福島に行った3頭のぼんの話。その7
※東日本大震災のお話です
祈るしかない
3頭とも福島にいるのは逃れられない現実だ
それにしても、国は何をしてるんだろう
人間は勿論大事だが、動物にだって命がある
無駄な命なんかどこにもないのに
どうして放ってあるんだろう
人一人いない地域で牛が野性に返っていった
食べて、生きていかなきゃならない
牛だけではなくて、あらゆる置いてけぼりの動物たちみんなそう
地震はともかく
原発事故なんて
何も悪くない動物が、なぜ苦しまなくてはならない?
死ななくてはならない?
「3頭とも福島にいる」と、夫には打ち明けられなかった
ゆきぼんのことだけでだいぶ参っていたから
なんで福島に…って自分を責めていたから
毎日毎日
これで
1頭だけじゃないなんて知ったら耐えられないんじゃないかと思い
私自身の心の中にしまっておくことにした
正直、苦しみを共有できずきつかった…
テレビで被災地が映るたび
どうしてもゆきぼんの話しになる
他の2頭のことを気づかれないように
話題にならないようにするしかなかった
でも切なくて
夜中に被災地の報道を見ては嗚咽した
見たら辛いのに
見ないではいられないのだ
…どうしてるの?
…無事でいるの?
毎日毎日毎日毎日
気が変になるんじゃないかと思うくらい
生きていますようにと
祈った……
消息を確かめるすべは
直接主様の牧場に連絡を取ることだけだったが
さすがにそれはためらった
被災地は
今 それどころではない
たくさんの方々がお亡くなりになり
まだまだ行方不明の方もたくさんいる
自宅や学校や会社や
何もかもが津波で流され
せっかく無事でも
立ち入り禁止指定区域のために帰れない方々
仕事がなくなり帰れない方々
救援物資も差し伸べる手も
全てが不足している
人が
日々生きていくのに必死なのだ
そんなところに
「うちから行った牛は無事ですか?」なんて
誰がそんなこと尋ねられるのだ
テレビで
街中を徘徊している牛を見るたび
繋がれたまま息絶えている牛を見るたび
どうかうちのコでありませんようにと願いながら
耳についている個体識別番号を確認する
うちのコでないとホッとし、亡くなった牛の不憫さを憐れみ
見えないところで同じような状況に遭っているかもしれないと考えると
どうしたらいいのかわからなくて
気付けば
個体識別番号で検索していた
何度も何度も
移動報告が載っていないか
今日はだめでも
明日載るかもしれない
朝
載っていなくても夜には報告されているかも…
死んでしまうなんて有り得ない
絶対どこかで生きているに違いない…!
でも…もしかしたら駄目だったかも…
毎日が葛藤の日々だった
心に重いものを抱えたまま
月日は流れた
そんなある日
避難場所から立ち入り禁止区域にあるご自分の牛舎に
毎日、餌をあげに通っている酪農家の話しを聞いた
往復2時間を朝晩2往復
「大変ですね。」と聞かれたその方は
「しかたねーよ。家族なんだから。見殺しにできない。」
当たり前だという顔をして答えていらした
そうなんだ
飼っている動物も家族の一員
可愛い我が子だ
その酪農家も、私たち畜産農家も、動物の命を頂いて生活の糧としているが
いつも何時も
感謝の気持ちを持ってその命を頂いている
家畜としての一生を全うしてもらうために
精一杯の愛情を持って最後まで育てるのだ
自分ばかりが辛いと思っていたが
辛いのは可愛い我が子を
見捨てなければならなかった被災地の酪農家や畜産農家の方だろう
断腸の思いだったに違いない…
そう考えると
仕方なかったんだとやっと思えた
いつまでもくよくよしていても
あの仔たちも喜ばないだろう
それより今我が家にいる仔たちを大切に育てよう
ゆきぼん もんぼん しずぼんの
母親や兄弟 姉妹たち
みんなを…
そう思えたのは
被災地も復興に向かって前を向き始めたと
明るい話題が増えてきた
震災後1年もたった頃だろうか
ようやく私の中でも
振り返ってばかりじゃいけない
前を向かなきゃいけないと思える日が
やっと来た