フィッティング、やりたい人がやれるように。
はじめに
バイクフィッティングについて、書こうと思います。
これは僕自身にとっては整理であり、今まで実際に、体感していただく以外になかった、熊坂和也のフィッティング、そしてその考え方を自分なりに、丁寧に、お伝えするためのものです。
筋肉や骨格の構造、可動域、又それらの柔軟性など、フィッティングが関わっている分野は多岐にわたっていて、完全に全てを記すことは実際には難しいと感じていますが、僕の経験や、実際にその現場でのセオリーのようなものを書き記すことによって、ある程度のセルフフィッティングができるようにと考えました。
各個人で蓄えている知識量には差があると思いますので、違うと思う方も、これじゃ全然足りないと思う方もいるかもしれません。
違うと感じた方は、ではどういう風に?
足りないと感じた方はどの分野が?
新しく、高いレベルで汎用可能なフィッティング理論が生まれることや、足りないと感じた方が、理解を深めるきっかけとなってくれればと願っています。
体や心の変化という具体的に言語化できるものごとの他に、言語化できない”経験”というものが、無意識に表現されているということを、スポーツを長くやっている方なら感じたことがあるのではないでしょうか。
そしてフィッティングにも、その無意識に行われるまでに洗練された物事の一つ一つが反映されているのではないでしょうか。
しかし個々人の、ある種の正解というものを主観的に語ったところで、果たしてフィッティングとは具体的にどういうことなのか、客観的にその輪郭を感じ取ることは容易ではない、と僕は思います。
そういった主観的なところ(自分にとってのベストなフォームを誰もが見つけ出したいと思っている)が大部分を占めているフィッティングの可能性や、その分野について語るために必要なことは、フィッティングのやり方といったHow to的な内容ではなく、その背景に何があるのかということや、その中でも抽象的、一般的と言えそうな、それぞれの内容をできる限り細かく把握して区別することであると考えています。
フィッティングの現場においては、問題とされている部分に具体的に調整を加え
て、ある時間内に一定のレベルまで解消するというのが主な仕事である。
この目に見えない事象を具現化するための橋渡し役がバイクフィッターの仕事であり、いかに綺麗に整頓するかがフィッターの腕の見せ所だと、ぼくは思っています。
きっかけ
2016年、北海道のニセコで、とあるバイクブランドの輸入代理店マネージャーになったのが、そもそもの始まりでした。
フランスに自転車留学をしたのち、一時期自転車から離れていた僕は、この出来事がきっかけで、再び自転車を乗ることになりました。
どうせまた乗るのなら、レースに出られるように練習も頑張ってみようと思っていましたし、新しいことに挑戦したいと考えていました。
大げさな言い方になりますが、自分なりのライディングスタイルを確立させようというつもりでした。
それはフィッティングだけでなく、短いトレーニング時間をいかに過ごすかということや、食生活に至るまで、おそらく他の社会人レーサーの方と同じようにどういうライフスタイルを送るのかという、まぁまぁ壮大なイメージからのスタートでした。
年齢や時間を重ねるごとに、自分自身が変わっていってしまうので、トレーニング方法や実施する内容は未だに修正の余地があって、確立と言えるほど確固たるものは生み出せていません。これは今でも研究中です。
もちろんセオリーはありますが、気分や感触などの感覚的な部分は共有できにくく、オリジナルを確立したとまでは言いにくいところがあります。
ですがフィッティングに関しては、体格や機材面で固定されている条件が多く、客観的な検証が可能だったので、論理的に進めることができました。
僕にとってのフィッティングを考え始める前に、僕がお手本としていたポジションの考え方は以下。
・サドルの高さは踵をペダルに乗せて脚がピンと伸びきる長さで
・裏ももを使うためにはサドルは後ろへ
・ハンドルに手は添えるだけでできるだけ体重をかけない
・ブラケットは強く握ってはいけない
・上半身はボールを抱えるように丸く
本当に初期に仕入れた情報は大雑把に書くとこんな感じだったと思います。
どれも今となっては根拠も書けないほどです。
その当時もしっかりと納得できたわけではありませんでしたが、自分自身で試す以外に方法はありませんでしたし、正誤の判定をお願いできる人を見つけることもできませんでした。
もともと、自信も何もないままに自己流を採用するしかなかったので、否定されるのも怖くて、かといって認めてくれても、その判断に懐疑的になってしまうというネガティブな考えに陥ってしまい、正確な判断をするまでにとても長い時間を要してしまいました。
雑誌や本の受け売りそのものだったと記憶しています。
ポジションにも流行りがあるようなので、最近の雑誌では全然違う内容が記されていると思いますし、最近ではそのようなフォームで乗っている方は絶滅危惧種になっているような気がしますが。
とにかく、高く低く遠くという三拍子がレーサーの基本のような感じだったと思います。
ゆっくり走るならサドルが低く、速く走るなら高く、といった具合です。
(昔のポジションについては、遡って確認できる雑誌も手元になくなってしまったので記憶だけを頼りに書いています。)
今までのようにやっても結果は同じだろうし、せっかくなので自分にとって新しいことをやってみようという気持ちで、今までの正反対のことをやるつもりでほとんど全てを始めました。
感覚としては、上限の限界というより、一番楽な、なおかつ速く、気持ちよく、とても欲張りに下限の限界を探していきました。
もちろん感覚的にこの方向だろうという勘のようなものがあった上で、できるところまで振り切ってみようという思いです。
そして何かがブレークスルーになり、この欲張りな希望を全て叶えてくれる法則がきっとあるはずだと信じて、始めたのでした。
ちなみにですが、ポジションは体の使い方だけではなく、機材の扱い方なども関連していると僕は考えているので、バイクの変化・進化と合わせて、理想のポジションやポジションの作り方は今後も変化していくと思います。
体の構造が変化していかない限り、ここからドラスティックに変化していくとはそれほど考えられませんが。
今までの反対に挑戦したことによって、普遍性や汎用性に気づくことができ、いわゆる「自己流」フィッティングから抜け出すことができたと思っています。
同時期に、いわゆるバイクフィッティングの基本となる知識を改めて学びなおしたので、「自己流」を抜け出したフィッティングは結果として、僕自身だけでなく、
汎用可能なものとして僕の頭の中で体系化されることになりました。
ただし、この文章自体はフィッティングマニュアルではありません。
フィッティングのプロセスを楽しんで、それぞれの方がご自身にとっての虎の巻を作っていってくれることを願っています。
基本のポジションやポジション出しを進めていくには、ポジションに対しての前提条件や、そのポジション決定の根拠として何があるのか、それらを理解し、自分自身に落とし込んでいく必要があります。
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