの勉強しなきゃ。
今作ってる古谷さんのおばあちゃんの家も、もっと丁寧に、もっとリアルに作れるはず。
コンテストの締め切りは1月末だ。年内におばあちゃんの家を作ったら、ギリギリ間に合うかも。
せっかく望月さんが教えてくれたんだもん、何か作品を出してみよう。
作りたい、作りたい、作りたい。
私は今、すごくすごく、ミニチュアを作りたい!
家に帰って気持ちを落ち着かせてから、ポイッターで望月さんのアカウントを探した。
フォロワー数31万人。すごすぎ……。
私は始めて2か月ぐらいで、35人のフォロワー。それでも多いって喜んでるレベルなのに。ミニチュア作家さんのアカウントを見つけてフォローしたら、フォローしてもらえて、コツコツとフォロワー数を稼いでる感じ。
こんな私がフォローしても、フォローし返してくれるのかな?
迷ったけど、知り合いじゃないんだし、返事ないなら、それでもいっか、とメッセージを書くことにした。
「今日の展示会でお話しした高校生です。コンテスト、応募します! ワークショップもできれば参加してみたいです」
簡単なメッセージを書いて送ると、数時間経ってから望月さんがフォローしてくれて、DMが届いた。
「こんばんは。ワークショップの日時や場所は以下のサイトで確認してください。お名前を教えてくれたら、受付に伝えておきます。当日は受付で名前を言ってくださいね」
「実は、いくつかの学校でワークショップをしてほしいって頼まれてるんです。僕は最近の学生のことは何も知らないから、色々と教えてくれると嬉しいです」
「あ、このやりとりは内緒にしてくださいね。僕のワークショップはキャンセル待ちの数がすごいから、特別に参加させるって知られたら、炎上しちゃいそう💦」
夜遅いから、とっさに布団をかぶって「くぁwせdrftgyふじこlp!!」って、わけのわかんない声をあげた。
望月さんが! ミニチュア王子が! DMを! DMをくれた‼
しかも、こんなにたくさんのメッセージ!
しかも、しかも、学生のことを教えて欲しいって!
ウソっ、どうしよう。教えてって言われても、私普通の女子高生じゃなくて不思議ちゃん系だから、あんまり参考にならないよう😢。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう」
頭だけ布団に突っ込んでジタバタしてたら、
「葵ちゃん? どうしたの?」
と、背後からおばあちゃんの戸惑う声が聞こえた。
私は興奮のあまり、日本語になってない日本語で、おばあちゃんに今起きてることを伝えた。
「まあ、すごいじゃない。さすがプロね、葵ちゃんのミニチュアを見ただけで、どれぐらいのレベルなのか分かるのねえ」
おばあちゃんは感心する。
「それに、この文章も、高校生相手に丁寧で、好感持てるわね。『私でお役に立てるなら、何でも聞いてください』って書いたらいいんじゃない? ワークショップに参加させてもらえることのお礼も言ってね」
おばあちゃんに言われたとおりのメッセージを書いて送ると、しばらく経ってから、「ありがとう‼ 助かります。色々聞いちゃうので、よろしくお願いします♪」と返ってきた。
もちろん、それもおばあちゃんに見せて、二人で盛り上がった。
隣のお母さんの部屋で、大きな物音がした。部屋から出て来るかと思ったけど、その気配はない。静かにしろってアピールなのかな。