「#旅のようなお出かけ」企画に参加してくれた、 いしまるゆきさんの「アジの開き」を読んだ感想。
お出かけの範囲は、ピンきりだと思います。さて魚屋とか商店街に行くようなお出かけは日常の風景。といいつつも毎日同じようなところなのに、行くたびに微妙に違いがあるので、そのあたりを注意深く見ていたら結構楽しいものです。
今回は、13弾目になる、いしまるゆきさんのこちらの作品。お出かけはお出かけでも意外なお出かけで。
1、晴れた日々 こんな日こそ アジの開きで決定だ
主人公は今日の夕食に想いを馳せます。外は相変わらずの暑い日々。この暑いのが続いたら自らが干上がってしまうのでは? そんなことを思っていたら本当に干物が食べたくなってしまいます。
実は干物では馴染みの魚屋があります。少し遠いけど今日は時間があるし、それ以上に大将の気前の良さが溜まりません。
でも暑いから、行くなら夕暮れどき。近所のユカちゃんと遊んでもいいけど、眠くなったし部屋で横になろう。とお気楽な主人公。しばしエアコンの効いた室内へ。こりゃ熱中症対策にもなりそうだ。シャラシャラ素材のベッドでのお昼寝。これ聞いただけで気持ちよさそうです。
2、同居人に対する素朴な感想
さて、主人公にはサラちゃんという同居人がいます。昼寝する主人公と違い、炎天下を出掛けるサラちゃん。同居人だから一緒にいる時間は多いけど、微妙な距離感を保つのは長くいる秘訣。それがお互い様なんだ。それにちゃんと主人公のことを考えて冷房を切らない姿勢が偉い!と評価します。
だけど掃除がちょっとなってないかな。綺麗好きの主人公にとってはそのことだけが気になるようです。さらにカーテンのほつれやサッシの擦れ具合と黒ずみ加減。さらに埃の存在も問題ありそう。どうやら主人公は完璧主義者のようですね。ひょっとしてサラちゃんから見て主人公って姑さん?だったら。指摘するってことは... ....。
3、夕暮れどきだ さてお出かけ開始
同居人のことをチクチク考えていたら。無意識に眠っていたようです。時間も知らずに経過。さては「灰色の男」にでも時間が奪われたか! となると、急がないとおまけに預かれません。さあいよいよお出かけ開始。
まだまだ日差しはきついけど、時間をわかっている主人公は、日陰を器用よく歩きます。途中には赤ちゃんの挨拶を受けて、向かったのは駅の方角。
主人公はこのあたりは知っているから、人の少ない中の道。むくげの花など愛でながらさらに進むと、豆腐屋さんが見えてきました。躊躇なく水を撒くから要注意。それを過ぎれば短いお出かけもいよいよクライマックス。
それにしても、お出かけの際中に登場するいろんな人や物の情景が見事ですね。
4、ネタバレも 書きたくなるよ どんでん返し
小説の感想に「ネタバレ」はタブーかもしれませんが、このどんでん返しについては、それをしないわけにはいかないのでご了承ください。
(お詫びにもならないが、ここの見出しを川柳風に)
豆腐屋を過ぎると魚屋だ。由緒正しい寺院の境内近く。それを聞くだけで老舗臭が漂います。スチロールの上にパック詰めされたもの。恐らくは夕方だから売れ残った魚を煮付けて販売しています。
ここで主人公は、大将の視界に入ることを意識して近づきます。それは見事に正解。予想通り大将から声をかけてもらいました。そしてここで主人公の正体がわかります。
親父は大きく笑ってよっこらしょっと立ち上がり、昔ながらのガラスケースの中からアジの開きの切り落としを持ってくる。
「ほらよ。お前の好物。どうせこれ目当てなんだろ」
ニャアン。
まさかのどんでん返しです。主人公の正体が人間でなく猫とは!
最初読んだ時に全く気付かず。最後のシーンでようやく分かったという。これは、「ヤラレタ」という気持ちです。
もう一度読み返すと、ところどころでそういうニュアンスが見られました。思わず2回読み返してしまいたくなる作品。こういう技法もあるのかと勉強になりました。
5、もし私がこの小説書いたら?
そうですね。これはこの魚屋の干物が美味しいということなので、どうおいしいのかを加えて見たい気がしました。それは最後ではなく前半で、わざわざ遠い魚屋の大将の干物。気前の良さもあるんだけど、例えばアジの干物そのものが美味しいとかを入れると、主人公が炎天下目指した理由も頷けそう。
「あそこは、天日干しを扱っているからな。他のところでたまにある人工的な干物じゃダメなんだ。そういうところはどうもケミカルっぽいんだよな。やっぱ干物は天日干しに限る。この暑い太陽の恵みだからね」
ついでに最後にちょこっと
「うまい、これなんだよ、このナチュラルな磯の風味。うん、うん、やっぱうまい。この魚屋の干物が一番なんだ。これで今晩はぐっすり眠れそうだ」
と言ったことを付け加えそうです。
まとめ
気持ちよいほどのどんでん返しが効いたショートショートは、読んでいるだけでも楽しいですね。最後まで読者をだまして二度読ませる技術は、勉強になりました。私も、いつかどこかで使ってみたいです。
それにしても主人公はノラ出身なのかなと思いました。初めから飼い猫なら、多分フードの制限とか厳しそうだし。それにあまり自由に往来できないかもしれないから、いつしか住み着いたんでしょう。(半飼い猫状態?)居候なのに姑のような細かさがニクイですね。 そんな想像をしながらこの猫と同居人(サラちゃん)との出会いとか続きの物語とかを見たくなりました。
それ以上に、いしまるゆきさんは、小説以外に落語の台本の執筆。さらには実際に演じられていました。これはすごいですね。
※追記:本日私はスキ押しの抑制日になってしまいました。(読んではいます)あらかじめご了承ください。
※事前エントリ不要! 飛び入りも歓迎します。
10月10日までまだまだ募集しております。(優劣決めませんので、小説を書いたことが無い人もぜひ)
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