イヤイヤ期の息子に苦い薬を飲ませる
夜中、息子は何度も起きた。
鼻水に色がついてねばねばしていたために、寝ていると苦しいようだった。
息子はまだ2歳なので、自分で鼻水をかめない。
次の日、小児科に連れていくと、抗生物質の粉薬の処方箋をもらった。
薬局では薬剤師さんが苦いので、と説明してくれた。注意書きの紙もくれた。
息子にとってはたぶん2回目の抗生物質。
初めての時は乳飲料と一緒に飲ませてすんなり飲んでくれた。甘くておいしかったのか、薬を飲む準備をしていると嬉しそうだったくらいな記憶。
ただその乳飲料はたまたまもらったもので、近くですぐ手に入るものではなかった。ま、今回も何かと混ぜればいいかな、なんて思って薬局を去った。
良薬は口に苦し
薬剤師さんからもらった紙を見ていると、コンデンスミルクやプリン、牛乳、ココアやチョコレート系などと混ぜてもいいと書いてあった。
あいにく好きな柑橘系のジュースとかヨーグルト、ゼリーはNG。取り急ぎ、好きそうなプリンといちごオレを購入して、帰宅した。
食事の後、まずは家にあったコンデンスミルクと薬を混ぜてみた。粒粒感がすごいが、とにかく甘いし、ティースプーンで二回くらいで飲める。
(ちなみにいちごオレは、初めて飲んだために薬を入れる前から嫌がってダメだった。)
いざ、息子にあげると、あーんとスプーンを口に入れた。
が、次の瞬間、舌をべーっと出して、大げさすぎるくらい苦い、という顔をした。
「あれ、だめだった?」
「もう一口、あと一回で終わるよ?」
と言いつつスプーンを口に運ぼうとするが、もう手遅れ。息子の口は堅く閉じられ、顔は手で隠された。スプーンを近づけると、嫌がって走って逃げてしまった。
と、買ってきたプリンのことを思い出し、少量のプリンに混ぜてみることにした。
プリンだよ~と明るい口調で言ってみたが、息子の警戒心は既に最大。
好きなプリンですら、さっき苦いものを口にいれた母からは気軽に受け入れられないようだった。
苦い薬を甘く見ていた
ここは作戦勝ちするしかない。息子のためだ。
私は小さなお皿に2種類のプリン用意した。
薬の入っているプリンと普通のプリン。
普通のプリンで味見をさせてから、油断している隙に、薬入りの方をスプーンで与える、という作戦だ。
息子は警戒していたが、おいしいプリンだよ、と何度も伝えると小さな口を少しだけ開けてくれた。
「おいしい?」と聞くと「うん。」と答えた。
そりゃおいしいに決まっている。普通のプリンだもの。
息子を裏切るようで胸が痛むが、息子のためには仕方ない。
と、油断している隙に薬入りのプリンをスプーンですくって口に入れた。意外と嫌そうな反応がなかった。プリンと一緒に薬を飲んでくれた。
やった!成功した!と心で叫んだ。
が、ここまでくるのに30分以上かかった。
意外とてこずってしまった。
やはりイヤイヤ期の2歳児、手強い。
息子にとっては苦い薬を飲まされ、スプーンを持った母に付きまとわれ、よほど嫌だったのか、その夜は何度も夜泣きした。
もうプリンもジュースも嫌
次の日、プリンという武器があるのをいいことに、私は油断していた。
食後に当然のようにプリンに入れて飲ませようとしたところ、なぜか拒否されてしまった。
プリンだよ~と言っても、逃げていく。
もしかしたら、スプーンで何かを食べさせられる=嫌なこと、の構図になってしまった?
私は焦った。どうしよう、手立てがない。
ひとまず、また薬局でもらった紙を熟読してみる。
混ぜるのにお勧めなのは、ココアパウダー、チョコレートクリーム、アイス、ピーナッツクリーム、ようかん・・。
息子はチョコレートは未経験。アイスも好きじゃない。となると、牛乳に混ぜる?でも牛乳=苦い、ってなると、今後困る。ピーナッツクリームもようかんも難易度が高い。
これはもうお手上げ状態。
でも幸いなことに、夫が朝開いているスーパーに急いで行ってくれることになった。
かわいい動物が載っている乳飲料を頼んだ。
息子は飲んだことがないが、以前に薬と一緒に飲んだ乳飲料と味が似ている。
夫が到着後、すぐに息子に乳飲料を飲ませようとした。最初なので、ひとまず薬なしで。
が、息子は警戒して飲まない。
私も夫も息子が見ている横で飲んで、おいしいな~なんてわざと言ったところ、気になったのかようやく一口飲んでくれた。でもすぐに、いや。と言って付き返されてしまった。
もう手立てがない、と思ったときに
もうお手上げだった。
薬をきちんと飲まないとちゃんと治らない。
この子にきちんと薬も飲ませられないなんて、という自責の念も沸いてきた。
ふと、薬局でもらった紙がまた目に入った。・・ココアパウダーってミロだよね。
ミロも息子は未体験。早速牛乳と混ぜて作ってみた。
意外といけるかな?という願いはむなしく、見た目が茶色いってだけで、イヤ、と断られてしまった。
とにかく何かいいアイデアがないだろうか。どうしたらこの子に薬を飲ませられるのか。私の頭はとにかくフル回転した。もう後がない。朝だし、もうこれ以上時間もない。
と、そのとき、息子が好きなクリームが挟まっているクッキーのパッケージが目に入った。ふと、ひらめいた。もしかしたら、という最後の賭けに出てみることにした。
ミロとコンデンスミルクと粉薬を混ぜ、そのペースト状のものをクッキーに挟んでみた。
見た目はチョコクリームが挟まったクッキーのようだった。
最後の戦いへ
いざ、息子に今までとは違うよ~おやつだよ~という雰囲気で、
「クッキー食べる?」と聞いてみた。
「うん!」と息子。
たまに食べたことのあるクッキー。息子は安心して口にした。
一口食べておやっという表情。
初めてのミロと、前日好きじゃなかったコンデンスミルク。
正直もうだめか、と思ったその時、息子の口はまたあーんと開いて、クッキーをほおばり始めた。
そしてさらにパクパクと食べ進め、見事に完食したのだった。
本当にピンチの時こそ
振り返って、息子が無事薬を飲めてよかった、というのはもちろんだが、
それと同時に、本当に困った時にふとアイデアが浮かび、それによって事態が改善する、という経験が朝の忙しい時間にできたことも嬉しかった。
よく、ドラマや映画で主人公が直面する難題に一瞬のひらめきで解決していく、というのに似ている高揚感。
あきらめずに必死で、最後まで自分が何ができるかを考えてみる。
そしたら意外と近くに答えがあるのかも、と思った出来事だった。
それはあきらめずに考えたときにだけもらえる、ご褒美のようなひらめき。
でももうこのクッキーは作りたくない。元気でいるのが一番だ。
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